第26話 黄金郷のリザルト!
ゲートを潜り抜けて、無事に元の玄室へと戻って来た。
迷宮型マップの玄室なんてどこも同じような造りで見分けはつかないけど、なんとなく元居た部屋な気がする。
振り返るとゲートは消えていた。
壁面のレリーフも無くなっていて、他と変わらないただの壁になっている。
あの黄金郷での出来事は、実は全部夢だったんじゃないかと不安になるけど、リュックの中の金塊の重みがその不安を否定してくれる。
「帰ろっか」
すっかり気が抜けて、今はもう探索する気になれない。
ジョブもカンストしてるから、転職しないといけないしね。
脱出結晶を割ってダンジョンから帰還する。
「あら、今日は早いのね」
「うん、ちょっと色々ありまして」
いつものお姉さんに応えながら魔石とドロップアイテムを提出していく。
「三階層に行ってきたのね。手ごたえはどうだった?」
「ええ、まあ、はい、それはバッチリだったんですけど。これもお願いします」
ごとごとごとん、と金のインゴットをカウンターに並べる。
お姉さんはそれを眺めてしばし呆けたあと、真剣な表情に切り替え圧を放った。
「すぐにしまいなさい! はやくっ!」
目の前にいる僕らにしか聞こえない小声で、でも叫ぶようにそう言う。
気圧されながら言う通りにすると、お姉さんは別の職員を呼び寄せ小声で何かやり取りしてから席を立った。
そして僕らに向けてこう告げる。
「応接室に行くわよ。着いて来なさい」
ダンジョン管理局の応接室。
問題を起こす不良探索者が呼び出されてはお説教されることから、ついた別名が『お説教部屋』。
えっ? 僕らお説教されちゃうの?
僕らはおどおどしながらお姉さんのあとをとぼとぼと歩いた。
「お説教じゃないから安心しなさい」
応接室のソファに座る僕らがあまりにもビクついていたのか、お姉さんは苦笑を漏らしてそう言った。
「そう言えば名乗ったことが無かったわね。私は柴田 紫(しばた ゆかり)よ。名前で呼んでね。はいこれ名刺」
柴田紫。字面が凄い——。
「冗談みたいな名前だけど本名よ」
コクコクと頷く。
「あ、僕は沢山孝太郎です」
「ぼ、僕は佐伯鉄平です」
「ふふ、知ってるわよ。それで、あの金塊のことなんだけど、どうやって入手したのか話して貰えないかしら?」
えっと?
「ダンジョンのことは未だに分からない事だらけでしょ? 管理局としてはなるべく情報を得ておきたいのよ」
どうしよう。
てっちゃんと目だけで相談する。
言っても大丈夫かな?
マジックバッグはマズいよね?
あの宝箱のことも。
財宝の部屋のことだけは秘密にしとこっか。
そうだね、そうしよう。
「えっと、まず三階層の探索中に変な石板の欠片をドロップして——」
石板を見つけたところから、壁のレリーフ、開いたゲート、黄金郷とその攻略を終えるまでを、財宝の部屋だけ秘密にして全部話した。
紫さんは真剣な表情で時折メモをとりながら僕らの話を聞いている。
「なるほどね。もう他に話すことはないかしら? 例えば入手したアイテムのこととか?」
盛大に泳ぎ始める僕とてっちゃんの目。
冷や汗を掻く僕らを見て、紫さんが妖しく笑う。
や、ヤバい。マジックバッグがバレちゃう。
そ、そうだ!
「クリスタル! ジョブクリスタルを拾いました! もう使っちゃいましたけど!」
もう使っちゃったアイテムなら言ってもいいよね?
「ジョブクリスタル!!」
そう思ったんだけど、紫さんの反応は全然違った。
目を剥いて思わずといった様子で机に手をついて立ち上がる。
「使ったの!? 解放されたジョブは? いえ、待って! 言っちゃダメよ!」
ソファに倒れ込むように深く腰掛けて天を仰ぐ。
「あなたたちはダンジョンに愛されてるのね」
深~くため息を吐いたあと、紫さんはそう言った。
「ダンジョンに愛される?」
「時々いるのよ、普通の探索者が十年以上潜り続けても出会えない幸運に何度も出くわしちゃう人が。管理局じゃそういう人のことを『ダンジョンに愛されてる』とか『ダンジョンに誘われてる』とか言うのよ」
「こ、孝ちゃんみたいだね」
「そうかな?」
「そうよ! そもそもシャドウファングをテイム出来る初心者なんてダンジョンに愛されてるとしか言いようがないじゃない! シャドウファングといえばプロの探索者ですら死神扱いする人もいるのよ? あなたが初心者装備でシャドウファングなんて連れてきたせいで管理局は大騒ぎになってたのよ?」
そ、それは大変申し訳なく。
ほら、わん太郎も出てきて謝って。
影から出てきたわん太郎は紫さんに威圧されてがたがた震えながら尻尾を股の下にはさんじゃった。
わん太郎がこんなに怯えるなんて、もしかして紫さんって凄腕の探索者?
「学生時代にちょっと、ね。一応プロライセンスももってるわよ」
怯えるわん太郎に毒気を抜かれたのか、威圧を解いた。
「んー、よし! ちょっと書類取って来るから、そのままここで待っててちょうだい」
そう言い残して部屋から出て行っちゃった。
書類の束を持って紫さんは戻って来た。
「孝太郎くん、鉄平くん。二人にお姉さんから提案があります」
改まった様子で紫さんは数枚で一組の書類を一部ずつ僕らに差し出した。
『専属サポーター業務契約書』と書かれた書類。
「管理局の職員は自分の好きな探索者に『専属サポーター契約』を提案することができるの。この提案を受けたときに探索者が得られるメリットは、まずダンジョンに関する鮮度の高い情報を専属職員から得られること。攻略の相談にも乗ってもらえるわ。それに専属職員の手腕がよければ企業からの依頼やパーティメンバーの斡旋なんかも優先してもらえるわね。そして、これがあなたたちには一番重要なんだけど、ダンジョンで得たアイテムの直接売買や管理局を通さない直接依頼なんか申し出への対応やトラブルが起きた際の対処なんかをダンジョン管理局の後ろ盾を持つ専属職員に肩代わりしてもらえるの。つまり専属職員を通してダンジョン管理局の後ろ盾を得られるってことかしらね。あとは必要に応じて管理局が推薦する優秀な弁護士や病院、税理士なんかを紹介してもらえるってところね。デメリットは専属職員を通してある程度自分の情報が管理局に筒抜けになっちゃうこと。それからどうしても専属職員の能力や人間性によってはリスクを抱えてしまう点かな」
えっと、そんなお得な契約を僕らと交わしてくれるの? 紫さんが?
「もちろん職員側にもメリットはあるわよ。まず契約した探索者の買い取り手数料十パーセントのうち一パーセントが専属職員の収入になるの。これはよほど稼げる探索者の専属にならなければそこまで大した金額にはならないんだけどね。それから鑑定持ちの職員だった場合は鑑定手数料が丸まる懐に入るわね。手数料は専属相手だと直接交渉で決められるから値引きもできるわよ。もちろん私も鑑定持ちね。それと、契約した探索者の承諾があれば勤務時間内でも探索者の準パーティメンバーとしてダンジョンに潜れるわ。あ・と・は、契約相手と公私ともに親しくなってそのままゴールインする可能性が高くなるってことかな」
最後にうっふん、とウインクされちゃった。
あうあう。
「専属サポーター契約についてはこんなところかしら。一気に説明しちゃったけど大丈夫? 分からない事や疑問点があれば遠慮なく聞いてね?」
「大丈夫です」
「ぼ、僕も」
よろしい、と紫さんは笑った。
「それじゃあ本題ね。本来はプロライセンスを取得している人に向けた契約なんだけど、ダンジョン管理局としては『ダンジョンに愛されている』将来有望な探索者さんを保護したいと思っているの」
まあ、本当にそう思ってるとは証明できないから信用してもらうしかねいんだけどね、と紫さんは苦笑する。
「私としても二人に専属契約を受けて貰えると安心できるわ。鉄平くんは歳の割に落ち着いてるけど、それでもまだ子どもでしょ? 孝太郎くんはなんていうか、浮世離れしたところがあるし」
「え? 浮世離れなんてしてないよ? ちゃんと地に足つけてるよ!」
僕の抗弁にてっちゃんと紫さんは顔を見合わせて苦笑する。
なんでだぁ!
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