第11話 レベリング中、お遊び中

 それから一週間てっちゃんのレベリングを中心にダンジョン探索を行っていた。


 てっちゃんがレベリングしている間ヒマになる僕は少々遊んでいた。


 何をしていたかと言うと、一時的にテイマーをジョブから外して今まで触れてこなかった他のジョブにお試しで転職してみたのだ。





【CASE1】


 まずはバードだ。


 呪歌を扱う支援職。


 僕はゴブリンを前に高らかに旋律を奏でた。


「≪呪歌:恐怖の歌≫ ぼえ~~~~~~~~♪」(壊滅的な音程のメロディ)


 響く歌声。


 ぽかんとするゴブリン。


 あ、てっちゃんがゴブリンの首を刎ねた。


 しんと静まり返る玄室。


 てっちゃんは僕を見て何度か口を開こうとしては閉じ、やがて意を決したように口を開いた。


「孝ちゃん……個性的な歌声だね」


 すまない、僕は音痴なんだ。




【CASE2】


 今の僕はダンサーだ。


 華麗な踊りで味方を鼓舞し、敵を翻弄する支援職。


 僕はゴブリンを前に魅惑のステップを刻む。


「≪舞踊:さそうおどり≫ ふっ! はっ! ほっ! ちゅりゃっ!」


 どすんどすんと響く足音。


 あ、ゴブリンが僕の真似をして踊り出した!


 ぷふー、変な動き。


 てっちゃんが困惑してる。


「≪ファイアボール≫」


 ゴブリンを始末した。


 僕って、あんな変な動きしてたんだ……。


 振り返ると壁尻さんが大きくお尻をゆらして笑っていた。




【CASE3】


 やーやー、われこそはおとにきこえしてんかいちのかくとうか、さわやまこうたろうなり。


 はい。という訳で格闘家です。


 僕はゴブリンを前に拳を固く握りしめて駆けだした。


 ちゅりゃっ! ぺちっ!


 ちゅりゃっ! ぺちっ!


 ちゅりゃっ! ぺちっ!


 ぼこん! あいたっ!


 ゴブリンにこん棒で殴られた……痛い。


「いたた……≪ライトヒール≫」


 あ、てっちゃん、もう満足です。殺っちゃってください。


 うん。貧弱な僕には格闘家は向いてないな。




【CASE4】


 うい~す☆ 遊び人だぜ~☆


 遊び人は何かよくわかんないけどアゲアゲなスキルが使えるぜ~☆


 僕はゴブリンを前に恰好いいポーズでサイコロを構えるぜ☆


「≪ダイスロール≫! ≪ダイスロール≫! ≪ダイスロール≫!!」


 0ダメ!


 0ダメ!


 0ダメ!


 ゴミ!!


 壁尻さんがぽよんぽよんと笑ってる。


 てっちゃんもゴブリンを倒した後にゲラゲラと笑いだした。


 もちろん僕も。


 何だこのジョブ。何だこのスキル。滅茶苦茶じゃないか。


 僕らの笑いが収まるまでかなりの時間が必要だった。




***



 そんな感じで色々試して遊んでいた。


 分かったことは、バードとダンサーと格闘家が僕には致命的に向いてないってこと。


 遊び人? 誰が使ってもゴミです。


 レベル最大になると上位のジョブが解放されるけど、そこまで頑張る気はないかな。


 冒険家は試してない。


 冒険家の代名詞ともいう隠し通路や隠し部屋を見つけるスキルはレベル三〇まで上げないと習得できないらしいから。


 それとセージは普通に便利そうだった。


 僕が使ってもモンスターの名称くらいしか分からなかったけど、セージのスキル≪鑑定≫は使えば使う程スキルが成長する熟練度制のスキルらしい。


 同じタイプのスキルだと、盗賊の罠解除が熟練度制だ。


 テイマーを最大レベルまであげたらセージに転職してもいいかもしれない。


 ちなみにジョブの最大レベルは五〇。


 五〇まで上げるとジョブをマスターした状態になって、転職してもそのジョブのスキルやアビリティを使用可能になる。


 基本職をレベル五〇まで上げる目安は僕らが通っている『関東大迷宮』だと大体五階層あたり。


 まだまだ先の話だけど、今のウチによく考えて置こう。




 僕が遊んでる隣で、てっちゃんは真面目にレベリングに励んでいた。


 時々サブとメインのジョブを入れ替えて、レベルが均等になるようにしている。


 日曜日の探索が終わるころにはどちらもレベル十一まであがっていた。


 新しく習得したのは戦士ジョブがスキル≪ウォークライ≫、アビリティ≪重装備適性Ⅰ≫で、盗賊がスキル≪罠解除≫と≪ペネトレイト≫、アビリティ≪罠探知≫と≪索敵≫だ。


 ≪ウォークライ≫は大声を上げて周囲の敵を威圧するスキル。味方にも恐怖耐性のバフがかかるらしい。


 ≪重装備適性Ⅰ≫は重い防具を着ていても動きを阻害しにくくなるアビリティ。まだⅠなのでちょっと軽く感じるくらいの効果らしい。


 今のてっちゃんは重装備じゃないから意味ないけど、今後ちゃんとした装備を用意したとき用の先行投資だ。


 ≪罠解除≫と≪罠探知≫、≪索敵≫は読んで字の如くで、≪ペネトレイト≫は鋭い突きを放つスキルだ。


 これは余談だけど、≪ペネトレイト≫は刃物じゃなくても効果を発揮する。


 ネットにそう書いてあるのを見つけたのでてっちゃんに僕の杖を渡して試してもらったところ、見事に発動した。


 RPGの長老が持ってそうな木製の杖でゴブリンの腹を貫通させている光景はなんというか、とてもシュールだった。


 そんな感じでてっちゃんも強くなった。


 二階層に挑戦する準備は出来たと言えるだろう。


「つ、次の探索は二階層に、ち、挑戦する?」


「うん。一回下見のつもりで行ってみようよ」


「そ、そうしよっか。わ、≪罠解除≫の練習もしたいし」


 ぷるん!


「そうだね。僕もテイムモンスター増やしたいんだ」


「な、何をテイムするつもり?」


 二階層に出てくる魔物はゴブリン、ダンジョンウルフ、ソルジャーアント、ビッグキャタピラーの四種類。


 もちろん僕が選ぶのはダンジョンウルフだ。だってもふもふだし。


 ちなみにネットではソルジャーアントがおススメされてる。


 高耐久で壁役に最適って意見が多いけど、よく読むとテイムモンスターを使い捨てにする戦術らしくてあまり僕の参考にはならなかった。


「ダンジョンウルフだよ。やっぱテイムするならモフモフだよね」


 ブルン!


 壁尻さんに抗議された。


 そういや壁尻さんってテイムモンスターだったよね。


「あ。壁尻さんは別だよ。モフモフしてなくても最高の相棒さ」


 プルン?


「そうだよ! 壁尻さんは特別な存在だよ! そうだよね、てっちゃん?」


「うん、孝ちゃんの言う通り。マーガレットさんは特別だよ。僕たちの頼もしい仲間だから」


 ぷるぷる、ぷるん!


『べ、べつに褒められたって、嬉しくなんかないんだからっ!』


 そんな風に言ってる気がする。


 ツンデレ口調なのは僕の願望かな?


「じゃあ次の探索は二階層に挑戦だ! 気合をいれてがんばろう!」


「お、おー!」


 プルン!


 ああ、次の探索が今から楽しみだ。




 現在のジョブとレベル。


 僕、魔法使いレベル十三、テイマーレベル十二。


 壁尻さん、レベル十二。


 てっちゃん、戦士レベル十一、盗賊レベル十一。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

≪作者からのお願い≫


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