第13話 二階層にいざ行かん!

 ドキドキと胸を高鳴らせながら二階層へと足を踏み入れる。


 といっても一階層とさして変わらない景色なのだけど。


 ぶっちゃけ十階層までは通路と玄室が連なった迷路型マップなので、ずっとこの風景が続くはずだ。


 階段を下りてすぐの部屋、通称階段広場には正面と左右、三方向に扉がある。


 正面が正規ルートなので右と左の二択。


「どっちにする?」


「み、右で」


 てっちゃんが確信を持った様子で即答する。


 判断材料は特にないハズだけど——あっ。


「クラピカ理論?」


「ば、バレた」


「自然物には意味ないんじゃなかったっけ?」


「む、無意識に左を選ぶ人が多いなら、右の方が人が少ないはず」


「おお! 天才じゃん!」


「そ、それほどでも」


 バカな事を言いながら人がいない方へと進んでいく。


 最初の戦闘はフルメンバーで行いたいから魔物と遭遇しないように気をつけて進路を選んだ。


「とまって」


 てっちゃんの静止の声。


「こ、ここに罠がある」


「おお、早速だ。何の罠かわかる?」


「そこまでは分からない。け、けど僕でも解除できそう。やってみていい?」


「じゃあお願いします。僕は周囲の警戒してるね」


 てっちゃんが≪罠解除≫を使うとパキンと何かが割れる音がした。


「うまくいった」


「やったね」


 珍しくガッツポーズするてっちゃん。


 それを見た僕はちょっと考えてから拳を突き出してみた。


 僕の突き出した拳を見て、てっちゃんも同じようにした。


 合わさる拳。


 なんか探索者っぽくて、いい。


 てっちゃんも同じことを思ったらしい。


 照れくささを感じながら二人でニヤリと笑った。


 壁尻さんを召喚前なのが残念だ。


 召喚したあとなら壁尻さんとも喜びを分かち合えたのに。


 さっさと人のいないエリアを見つけて壁尻さんを呼び出してあげよう。


 僕らは急ぎ足を進めた。


 途中で先客が休憩している玄室に行きあたってしまったけど、邪魔にならないようにささっと通り過ぎる。


 やっと人のいないエリアにたどりついた。


「お待たせ、壁尻さん。二階層だよ」


 ぷるん。


 壁尻さんも初めての二階層に興奮しているのか、地面から壁に移動してそわそわと動きまわっている。


「よし、それじゃあいこうか」


 目の前の玄室の扉を開く。


 中を覗くと甲殻と同じ材質の槍と盾を持つ体高一メートルほどの蟻、ダンジョンアントが二体いた。


 その奥にはアントと同じサイズの芋虫、ビッグキャタピラーがいる。


 三人で玄室に入り、アントに気付かれる前に合図を出す。


 まずは壁尻さんがアントの片割れに≪チェーンバインド≫。


 同時に僕が壁尻さんが狙わなかった方に魔法を放つ。


「≪ファイアボール≫」


 これで気付かれた。戦闘開始だ。


 てっちゃんは僕と壁尻さんを守るように少し前に立つ。


「≪タウント≫」


 ガンガンと盾を叩いてアピールすると魔物の注意が完全にてっちゃんに向いた。


「≪ファイアボール≫! 壁尻さんはバインドの維持優先でお願い!」


 再び放った魔法がさっきと同じアントに命中する。


 けどまだアントは倒れない。


 二発使って倒せないのは辛いな。


 ≪ファイアボール≫二発分のダメージを受けてまだ生き残るアントが突き出した槍をてっちゃんが盾でそらす。


 ガキンと金属同士がぶつかるような音がなった。


「おおおっ! ≪スラッシュ≫ッ!」


 体勢を崩したアントの脳天にロングソードが叩きつけられる。


 斬撃とは思えないゴンッという鈍い音が鳴り響いて、それきりアントは動かなくなった。


 ようやく一匹、と気をゆるめそうになったところで後ろの芋虫の動きに気付いた。


 体を持ち上げて口を開き、てっちゃん目がけて何かしようとしていた。


「壁尻さん! 風弾で芋虫の妨害! てっちゃんはそのまま二匹目に! 僕が魔法で削る! ≪魔力集中・ファイアボール≫!!」


 続けざまに指示を出す。


 壁尻さんの放った風弾は意図通りに芋虫をのけぞらせ、てっちゃんを狙って吐き出すはずだった糸は天井目がけて飛び出していった。


 僕の放った二発分の魔力の籠ったファイアボールが未だにバインドされている二匹目のアントの命を削る。


「≪スラッシュ≫」


 今度は柔らかい関節部分を狙ったらしく、鈍い音がすることもなくアントの頭を刎ね飛ばした。


「≪ファイアボール≫」


 芋虫はアントほどの耐久は無かったらしく、僕の魔法であっけなく倒れてしまった。


 うん。次同じ状況なら芋虫から片付けよう。


「何とかなったね」


 ぷるん!


 渾身のドヤ尻。


「ふふふ。壁尻さんは大活躍だったね。特にあの風弾は完璧だった」


 ぷるん!


 ドヤ尻を大きくのけぞらせている。かわいいなぁ。


 壁尻さんを構い倒していると、少し息を乱したてっちゃんが戻って来た。


「は、刃こぼれしそうだった」


「やっぱりアントは固い?」


「う、うん。鈍器も持った方がいいのかな?」


「武器二本は重くなりそう。防具もそのうち重装備に変えるんでしょ?」


「じ、重量に余裕のある今のうちに両方持って感触を確かめてみるよ。今ならまだスキルのルート分岐に間に合うから」


 戦士ジョブは一レベルの時点で≪スラッシュ≫≪スマイト≫≪ピアシング≫というそれぞれ斬撃、打撃、刺突のスキルを覚える。


 三種類のスキルにはそれぞれ発展形のスキルが存在しており、最大レベルまでジョブのレベルを上げても三系統全てを習得しきることはできないのだ。


 しかも中位以降のジョブのほとんどがいずれかの系統のスキルを全て習得することが転職解放の条件になっていたりする。


 実は魔法使いもこれに関しては同様で、火・水・風・土の基本四属性プラス十レベルおきに習得可能な光と闇のあわせて六属性があり、例えば僕は火魔法と光魔法に絞ってスキルを習得している。


 ジョブをマスターしたあとにレベル一からやり直す再履修という方法をとれば一応全スキルの習得が可能なのだが、魔法使いと違って系統が武器の形状に依存する戦士系統のジョブが再履修してまで三系統を全て習得しきる必要性は薄い。


 複数の武器を使い分けるスタイルを確立しているか、近接最上位ジョブのバトルマスターを目指さない限りは、再履修しないのが一般的だ。


 故に戦士ジョブは二つ目の攻撃スキルを習得する前に使用武器を決めてしまう必要がある。


 これがスキルのルート分岐だ。


 ちなみに魔法使いは逆に、複数の属性魔法を使える事が強みになるので再履修が推奨されており、二度の再履修で全てのスキルを習得可能だ。


 ただし、前回の周回でスキル習得の前提スキルを覚えていても、その周回で前提スキルを取得しないとスキル習得ができない。


 具体的に言うと、初めてジョブのレベルを五十まで上げてマスターしたときに≪火魔法Ⅲ≫まで習得していたとしても、再履修の際に≪火魔法Ⅳ≫を習得するためには≪火魔法Ⅲ≫までの火魔法スキルを取り直さなければならないのだ。


 なので一回の履修ごとに最後まで取得可能な二属性ずつに絞って習得していくのが一般的だ。


 ちょっと話がそれちゃったけど、そういう訳でてっちゃんは悩んでいるのだ。


「まあ最悪再履修って手もあるしね。なんなら補助スキルを諦めて二系統習得しきっちゃうってのもありだし。今のレベルからなら間に合うでしょ?」


「ぎ、ギリギリ間に合うね。……ああ、そうか。決めたよ孝ちゃん。攻撃スキルを二系統取るよ」


「OK、OK。補助スキルが少ない分きついけど、まあ、なんとかなるか」


「いや、補助スキルも全部とるよ。途中まで再履修して」


「えっと、どういうこと?」


「ま、マスターしたジョブは転職してもスキルやアビリティが使用できるでしょ? それは再履修中でも同じ。だから再履修で欲しいスキルを取り終わった段階で、最大レベルまで上げ直さずに転職する。これなら無駄がないはず」


「あっ! その手があったか! 再履修も最大レベルまであげるものだと思い込んでたよ! もしかしてこれ裏技?」


「ど、どっちかって言うと小技かな。ネット情報では見たことないからあまり一般的なテクニックではないと思う」


 まさに盲点だ。


 僕は最大限の称賛を込めて尊敬の眼差しをてっちゃんに贈った。


 その後必要な補助スキルを選別して、てっちゃんは戦士ジョブを再履修後レベル二十まで上げることを決めた。


 まあ、再履修なんてまだまだ先の話なんだけどね。

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