第14話 モンスターハウスと芋虫肉

 随分と二人で話し込んでいたせいで、退屈した壁尻さんがウトウトしはじめてしまった。


 慌てて壁尻さんを起こして探索を再開する。


 二つ目の玄室には芋虫が二体。


 特に苦労もなく倒せた。


 動きが鈍くて体力も低い芋虫は魔法使いにとっていいカモだ。


 玄室内に罠があったので、てっちゃんの≪罠解除≫の練習台にする。


 そして三つ目の玄室。


 アントが三匹いた。


「バ、バインドなしでやってみよう。動作が遅くて力も弱いし動きも単調だから、僕一人でさばききれると思う」


 てっちゃんの強気な提案に頷いて、玄室内に展開する。


「≪タウント≫!!」


「≪ファイアボール≫!」


 てっちゃんがヘイトを取り、僕と壁尻さんの攻撃が一番遅れている一体に刺さる。


 まだ倒せていない。


 でもこれでいい。


 てっちゃんが攻撃をさばく練習のつもりだから。


 僕らの射線を切らない様にてっちゃんはうまい事敵をコントロールしている。


 僕と壁尻さんは適当に間隔を空けながら三体のアントをいつでも倒せるように均等にダメージを与えていく。


 そろそろいいかな?


「てっちゃん、ぼちぼち終わらせよう! ≪ファイアボール≫!」


「≪スラッシュ≫」


 僕の声に反応しててっちゃんがスキルを放つ。


 壁尻さんも≪闇弾≫を放った。


 三人のスキルがそれぞれ三体にばらけて命中。


 大勝利。


「てっちゃん、どうだった?」


「うん、問題ない。ア、アントだけなら簡単にさばけるね」 


 僕らの前衛はとても頼もしい。


「壁尻さんはどう? 何かある?」


 ぷりん? ぷるぷる! ぷるぷりん!


 ちょっと不満らしい。


「えっと、一撃で倒せないのが不満?」


 ぷりん!


「爽快感が足りない?」


 ぷりっ!


 あらあら、まあまあ。


 何て言うんだろう?


 戦闘狂? トリガーハッピー?


 あの可愛かった壁尻さんが、いつの間にやら随分と物騒な思考になっちゃって。


「レベルを上げたらきっと一撃で倒せるようになるよ。レベリング頑張ろうね」


 ぷりん!


 時間を確認するとそろそろ今日の探索のタイムリミットだ。


「どうする?」


「も、もう一部屋行って終わりにしよう」


「そうしよっか」


 次の玄室の扉を開く。


 中にはアントが一体だけ。


「またアントか……」


「さ、さくっと倒して今日は帰ろう」


「そうだね。あー、ウルフに会えなかったなー」


 このやりとりがフラグになったのだろうか。


 気を弛めたままの僕たちが玄室内に入ると、玄室内のあちこちから黒い煙が噴き出して魔物の群れが姿を現した!


 しまった! モンスターハウスだ!


 アントが三体、ゴブリンが五体、芋虫三体にウルフも二体いる。


 だ、大ピンチだ!


「壁尻さんはウルフ優先で片っ端からバインド! てっちゃん! タゲとったら防御優先でどうにか凌いで! 僕は遠距離持ちの芋虫からやる!」


「わかった! ≪タウント≫!!」


 即座に作戦を立てて対処を指示する。


 壁尻さんの≪チェーンバインド≫が決まった。


 これでウルフ一体はしばらく無効化。


 注目を引いたてっちゃんの元に魔物が殺到する!


「≪魔力集中・ファイアボール≫!!」


「≪ウォークライ≫!! うおおおおおおおおおお!!!」


 芋虫はあと二体。


 てっちゃんの雄たけびに怯んだスキにもう一体のウルフ目がけて≪チェーンバインド≫が放たれる。


「≪魔力集中・ファイアボール≫!! ≪魔力集中・ファイアボール≫!!」


 芋虫は片付いた。


 てっちゃんは盾で弾き、剣で逸らせ、胴や小手で受け止めながら敵の攻撃をしのいでいく。


 次はウルフの処理を、と思ったところで計算がずれた。


「≪魔力集中・ファイアボ——うわっ!」


 思いのほか早くにバインドが解けたウルフが僕目がけて全力で飛びかかって来た!


 のしかかるようにして地面に引き倒される。


 痛いっ!


 噛みつこうとしてくるウルフの頭を杖でどうにか押し返そうとするけど、筋力が足りない。


「こ、孝ちゃん!!」


 てっちゃんの焦る声が聞こえる。


 あ、そろそろ腕が限界。


 迫るウルフの恐ろしい形相。


 ちょっとヤバい。死んじゃう。


 そう思ったところで、不意に僕の上のウルフが吹き飛んだ!


 壁尻さんの≪風弾≫だ!


「壁尻さん! ナイス! ≪魔力集中・ファイアボール≫!!」


 跳ね起きて、今度こそ魔法を放ってウルフを倒す。


 もう一体のウルフも既に拘束が解けていたけど、こちらを警戒して距離をとった所で再び壁尻さんの≪チェーンバインド≫の餌食に。


 拘束が解ける前にさっさと魔法で処理してしまった。


 これでウルフも片付いた。


 ここまでくればあとは消化試合だ。


 先ほど爽快感が足りないとぼやいておられた壁尻さんに、一撃で蹴散らせるゴブリンの処理を任せて僕とてっちゃんでアントを処理していく。


 攻勢に転じたてっちゃんが盾で殴って体勢を崩し、僕が≪ファイアボール≫をぶつけて、てっちゃんが止めの≪スラッシュ≫。


 完全なルーティンワークで決着がついてしまった。


「な、なんとかなったか~」


「こ、孝ちゃんごめんね。ぼ、僕が後ろに逸らしちゃったから」


「いやいや、あれだけの数を受け持ってたんだからしょうがないよ。まさかモンスターハウスだなんて吃驚したよね」


 責任を感じちゃってるてっちゃんになるべく明るい調子で応える。


 てっちゃんと自分に≪ライトヒール≫を掛けて怪我を治しておいた。


 これで魔力もからっけつだ。


 壁尻さんもしょんぼりしてる。


 バインドがすぐに解けちゃったのを気にしてるのかな?


 あれは多分ウルフに耐性があっただけ。


 つまり指示した僕のミスだ。


「壁尻さんは僕の指示通りに動いてくれたんだから責任なんて感じなくていいんだよ?」


 ぷるん……。


 ああ、しょんぼりしてる姿もかわいいぃぃぃ。


 じゃなくて。


「それよりも、あの≪風弾≫は助かったよ。ありがとね。壁尻さんは最高だよ!」


 ぷるん……ぷるん!


 うん、ドヤ尻するとまではいかないけど、ちょっと元気になったね。


 それにしても最後の最後で大変な目にあった。


 もうへとへとだ。


 僕が散らばった魔石やらドロップアイテムを回収してる間に、玄室内の罠でてっちゃんに≪罠解除≫の熟練度上げをしてもらってから、ダンジョンを脱出。


 管理局の買い取り窓口でお姉さんの笑顔に癒される。


「無事に帰って来たわね」


 にっこり笑顔のお姉さん。


「「ありがとうございます」」


 僕とてっちゃんは揃って頭を下げる。


 もちろん貰ったポーションのお礼なんだけど、具体的には何も言わない。


 お姉さんに秘密って言われてるし、管理局の職員が特定の探索者にだけポーションを融通したなんて知られたら、就業規則的に問題が無かったとしても他の探索者が贔屓だと騒いでトラブルになるから。


「ふふ。真面目な子たちね。それより二階層はどうだった?」


「まあ何とか。最後にモンハウ引いちゃってちょっと大変でした」


「あら、大丈夫だったの?」


「僕がウルフに飛びかかられたくらいかな。初見だったし次はもっとうまくやれそうです」


「そう。くれぐれも慎重にね」


「「はい」」


 そんなやり取りをしながら今日の成果を提出する。


 魔石とドロップアイテム。


 ウルフの毛皮や牙、アントの甲殻は使い道があるのは分かるけど、アントの触覚とか芋虫の肉とかって何に使うんだろ?


 ぽろっと口から出た言葉にお姉さんは換金処理の手を止めずに答えてくれた。


「触覚は錬金術の素材よ。毛生え薬になるの」


 毛生え薬!


 その言葉に僕もてっちゃんもつい反射で手を頭に当ててしまう。


 大丈夫。


 お父さんもお爺ちゃんもふさふさだから。


「ふふ。若いうちから気にしすぎると却ってハゲるわよ?」


 僕とてっちゃんは同時に手を下ろした。


「芋虫の肉はねぇ、ほんのり甘くてクリーミーよ?」


 た、たべるの!?


 芋虫だよ??


「もしかしてお姉さんも?」


「昔一度だけね。気が向いたら試してみなさいな」


 僕とてっちゃんは何とも言えない顔で頷くのであった。




 現在のジョブとレベル。


 僕、魔法使いレベル十四、テイマーレベル十二。


 壁尻さん、レベル十三。


 てっちゃん、戦士レベル十二、盗賊レベル十一。

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