第17話 今日こそウルフを!

 日曜日。


「今日こそウルフをテイムしますので、ご協力お願いします」


 二階層の人がいないエリアでいつものように壁尻さんを呼び出したあと、僕は壁尻さんとてっちゃんに深々と頭を下げた。


「が、頑張ろうね」


 何だろう、若干呆れてない?


 壁尻さんとてっちゃんから生ぬるい視線を向けられている気がする。


 ぐぬぬ。


「とにかく! 今日こそは絶対! 絶対にテイムしちゃうから!」


 僕は宣言して歩き出した。




 一部屋目はハズレ。


 芋虫が二体だけ。


 さくっと倒して次に向かう。


 二部屋目。


 モンスターハウス!


 二階層に初めて潜った日以来のモンハウだったけど、前より落ち着いて対処できた。


 十匹以上の魔物に囲まれたのに、芋虫多めでウルフはなし。


「ウルフがいないじゃないか!」


 物欲センサーへの怒りを込めて魔物を殲滅した。


 奥には宝箱。


 ミミックチェックしてからてっちゃんの≪罠解除≫を使ってさくっとオープン。


 中に入っていたのは巻物みたいにくるくる巻かれた一本の布地だった。


「こ、こんなのも入ってるんだね」


「いくらくらいになるんだろう?」


 壁尻さんも尻を傾げている。


 僕らに布の目利きなんて出来ないからね。


 布をリュックに突っ込んで三部屋目を目指す。


 玄室の扉を開いて中を覗き込み——僕はそっと扉を閉めた。


「ど、どうしたの?」


 うん。えっと。


「ウルフがいたけど、ウルフじゃなかった」


 首を傾げるてっちゃん。


 尻を傾げる壁尻さん。


 僕はしっと唇に指を当てて、再度扉を開いて二人に中の様子を見せた。


 僕ももう一度確認する。


 やっぱり、ウルフがいた。


 ただしそのウルフは通常のウルフより二回りくらい大きくて、灰色ではなく漆黒の毛皮だけど。


 だらりと寝そべった黒いウルフがこちらに気付いていない事を確認してからそっと扉を閉じる。


「あ、あれって、も、もしかして」


「「イレギュラー」」


 壁尻さんはまた尻を傾げる。


「ダンジョンで通常発生する種類とは違う、変種や上位種や希少種が発生することがたまにあってね。それがイレギュラー」


 ほうほう、なるほど、と尻を揺らす壁尻さん。


「つ、通常モンスターより、はるかに強い個体の可能性もあるから、き、危険なんだ」


 えっ、やばいじゃん、と尻を硬直させた。


「ねえ二人とも、僕あの子をテイムしたい」


「き、危険だよ。威圧感が普通じゃない。手に負えない希少種かもしれないよ」


 うん。色が黒いからダンジョンウルフの変異種ブラックウルフか、そのさらに希少種のダークウルフだろうね。


「そりゃそうだけどさ、もう一回見てみてよ」


 そう言って再度扉を開く。


 黒ウルフさんはへそ天で寝そべって器用に後ろ足で反対の太ももを掻いている。


 おっさんみたいな動きだなぁ。


「ね、あんなにくつろいでるんだよ? 秘策を使うチャンスだと思わない?」


「そ、そうかなぁ?」


「襲われそうになったら脱出結晶ですぐ逃げよう。それならいいでしょ?」


「わ、わかった。危なかったらすぐ脱出結晶割るからね」


 てっちゃんも納得してくれた。




 ちょっとだけ扉を開いて隙間から黒ウルフさんの様子を窺う。


 大きく口を開けて欠伸してる。


 怖いけどちょっとかわいい。


 僕は腰の巾着から骨ガムを一本取り出して黒ウルフさんの近くに放り投げた。


 骨ガムに気付いた黒ウルフさんは面倒臭そうに立ち上がって投げた骨ガムまで歩いて行く。


 警戒した様子で匂いを嗅いでる。


 あ、噛んだ。


 ガジガジしてる。


 その場に寝そべり、前足で骨ガムを押さえつけて夢中になって噛んでる。


 ほら! やっぱり犬には骨ガムなんだ!(※オオカミです)


 僕はウキウキで玄室に立ち入った。


 黒ウルフさんは骨ガムをガジガジしながらちらりとこちらを確認する。


 襲ってくる気配はない。


 さすがにダンジョンモンスターだけあって、もう骨ガムがぼろぼろだ。


「こんにちは。もう一本あるけど、いる?」


「わふん」


 ゆっくり近づいてきた黒ウルフさんは僕の手から二本目の骨ガムを受け取るとその場で寝そべってガジガジし始めた。


「ねえ、ブラッシングしていい?」


 ちらっとこちらを見たけど特に反応はない。


 だ、大丈夫かな?


 緊張しながらちょっとだけ触れてみる。


 襲いかかっては、こない。


 巾着から高級ブラシを取り出して、背中を梳いてみる。


 うん。大丈夫そう。


「じゃあ、ブラッシングしていくよー。この辺とか気持ちいいかなー?」


 ゆっくり、ちょっとずつ毛づくろいしていく。


 そのうち黒ウルフさんはリラックスした様子でウトウトとし始めた。


「ねえねえ、君、ウチの子にならない?」


 ブラシを動かしながら勧誘してみる。


「毎日ブラッシングするよ? 骨ガムだけじゃなくて美味しいものも食べさせたげる」


 黒ウルフさんは寝そべったままこちらをじっと見つめる。


 何かを考えるように尻尾をふさりふさりと揺らした。


 のっそりと立ち上があった黒ウルフさんは、僕に鼻を突き出して匂いを嗅いでいる。


「ねえ、テイムしてもいいかな?」


「わふん」


 了解が得られた、かな?


 緊張しながらスキルを発動する。


「≪テイム≫」


 スッと光が溢れる。 テイム成功だ!


「これからよろしくね」


「わふん」


 かわいい。


 頭を撫でながら黒ウルフさんのステータスをチェックして——僕は固まってしまった。


「こ、孝ちゃん、やったね! それでこの子はブラックウルフだった? それともやっぱり希少種のダークウルフ?」


 孝ちゃんの言葉に僕はゆっくりと首を振る。





「この子はシャドウファング。ダンジョンウルフの上位種の変異種の、そのまた希少種だよ」

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