第30話 壁尻さんは特撮ヒーロー属性

 火曜日。


 今日は大迷宮の四階層に挑む。


 この前の黄金郷でメタルなスライムを乱獲したおかげで、僕らは五階層までの推奨レベルをぶっちぎってしまった。


 なので四階層と五階層はそのまま通り抜けてもよかったんだけど、折角なので火曜と木曜で一日ずつ探索することにしたのだ。


 というわけで四階層。


 出現する魔物はゴブリンシーフとマッドドール、それとトレントだ。


 マッドドールは泥が固まって出来た人形型の魔物。


 僕らには関係ないけどパペッターのジョブ持ちなら使役可能だ。


 ≪さそうおどり≫で妨害してくるのが面倒だけど、それ以外は大して強くない。


 そしてトレント。


 本来は木に紛れて潜み、無警戒に近づいてきた相手を奇襲する危険な魔物なんだけど……。


「エコーコヨーテはトレントに謝るべきだよね」


「こ、これはかわいそうだ」


 関東大迷宮の四階層はお馴染みの迷宮型で。


 周りに木なんか生えてないからどこにトレントがいるか丸わかりなんだよね。


 専用の通路まであるエコーコヨーテとの扱いの差が酷すぎるよ。




 そんな四階層の探索中に壁尻さんの美女モードをてっちゃんにお披露目した。


 てっちゃんは最初、マーガレットさんのセクシーな姿にあうあうしてたけど、すぐに深呼吸して気を持ち直すとこう言った。


「ちょっとビックリしたけど、マーガレットさんはどんな姿でもマーガレットさんだもんね。ぼ、僕たちの大事な仲間であることには変わりないよね」


 やっぱりてっちゃんは凄い奴だなぁ。


 マーガレットさんの姿に狼狽えてた僕とは大違いだよ。


 マーガレットさんも嬉しそうにくねくねしてる。


 感心してる僕の耳元でてっちゃんがこっそり囁いた。


「すごくえっちだよね。ちらちら見すぎてバレちゃわないか心配だよ」


 むっつりなだけじゃないか!


 僕の感動を返せ!





 そのまま四層で壁尻さんの新スキル≪カオスブラスター≫の試し打ちをしてみることにした。


 試し打ちの相手は、さっきから一生懸命木になりきってるトレントくん。


 玄室内の他の魔物を片付けてもなお動かない彼に実験台になっていただきましょう。


「マーガレットさん! ≪カオスブラスター≫だ!!」


 マーガレットさんがスキルを発動すると、体の前に巨大な魔法陣が出現した。


 魔法陣の内部に描かれる紋様がくるくると回る。


 やがてその前に二枚目、三枚目の魔法陣が現れた。


 三枚の魔法陣が共鳴するように光り輝く!


 全ての光が一枚目の魔法陣に収束されて、黒く輝く球体が発生した。


 赤い稲光を纏いながら黒い球体は小さく、小さく圧縮されていき——。


 放たれた!


 魔法陣の中央、圧縮された黒い球体から同じ色の極太ビームが放たれる!


——ドガアアアァァァァァァン!!


 大爆発だ!


 あたり一面を土煙が舞う。


 煙が晴れたとき、そこにいたはずのトレントは根元を三分の一ほど残して消滅していた。


「す、すごい……」


 とんでもない威力だ!


 発射までに三分くらい時間がかかるのがネックだけど、補ってあまりある強さだ。


 マーガレットさんはぐでっと疲れた様子で地面に潜っていき、壁尻さんモードに戻ってしまった。


「疲れちゃった?」


 ぷりん。


「クールタイム中? しばらく使えないの?」


 ぷりぷり、ぷりん?


「普通のスキルも使えない?」


 ステータスを確認すると、壁尻さんの全ての能力に【封印中】という表示がでていた。


「こんなデメリットがあるなんて。これってどれくらい続くのかな?」


 ぷりん?


「一日くらい? なんだそんなものか。ならここぞという時には使って大丈夫そうだね」


 ぷりん!


「ふふ、壁尻さんは最強だね」


「な、なんか特撮ヒーローみたいだよね」


「ああ! 使うとエネルギー切れで変身が解けちゃうみたいな?」


「そうそう」


 たしかに。


 マーガレットさんモードも解除されちゃうみたいだしね。




 その後は適当に魔物を狩りながら僕のメインジョブ、空間魔術師のスキルを試していた。


 空間魔術師が最初から使えるスキルは≪短距離転移≫。


 視界の範囲内で大体十メートル以内の範囲に転移することができる。


 色々出来そうなスキルだけど、難点は転移の瞬間に乗り物酔いみたいになってしまうこと。


 慣れるまで大変そうだ。


 そんな感じですごしていつもの時間がきたので、帰還する。


「てっちゃんはもう銀行口座確認した?」


「したした。大金が振り込まれてて通帳を持つ手が震えちゃったよ」


 この前の金塊の代金が今日振り込まれていたのだ。


 金額は九百万円ほど。


 僕らのような高校生には目玉が飛び出るほどの大金だ。


「折角だから両親に何か贈り物したいな。あ、旅行とかつれてってあげるのもいいかも!」


「親孝行は大事だね。でもその前に——」


「装備を整えなきゃ。だよね?」


「うん。紫さんに相談してみよう」


 というわけで買い取り窓口。


 他の買い取り希望の探索者がはけるのをまってから紫さんに声をかける。


「紫さん! 装備を買いたいんで相談にのってください!」


「いらっしゃい。はいどうぞ。そういうと思って用意しておいたわよ」


 渡されたのはダンジョン管理局のオフィシャルショップのカタログ。


 僕とてっちゃんにそれぞれ一部ずつ。


 何か所か付箋が貼ってあって、『おススメ』『これは必須!』『できれば持っておくとヨシ』と中の商品に手書きのコメントを付けてくれている。


 すごいです。


 きめ細やかな気遣いに感動です。


 さすがは僕たちの紫さんだ!


「あなたたちのレベルだとまだオーダーメイドの必要はないから、印をつけてるものの中から選ぶといいわ。詳しい説明を聞きたいなら応接室に移動するけど、どうする?」


 もちろん僕らは迷わず答えた。


「「よろしくお願いします!!」」


 結局、僕もてっちゃんも上から下まで全部紫さんに見立てて貰っちゃった。

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