第25話 黄金郷・金貨袋の扉

 色々あったけど、僕らは財宝の部屋をあとにして最後の金貨袋の部屋を目指すことにする。


 財宝の部屋を出る時に最後にもう一度部屋の中を見て置こうと振り返って、僕は気付いてしまった。


 通常、ダンジョンの宝箱は中身を取り出すと消える。


 なのにあの豪華な宝箱は未だに健在なのだ。


「ねえてっちゃん? あの宝箱ってマジックバッグに入れられないかな?」


 それほど大きくない箱だけど、純金製ならそれなりの重さで持ち運ぶのは難しい。


 でも、マジックバッグなら?


「や、やってみよう」


 僕らは足早に祭壇に戻って思い付きを試してみた。


「は、入った」


「入っちゃったね」


 あは、あははと笑う。


 笑うしかない。


 一体換金したらいくらになるんだろう。


 ちょっと想像もつかない。


「でもマジックバッグの存在がバレちゃうから換金は無理だね」


「へ、部屋に飾ろうか」


「そこだけすんごい成金趣味になっちゃうね」


 うへへ、あはは、とだらしなく笑う。


 今日一日で大金持ちになっちゃったよ。





 今度こそ財宝の部屋を出て金貨袋の部屋に入る。


 金貨袋の部屋は他の二部屋より広い、円形の闘技場のようになっていた。


 その中央に鎮座する僕らの身の丈の倍はあろうかという大きな魔物。


 ゴールデンゴーレムだ!


 まさかここにきて魔物と出くわすなんて。


 浮かれていた気持ちを引き締めなおそう。


 すぐに戦闘態勢を整える。


 てっちゃんはロングソードではなく反対に吊っているメイスを構えた。


 警戒しながら近づいて行くとゴーレムが動き出した!


「戦闘開始! ≪タウント≫抜きで、ヘイトはわん太郎に任せて! てっちゃんは攻撃優先で!」


 見た感じ鈍重なゴーレムが相手なら盾で受け止めるより回避の方が安全だ。


 ゴーレムが両手を組んで地面にたたきつける。


 地面伝いに衝撃波が飛んできた。


 デストロイヤーが使うスキル≪パワーウェイブ≫だ!


 僕らは左右に飛びのいて射線から逃れる。


 わん太郎が≪影潜り≫でゴーレムの足元まで移動した。


 咆哮を上げる。ヘイトスキル≪ハウリング≫だ。


 ゴーレムの注意がわん太郎に向いた。


「てっちゃん、膝を狙って! 壁尻さんは≪チェーンシール≫! 効いてるようならそのまま維持で! ≪輪唱・ファイアボム≫!!」


 壁尻さんの≪チェーンシール≫がスキルを封じた。


 僕は覚えたばかりの魔法を前衛を巻き込まないように頭を狙って連射する!


「≪ウォークライ≫≪クラッシュスマイト≫!!」


 ゴーレムの足元にたどり着いたてっちゃんがゴインゴインと膝関節を痛めつける。


 嬉々としてメイスを振るうその姿は狂戦士みたいだ。


 わん太郎はゴーレムの注意を引きながらパンチを、キックを、ストンピングを躱し、合間に影魔法で攻撃している。


 やっぱりわん太郎は頼りになるなぁ。


 壁尻さんも頑張っている。


 ≪チェーンシール≫を維持しながら≪ダークキャノン≫でダメージを稼いでいく。


「おおおおおお!! ≪クラッシュスマイト≫ぉぉぉぉ!!」


 てっちゃんの一撃がゴールデンゴーレムの膝を砕いた!


 地面に倒れるゴーレム。


 チャンスだ!


「一斉攻撃! ≪輪唱・ファイアボム≫!!」


「≪クラッシュスマイト≫!」


 ぷりん! わふん!


 全員の攻撃がゴーレムに殺到する。


 ゴーレムは徐々にひび割れ、やがて砕けた。


「戦闘終了!」


 砕けたゴーレムの欠片が消え、あとにはドロップアイテムが残った。


「き、金だ! 金だよ、孝ちゃん!」


 一番近くにいたてっちゃんが真っ先にそれを確認して声を上げた。


 金のインゴットが六つ、ピラミッド型に積み重なっている。


 インゴット一つで五百グラムらしい。


 合計で三キロ。


 ご丁寧に表面に刻印されている。


 何十年か前に初めてダンジョンで金が発見されたときは随分と相場が荒れたらしい。


 でもダンジョンからの年間産出量があまりにも少なくて、今じゃすっかり落ち着いている。


 現在はグラムあたりだいたい八千円ってところ。


 それが三キロで二千四百万円。


 ダンジョン管理局の売買手数料十パーセントを差し引いて、そこからダンジョン探索の収入は三千万までは一律十パーセントの所得税がかかって。


「ひ、一人当たり一千万弱……」


「た、大金だ、ね」


 何がいいって、マジックバッグみたいに秘匿する必要がないってところ。


 僕らにとってはとんでもない大金だけど、一回限りの、美味しいダンジョンイベントに遭遇したとなればそれほど騒ぎにはならない。


 だから堂々と換金できるってわけだ。


「んへ、んへへへへへ……」


「うふ、ぬふふふふふ……」


 なんかこの場所に来てから気持ち悪い笑いばっかしてる気がするなぁ。


 でもしょうがないよね。


 こんなに美味しい思いをして浮かれるなって方が無理な話さ。


 僕らはニマニマと笑いながら黄金を回収するのであった。





 金貨袋の部屋から出ると、どこからともなく声が響いた。


『真に強欲なる者よ。

この地にすでに汝を満たすものなし。

今は疾く去れ。

正しき出口は石碑にあり。

再びこの地を訪れし時、新たな財貨が汝を歓迎するだろう』


 声が止むと同時に部屋の中央の石碑が地面に沈んでいき、代わりにゲートが出現した。


「ね、これって僕らの推理が正解だったってことかな?」


「こ、この声が嘘を言ってなければ、そういうことだよね」


 拳を突き合わせてニッと笑う。


 壁尻さんに尻タッチして、わん太郎をモフモフして、僕らは喜びを爆発させた。





 ひとしきり戯れた僕たちは、石碑があった場所に出現したゲートに飛び込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る