第33話 探索!新緑の楽園

 現れたのは樹皮の様な色の節くれだった鋭く大きな角を持つ鹿型の魔物。


 ブランチディアだ。


 立て続けに三体が飛び出してきた。


「≪鑑定≫ブランチディアだ! 土魔法に注意!」


 ちょっとだけ読み取れる量が増えた鑑定で得た情報を共有する。


「≪タウント≫!」


 てっちゃんが注目を集めて突撃して来た一体目を盾で受け流して、二体目を躱し、すれ違いざまに切りつける。


 三体目には壁尻さんの≪チェーンバインド≫。


 躱された。


 お返しとばかりに≪アースボール≫が放たれる。


 狙いは壁尻さん。


 マズい! 壁尻さんは≪チェーンバインド≫を発動した硬直で動けない。


「≪短距離転移≫!」


 転移で射線に割り込む。


 ぶつかる≪アースボール≫。


 痛い。


 ローブのお陰で無事だけど、やっぱり痛いよ。


 膝をつきそうになりながら、壁尻さんの前から体をずらして射線を空ける。


 壁尻さんの≪カオスボール≫。


 今度は当たった。


 ひるんだ相手に僕も魔法を放つ。


「≪ファイアアロー≫!!」


 一体仕留めた!


 少し離れたところでてっちゃんが最初に受け流した一体をわん太郎が引き倒して噛みついた。


 あと一体。


「≪ヘヴィスラッシュ≫!」


 てっちゃんのスキルが決まって最後の一体も力尽きた。


 戦闘終了。


「いたた……≪ライトヒール≫」


 魔法で痛みを癒していると壁尻さんが猛烈に尻スリしてきた。


「大丈夫だよ。心配させちゃったかな?」


 ぷりぷり。


「バインドを躱されたのを気にしてるの?」


 ぷりん。


 壁尻さんがしょんぼり落ち込んじゃってる。


「気にしなくていいよ。誰かがミスしても助け合うのがパーティなんだから。そうだろ?」


 ぷりん……ぷりん!


「次は絶対当てる? そうだね! その意気だよ!」


 ちょっと浮上した壁尻さんをもみもみなでなで。


「怪我はない?」


「大丈夫! やっぱり新装備いいね。アースボールくらいなら直撃してもちょっと痛いくらいで済んじゃうよ」


「過信しすぎて怪我しちゃだめだよ?」


「わかってる。てっちゃんはどう?」


「いい感じ。重さもあまり感じないし、思ったより動きやすいよ」


「そりゃよかった」


 新装備の調子を軽く確認してから僕らは探索を再開した。




 ここ≪新緑の楽園≫には多種多様な魔物が出現する。


 ブランチディアの他にもコケまみれの猪・モスファンゴや小さな狐型のいたずらフォックス、つのうさぎ。


 他にも虫型や鳥型、植物型なんかも色々いるらしい。


 多すぎる上に定期的にそれまで出現報告のなかった魔物が出現するようになったりして管理局でも把握しきれてないんだとか。


 ちなみに、これだけ様々な魔物がいる上に周囲は一面の森なのにトレントさんは出てこない。


 大迷宮四階層のトレントさんはこっちに引っ越してくるべきだよ。





 二つ目の目印はトーテムポールの様な木像だった。


 ここで少し休憩をいれることにした。


 てっちゃんとわん太郎に警戒を任せっぱなしだったからね。


 ここにたどり着くまでの戦闘で僕のメインジョブ空間魔術師がレベル三に、サブのセージがレベル六にまであがった。


 メインよりサブの方がレベルがあがっているのはやっぱり特殊ジョブと基本ジョブではそれだけ必要経験値に違いがあるからだろう。


 休憩中に後回しにしていたセージのスキルとアビリティを取得してしまう。


 セージの新スキルは敵の急所を赤い光点で示す≪アナライズ:バイタルスポット≫。


 アビリティは鑑定の機能を拡張する≪鑑定オプション:〇〇≫ってのがたくさんあって何を取るかすごく迷った。


 折角≪新緑の楽園≫に来てるんだし、ここで使えそうなものないかなって探してたらいいものを見つけた。


 ≪鑑定オプション:食用判定≫だ。


 試しに近くに生えているキノコを鑑定してみた。


『くさテングダゲ 食用不可。一口齧ると横隔膜が異常な痙攣を起こし死に至る猛毒キノコ』


 怖っ!


 くさテングダケの『くさ』ってネットスラングの『草』かよっ!


 こんな危ないキノコがそこらに生えているなんて……。


 やっぱりキノコの採取はちゃんと知識がないと危険なんだね。


 僕の中で≪食用判定≫が神アビリティに一気に昇格しちゃったよ。





 休憩を終えてさらに先へ進む。


 時折現れる魔物を倒しながら進んでいると、ようやく僕の≪鑑定≫がお目当てのものを発見した。


『ベルベリー 食用可。ダンジョン固有のベリー。甘酸っぱくて瑞々しい、森の動物たちに人気のおやつ』


「見ててっちゃん! ベリーがあるよ! 採って行こうよ!」


「た、食べられるのかな?」


「大丈夫! ちょっと食べてみる?」


 一つ摘んで口に放り込む。


 あ、甘酸っぱい~!!


 イチゴの味を濃縮して酸味を強めた感じ?


 とにかく、お~いし~い!!


「す、すっぱ!!」


「てっちゃんはすっぱいの苦手?」


「ちょっとだけね。でも美味しいね。さっきの休憩でこれがあればよかったのに」


「そうだね。次の休憩用にいっぱい摘んどこうか」


 茂みから摘めるだけ摘むと両手に山盛りの量になった。


「わん太郎、それっ!」


 摘んだベリーを一つわん太郎に投げてやるとぱくんとキャッチしてご満悦そうだ。


「おいしい?」


 わふん。


「次の休憩まで我慢だよ」


 隣では壁尻さんが羨ましそうにぷりぷりしてる。


 壁尻さんも食べれたらよかったんだけどね。


 マーガレットさんモードでも口枷が邪魔で食べさせてあげられないよ。




「あ、てっちゃん、あの木! ヤマモモだ!」


 再度足を進めて少し行ったところで次の果物を見つけた。


『ヤマモモ 食用可。ダンジョンの魔力を豊富に含んで地上のものより味が良い』


「うわぁ! いっぱい生ってるよ」


 見上げる木にはたくさんのヤマモモの実がついている。


「どうやってとろうか。僕は鎧が邪魔で木登りは出来そうにないよ?」


「う~ん、僕は木登り出来ないしなぁ。ゆすって落とす? 実が潰れちゃわないかな?」


 どうしよっか。


 あ、そうだ!


「てっちゃん、僕が≪短距離転移≫で登ってみるよ」


 出来るだけ太い枝の上を狙って≪短距離転移≫でジャンプする。


「うわっ、と、と、と……」


 着地の瞬間に後ろにのけぞってそのまま落ちそうになった。


 幹にしがみついてなんとか落下は回避。


 危なかった……。


 落ちないように慎重に枝を掴みながら移動して実を摘んでいく。


 一つつまみ食いしちゃおう。


 うん! 美味!


 たくさん摘んで帰ろう!


 用意した袋がパンパンになるまで採取してから転移で地上に戻った。


「おまたせ! はい、てっちゃんも一つどうぞ。わん太郎もほら!」


 ぷりぷり!


「壁尻さんは食べれないでしょ?」


 ぷりん!


 壁尻さんはわざわざ上半身を出してまで食べたいとアピールしてくる。


 困ったな。


「マーガレットさんモードになっても口枷が邪魔でしょ?」


 かしゃん。


 そんな乾いた音とともに口元を覆っていた金属の枷が外れて地面に落ちた。


 露わになるマーガレットさんの口元。


 思った通りの美人さんだなぁ。


 って! そうじゃなくて!


「マーガレットさん!? 口枷外せたの!?」


「あ~ん」


 今はヤマモモより大事なことがあるでしょ!


「封印されてるんじゃなかったの!?」


「あ~ん」


 ええい!


 マーガレットさんはヤマモモに夢中で僕の質問に答えてくれない。


 しょうがない、先にヤマモモをあげちゃおう。


 口の中に数粒放り込むと、もちゃもちゃごくんと食べてしまった。


 で、そのまま口元を再封印する口枷。


 いやいやいやいや!


 再封印されちゃうんか~い!!


「マーガレットさん?」


 ジト目で睨むとそっぽを向いてそのまま壁尻さんモードに戻ってしまった。


「口枷は自分で外せるの?」


 ぷりん!


「気張ったらできた?」


 ぷりん。


「疲れるからおやつのときだけ?」


 ぷりん!


「嘘ついてない?」


 ぷりん! ぷりん!


「ま、いいけどね。これからは壁尻さんの分のおやつも用意しないとだね?」


 ぷりん!


「ご飯はたべないの?」


 ぷりん!


「ステーキのときだけ? 何だよそれ、ずるくない?」


 ぷりぷりぷりぷり。


 好き嫌いはダメですよ。壁尻さん。

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