十二月も探索三昧!

第21話 三階層はコヨーテパニック!

 僕とてっちゃんは三階層進出に向けてレベリングを行っていた。


 わん太郎というオーバーパワーな切り札を手に入れたけど、キャリーやパワーレベリングは僕らの本意ではなかった。


 別にパワーレベリングしたからって何か不利益が発生するわけじゃない。


 戦闘の経験がすくなくなるかもしれないけど、迷宮型のダンジョンでのレベリングはそもそもルーティンワークだ。


 多少手間を省いたところで何か変わる訳じゃない。


 でも、僕らはわん太郎によるパワーレベリングを拒否した。


 理由は単純。


 それじゃ面白くないからだ。


 僕らにとってダンジョン探索は趣味。


 先を急ぐ必要もないのだし、一番楽しめるやり方を採用したのだ。


 と言う訳で火木土の三日間で徹底的にレベリングした。


 サブとメインのジョブをちょくちょく入れ替えながら均等にレベルを上げていく。




 土曜の探索を終えた時点で、メインもサブもレベル二十になっていた。


 新たに覚えたスキルはまず魔法使いの≪光魔法Ⅱ≫。


 使えるようになったのは軽い毒や麻痺を治療する≪ライトキュア≫と、光属性はウォール系が存在しないので、代わりに魔法のダメージを軽減する≪ライトヴェール≫。


 テイマーは≪感覚共有≫のⅠとⅡを覚えた。


 短時間の間、Ⅰで視覚を、Ⅱで聴覚をテイムモンスターと共有できるスキルだ。


 アビリティは魔法使いが≪魔力感知≫、テイマーが≪耐性向上・光Ⅰ≫≪基礎能力向上Ⅰ≫だ。


 ≪魔力感知≫は魔法発動の予兆が分かるようになるアビリティ。


 ≪耐性向上≫≪基礎能力向上≫はテイムモンスターをほんの少しだけ永続的に強化するアビリティだ。


 光にしたのはわん太郎の影属性が光属性と聖属性に弱いから。




 てっちゃんの方も戦士と盗賊がレベル二十になっている。


 戦士のスキルは≪パワースラッシュ≫≪パワースマイト≫という攻撃スキルを取得。


 アビリティは≪不屈Ⅰ≫≪ソードマスタリーⅠ≫。


 ≪不屈Ⅰ≫は僕がお遊びでダンサーやってたときに使った≪さそうおどり≫のような行動を阻害するスキルにかかりにくくなるアビリティだ。


 それから盗賊のスキルで≪罠鑑定≫と≪フェイント≫、アビリティは≪バランスⅠ≫と≪ラッキールーターⅠ≫。


 大体見たままのスキルやアビリティだけど、ラッキールーターは魔物からのドロップ率を少し上昇させるアビリティだ。


 無いよりマシくらいの効果らしいけどね。




 壁尻さんも同じくレベル二十。


 ≪チェーンスマッシュ≫≪チェーンシール≫という二つのスキルを覚えた。


 スマッシュは鎖を呼び出して物理攻撃するスキルでシールの方はアビリティやスキル、魔法を封じるスキルだ。


 ≪チェーンバインド≫といい、鎖を使ったスキルを覚えていくけど、壁尻さんの正体は鎖が関係するのかな?


 まあ、そんな感じで僕らは成長した。


 僕らのレベリング中わん太郎はほったらかしだったけど、なんかいい感じにくつろいでいたのでよしとしよう。


 本当にのんびり屋だね、君は。




 そして迎えた日曜日。


 今日はいよいよ三階層だ。


 三階層に出現する魔物は二階層から引き続いてソルジャーアント、それからゴブリンシーフとエコーコヨーテ、ダンジョンガニの四種類。


 ゴブリンシーフはこん棒をダガーに持ち替えたゴブリンで少しすばしっこいのが特徴。


 エコーコヨーテはウルフより弱いんだけど、どんどん仲間を呼んでくるのでちょっと厄介。


 ダンジョンガニは雑魚。


 一応水魔法を使ってくるんだけど、威力も弱いし魔力が低すぎて一発撃つとしばらく撃てなくなるらしい。


 準備はバッチリ。魔物の情報も頭に入れた。


「それじゃあ行こうか!」


 僕らは新たな階層に足を踏み入れた。




 相変わらずの石造りの迷宮型マップ。


 代り映えしない階段部屋を抜けて代り映えしない通路を歩いて行く。


 ただ一つ二階層までと違う点は、壁の天井付近にところどころ穴が空いていること。


 何の穴だろう?


 そんなことを考えながら曲がり角を曲がった僕は、油断していた。


 曲がり角の先には待ち構えるようにして立つエコーコヨーテ。


 驚き固まる僕。


「キュオオオオオオオオオッ!!」


 エコーコヨーテが咆哮を上げた。


 一拍遅れてそこかしこから何匹ものエコーコヨーテの咆哮が響く。


 まさしくエコーのようだ。


「孝ちゃんしっかり! ≪ウォークライ≫うおおおおおおおおおお!!!」


 てっちゃんの雄たけびで正気を取り戻す。


 そうだ! 戦闘!


 てっちゃんとエコーコヨーテの間に僕がいるせいで邪魔になっている!


「てっちゃんごめん!」


 すぐにてっちゃんと位置取りを入れ替える。


 たくさんの気配が近付いてくるのがスキルがなくてもわかってしまう。


 クソ、しくじったな。


 周囲を警戒しながらコヨーテに魔法を放とうとして、それを見てしまった。


 僕が気を取られた天井付近の穴。


 そこから続々と飛び出してくるコヨーテたち。


 あの穴コヨーテの通路なのかよっ!


「てっちゃん、追加が来る! 後ろは僕が魔法で塞ぐから!! ≪ファイアウォール≫!」


「わかった! こっちは前に集中する! ≪タウント≫≪パワースラッシュ≫!!」


 炎の壁で通路を塞ぎながら飛び出してくる魔物にひたすら魔法を放つ。


「≪輪唱・ファイアアロー≫!! 壁尻さんはてっちゃんの援護だ!」


 壁尻さんはてっちゃんの横をすり抜けてくるコヨーテを≪チェーンスマッシュ≫で弾き飛ばしながら≪風弾≫や≪闇弾≫で追撃する。


 五体、六体と倒した数が増えていく。


 やがて倒した数が十五を超えたところで援軍が止んだ。


 残りの三体をそのまま倒して戦闘終了。


「あ、あぶなかった……。ごめんね。油断しちゃった」


 僕はしょんぼりと皆に謝罪する。


 完全に油断していた。


 最悪わん太郎がなんとかしてくれてたと思うけど、ハッキリ言って大失態だ。


 壁尻さんが僕に尻スリして慰めてくれる。


 うう、ごめんよ。


「珍しいね。な、何か気になることでもあった?」


「あの穴が気になっちゃってね。何の穴かなって。まさかエコーコヨーテが仲間を呼ぶための通路だったなんて」


 みんなで穴を見つめる。


「な、なんかコヨーテだけずるいよね」


「うん。ズルい」


 ぷりんぷりん! わふん!


 壁尻さんもわん太郎も同じ意見。


 エコーコヨーテを糾弾しながら歩き出した。




 僕の大失態はあったものの、それ以外は特に危険なこともなく探索は続く。


 何度か戦ってみてエコーコヨーテの仲間を呼ぶ行動はてっちゃんの≪ウォークライ≫を先に放つことでキャンセル出来ることが分かった。


 他の魔物にも対応できている。


 ゴブリンシーフはすばしっこいけど、アロー系の魔法なら十分当てられる速さだし、ダンジョンガニは本当に雑魚だった。


 何と言うか、魔法の準備を始めてから発動までが異常に遅くて、その間棒立ちだから発動するまでに倒せてしまう。


 一度わざと魔法を使わせてみたのだけど、僕の≪魔力感知≫が察知してから発動まで四十秒ほどかかっていた。


 この階層の推奨レベルまでレベリングしてきた僕らにとってはカモだ。


 ぷりん?


 カニなのに? とか言うんじゃありません。




 新しい玄室を見つけて飛び込む。


 中にはゴブリンシーフが四体。


 いつも通りにてっちゃんの≪タウント≫、壁尻さんの≪チェーンバインド≫で有利を作って≪ファイアアロー≫を輪唱する。


 最後の一体が倒れて魔石に変わったとき、見慣れぬものがドロップした。


「ねえ、てっちゃん。これなにかな?」


「せ、石板っぽいね。文字が書いてある。」


 なんだかよくわからない文字が書かれた石板の欠片。


「ゴブリンシーフのドロップアイテム? 買い取り表にはのってなかったよね?」


「見たことないな。ま、まあとりあえず持って帰ろう。もしかしたら窓口のお姉さんが何か知ってるかも」


「そうだね。帰りに聞いてみよっか」

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