第23話 黄金郷・力の扉

 ゲートを抜けたその先は、一面金色だった。


「成金趣味だ……」


 床も、壁も、天井もあたり一面金ぴかで、なんとなく下品ですらある。


 金ぴかであることには他に特徴のない普通の玄室だ。


 正面に扉が一つ。


 扉の上には大きな看板がかかっていて、何か文章が刻まれているようだ。


 後ろには先ほど入ってきたゲートがそのまま残ってる。


 退路はある。


 てっちゃんに視線を送って罠の有無を確認すると、首を振っている。


 罠も、なしと。


「こ、この床とか壁とか剥がせたら大金持ちになれたのにね」


 ダンジョンの壁や床は壊してもすぐに修復されて、欠片は空気に溶けて消えるからね。


 壁尻さんとわん太郎はすっかり警戒を解いて遊び始めてしまった。


 くっ、金ぴかの床をお尻と狼の生首が泳ぎまわってるのを見てると気が抜けちゃう。


 てっちゃんもくっくっと笑ってる。


「とりあえず看板を確認しよっか」


 正面の看板が読める位置まで近づいてみる。


 看板には文字が書かれているけど、その文字は地球上のどの文明にも属さない未知の文字だ。


 けれども、何故か意味だけは理解できる。


 不思議な、不思議なダンジョン文字だ。


 こう書かれていた。


『忘れられし楽園。欲望の都。輝ける黄金郷。この地エルドラド。

欲を満たせ。渇きを癒せ。欲するすべてに手を伸ばせ。

汝の名は強欲なり。


この地においては過ぎたる清貧こそ罪悪と知れ』


 どういう意味だろう?


「どう思う?」


「こ、このマップのフレーバーテキストかな?」


 ふむむ、雰囲気を出すための演出か。


 その可能性もあるよね。


「とりあえず先に進んでみよっか」


 扉を開いてみる。


 その先は金ぴかの真っ直ぐな廊下になっていて、突き当りにまた扉がある。


 廊下の先の扉をくぐると、また金ぴかルームだった。


 さっきの部屋との違いは扉が正面と左右の三か所にあるのと、部屋の中央に石碑が置かれていること。


 てっちゃんの罠チェックが終わったので石碑に近づいてみる。


 石碑にはダンジョン文字でこう書かれていた。


『左は力。右は財宝。正面には金貨の袋。

選ぶもよし。選ばず退くもよし。全てを求める強欲もまたよし。


汝の名に忠実たれ』


 ふぬぬ、また謎ポエムだ。


 石碑には扉の方向にあわせて三本のカギがささっている。


「どれか一つを選べってことかな?」


「こ、こういうのって昔話だと何も選ばないのが正解だったりするよね」


「欲張って全部選ぶとお仕置きされちゃったり? 確かにちょっと罠っぽいよね」


「そ、そうそう。このまま戻るのが正解かもしれない」


 ぷりん?


「どうしたの壁尻さん? さっきの部屋に遠慮するなって書かれてた? どういうこと?」


 ぷりん。


 さっきの部屋の看板。


『この地においては過ぎたる清貧こそ罪悪と知れ』


 これが遠慮するなって意味?


 そう言われるとそう読めなくもないかな?


 あ、そうだ!


 さっきの看板にはこう書かれていた。


『汝の名は強欲なり』


 で、こっちの石碑にはこうだ。


『汝の名に忠実たれ』


 これって強欲になることが正解ってことなんじゃない?


 だったら『全てを求める強欲もまたよし』だから、三部屋とも回るのが正解だ!


「てっちゃん、これ全部選ぶのが正解だ!」


 僕の推理にてっちゃんも同意してくれた。


 僕は強欲。全てを選ぶ。


 そう念じながら三本の鍵を全て石碑から引き抜く。


 ————何も起きない。


「大丈夫、かな?」


「い、今のところは?」


 とりあえず、扉の先に進んでみよう。





 最初に開いたのは、石碑には力と記されていた左の扉。


 そこにはあたり一面にスライムがうごめいていた。


「これってアレだよね?」


 ただし、そのスライムは銀色に輝いている。


 RPGでお馴染みの経験値モンスター。


 メタルなスライムだ!


「ど、ど、ど、どうしようてっちゃん? 魔法って効くのかな?」


「い、一回試してみよう!」


 ≪ファイアアロー≫を放つ!


 メタルなスライムにヒットして——倒した!


 レベルがあがった! それも一気に三つも!


「めっちゃレベルがあがる! てっちゃん! 壁尻さん! 乱獲だ! わん太郎は僕らの分まで取り過ぎないように注意してね!」


 魔物の群れに襲い掛かった!


「アヒッ! ウハッ! アハハハハハハ!!」


「フヒッ! フヒヒッ! フハハハハハハハハ!!」


 ぷりん! ぷりぷり! ぷりりん! ぷりん!


 レベルが上がる。レベルが上がる。どんどん上がっていく。


 あまりの爽快感に脳内麻薬がドバドバだ!


「こっちはカンストしたよ!」


「こっちも! サブもメインもあげ切ったよ!」


 ぷりん!


「壁尻さんもカンストした? よし、わん太郎フィニッシュだ!!」


 わっふん!


 あげられるだけのレベルをあげ切り、残った経験値さんをわん太郎が一人で平らげる。





 ステータスの表記をみてニマニマする。


 ジョブの欄の『魔法使い』と『テイマー』の表記の横に星マークがついている。


 これがレベルを最大まであげてジョブをマスターした証だ。


 取得したスキルとアビリティは多すぎるので割愛しておこう。


 特筆すべきスキルはテイマーレベル四十で自動取得される≪蘇生≫とレベル五十で自動取得の≪進化解放≫だ。


 ≪蘇生≫は読んで字の如く、テイムモンスターが万が一死んでも復活させられるスキル。


 一度使うと一週間ほど使用不可となるのでそこだけ注意が必要だ。


 それと、≪進化解放≫。


 このスキルはレベルがカンストしたテイムモンスターを上位の種族に進化させるスキルだ。


 さっそくカンストした壁尻さんを進化させちゃおう。


 どんな姿になるのかな? 楽しみだ!


 あ、その前に壁尻さんのステータスを確認しておこう。


 レベルはちゃんと五十になってる。


 種族は相変わらず読めないけど、種族を示す文字の横に星マークがちゃんとついてるね。


 これが進化可能になった証だ。


 それからスキル。


 闇と風の魔法がいくつか使える様になってる。


 気になったのは≪カオスボール≫という魔法。


 カオスってことは混沌? 聞いたことがないけどもしかして希少属性かな?


 だとしたら一番弱いボール魔法だけど期待できちゃうかも。


 ステータスチェックおしまい!


 さあ、壁尻さんの新しい姿のお披露目だ!!


「いくよ、壁尻さん。≪進化解放≫!! ————あれ?」


 何もおきない。


 どういうことだろう?


「壁尻さん?」


 ぷりん?


 壁尻さんもよくわかってないみたい。


 なんでだろうね?


 う~ん、探索中だし、一旦後回し!


 最後にわん太郎のレベルを確認しておく。


 わん太郎はテイムしたあとほとんど戦闘に参加してなかったからレベルは一のままだったんだけど、どれくらいあがったかな?


「レベル七?」


 えっと、わん太郎さん?


 僕らよりはちょっと少なかったけど、経験値モンスターたくさん倒したよね?


 僕らはサブジョブすら二十ちょっとから五十まであがったんだよ?


 上位種族になるほどレベルがあがりにくくなるらしいんだけどさ、君どんだけ上位の種族なの?




 もしかしたらわん太郎先生は僕らが思うよりもずっと凄い存在なのかもしれない。

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