第18話 上位で亜種で希少種で
シャドウファング。
ダンジョンウルフの上位種ファングウルフの亜種ブラックファングの希少種だ。
下位であるダンジョンウルフは亜種になると属性を帯び、その希少種になると属性に応じた魔法が使えるようになる。
では上位種であるファングウルフの場合はというと、亜種のブラックファングやレッドファングの段階で魔法が使える。
そして希少種ともなると、使う魔法が変わるのだ。稀少属性に。
シャドウファングは名前でわかる通り影属性。
影属性は存在がレアすぎてほとんどお目にかかる機会はないけど、『迷宮型や洞窟型などの日の差さない屋内マップで出会ったら絶対に死ぬと思え』なんて言われるほど強い属性だ。
今更ながらに冷や汗が流れる。
てっちゃんの忠告をちゃんと聞いておくべきだった。
上位種の希少種の時点で危険すぎるのに、まさかの影属性。
もし、敵対してたら死んでた。
間違いなく死んでた。
「てっちゃん、忠告を無視してごめんなさい」
土下座だ。
平謝りするしかない。
「い、いいよ。ぼ、僕もまさかここまでとは思ってなかったし。それよりも、テイム出来たんでしょ? なら頼りになる仲間が増えたことを喜ぼうよ」
「てっちゃん……そうだね。うん。反省終わり。次同じ状況になったら気を付けるってことで。じゃあ名前つけないとね。何がいいかな? 君はオス?」
わふん。
どうやらオスらしい。
むむむ、オスのわんちゃん。
ぬぬぬ。
「じゃあ、わん太郎で」
「えっ」
「どうしたのてっちゃん?」
「も、もっとよく考えたほうがよくない?」
「そうかな?」
わふ?
「君はわん太郎でいい?」
わふっ!
「じゃあ問題ないよね!」
「ま、まあ、本人が納得してるなら」
微妙そうな顔のてっちゃん。
そんなに変かな?
かわいいと思うんだけどな。
それから僕らはわん太郎の強さを確認してみたんだけど——。
「つっよ」
たまたま入った玄室が本日二回目のモンスターハウスで。
わん太郎はたった一匹で、十数匹の魔物を秒殺してしまった。
本当にすぐだった。
魔物が現れた瞬間にわん太郎は足元の影に飛び込み、次の瞬間には全ての魔物の影から黒い槍が飛び出してきて魔物たちを串刺しにしてしまった。
完全にオーバーパワーだ。
「しばらくわん太郎は攻撃禁止だね」
わふん……。
「そんな子犬みたいに濡れた目で見ないでよ。だってそうしないと僕たちがやることなくなっちゃうんだから」
「ぼ、僕たちもすぐに強くなるから、それまで待ってて欲しいな」
わふん。
うむ、聞き分けの良い子だ。えらいぞ~。
こうして撫でてるとただの犬なんだけどなぁ。
その日の帰りのことだ。
わん太郎は見た目的に外で連れ歩いても大丈夫なので、管理局に連れてって鑑札を貰うことにした。
ダンジョン外でテイムモンスターを連れ歩くにはダンジョン管理局に届けを出して、専用の鑑札を身に着けさせる必要がある。
人に危害を加えたり器物損壊したりしない限りは鑑札がなくても罰則はないんだけど、着けておくのがマナーみたいなもんだ。
というわけで壁尻さんだけ先に送還で帰ってもらおうとしたんだけど、壁尻さんがごねた。
「え、一緒にいたいの?」
ぷりぷりん!
「自分だけ仲間外れは嫌だって? リュックに隠れてもらうことになるよ?」
ぷりん!
「新技があるから大丈夫? なに、新技って?」
ぷりん! ずずずずず……。
壁尻さんのお尻が地面に飲み込まれてしまった!
「は? え? どういうこと?」
壁尻さんがいたあたりの地面が水面みたいに揺れている。
だけどそこに触れてもきちんと地面の感触だ。
「壁尻さん?」
ずずずずず……。
水面みたいに揺れる地面からお尻がせりあがって来た。
「そんなことできたの?」
ぷりん!
「わん太郎が影に潜るのを見て思いついたって?」
ぷりん!
「弟分には負けてられないって? すごいな、壁尻さん。」
ぷりん!
「秘技・尻潜りってそんな名前なんだ」
しりしり、ぷりん!
ダンジョンを出て管理局へ。
まずは買い取り窓口。
今日はいつものお姉さんはお休みらしい。ちょっと残念。
魔石とドロップアイテムと一緒に宝箱から出た布地も売却する。
布地はあまりいい値がつかなかった。
僕らは初めて見つけたけど、この手の品は実は結構宝箱からでてくるらしい。
市場に飽和しちゃってるんだとか。
換金が終わったら別の窓口でテイムモンスター用の鑑札をもらう。
書類に記入して提出するだけなのですぐだ。
書類を持ってわん太郎を連れて窓口に行く。
わん太郎を見た職員さんはとても驚いていた。
やっぱり珍しいのかな?
驚いていた割には何か質問されることもなく、わん太郎のテイム紋だけを確認して、そのまま鑑札を渡された。
鑑札を取り付けるための首輪とか欲しいなって思ってたら、この窓口で売ってもらえるらしい。
ウルフなんかのよくテイムされる魔物に関しては取り扱いがあるんだとか。
「わん太郎何色が良い?」
わん太郎の好みを確認しながら赤い首輪を選んだ。
ごくごくシンプルなものだけど、仮の物ならこれで十分だ。
そのうちお洒落なものを用意してやろう。
登録料とともに首輪の代金を支払う。
鑑札を受け取ったらそのまま帰宅。
帰り道、わん太郎は最初は普通に歩いていたけど、途中から地面に潜る壁尻さんに対抗するように影に潜って移動しはじめた。
「こら、何遊んでるの?」
わふん。
「歩くよりらくちん?」
わふわふ。
外を歩けるように折角鑑札を貰っておいたのに。
「仕方ないなぁ。迷子にならないようにちゃんとついてくるんだよ?」
わふん。
仕方なく僕は(見かけ上は)一人で帰宅することになった。
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