第8話 佐伯くん、いらっしゃい!
大事件です!
大事件ですよ、壁尻さん!
僕の! 家に! 友達が来るぞー!!
これは今世紀最大の大事件ですよ!!
ジュースとお菓子は用意した!よし!
はっ! パーティークラッカー!
用意した方がいいよね? コンビニで売ってるかな?
え、いらない?
でもパーティクラッカーだよ?
あ、そうだ!
あれを忘れてた!
ツイスターゲーム!
僕知ってる!
友達が家に来たときはみんなツイスターゲームをやるんだ!
古事記にもそう書いてある!
ツイスターゲームを今すぐ買ってこなきゃ!!
「わきゃっ!!」
いたたたたた。
バタバタしてたら何かに躓いちゃった。
————あ、壁尻さん。
「えっと、ごめんね?」
ぷるるん。ぷるんぷるん。
怒ってないけど落ち着けって?
うん、そうだよね。うん。はしゃぎ過ぎました。ごめんなさい。
「————あ」
壁尻さんのことどうしよう。
佐伯くんには変わった魔物をテイムしたとしか話してないんだよね。
どうしよう。
壁尻さんを見たら変に思っちゃうよね。
気持ち悪いとか思われるかもしれない。
やっぱり壁尻さんには隠れてもらって——。
「なんか、嫌だな」
友達の佐伯くんに隠し事してるみたいだし。
それに、壁尻さんは僕の大事な相棒だから……。
よし!
佐伯くんにちゃんと説明しよう!
きっと佐伯くんならちゃんと説明すれば僕の大事な相棒だってわかってくれるよね。
でも、いきなりだから吃驚しちゃうから、説明するまで壁尻さんには隠れててもらおう。
「あのさ、壁尻さん」
ぷるん、と揺れた壁尻さんはそのまま僕から遠ざかろうとする。
あ、誤解しちゃってる。
「待って、壁尻さん! 違うから、えっとね、友達に君のことを紹介したいんだ!」
ぷるん?
「そう! 大事な友達なんだ! だから壁尻さんのこともちゃんと紹介したいんだ! 自慢の相棒だって!」
ぷる、ぷる。
「凄く良い奴だから、きっと壁尻さんも気に入るよ。それでね、いきなり会うときっと吃驚しちゃうから、壁尻さんのことをちゃんと説明するまで待っててほしいんだ」
ぷるん。
「ごめんね、壁尻さん」
なでなで、ぷるん。
インターホンが鳴った。
佐伯くんだ。
僕は玄関まで走ってドアを開ける。
「いらっしゃい!」
「おおお、お邪魔します。これ、お、お菓子、買ってきた」
「うん。ありがと。さ、上がって」
佐伯くんを部屋まで招き入れた。
佐伯くんから受け取った袋を確認すると中にはパーティサイズのポテチ。
ちょうど、僕が机の上に用意しておいたものと同じものが。
「————あ」
その声を発したのはどっちだっただろうか。
「「被っちゃったね」」
ふはは、と顔を見合わせて笑う。
なんだかくすぐったいや。
ジュースを用意して、佐伯くんにくつろいでもらう。
「あのさ、佐伯くんに僕の相棒を紹介したいんだけどいいかな?」
佐伯くんも会いたいって言ってくれた。
「それでね、僕の相棒はちょっと変わっててね、見た目もかなり変わってるんだ」
首を傾げる佐伯くん。
「んーと、マッドハンドって魔物知ってる?」
「し、知ってるよ。地面から、て、手だけ生えてる魔物」
「そうそう。そのマッドハンドの手をさ、お尻に変えた感じなんだ」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔になっちゃった。
やっぱり、変だよね。
「えっとね、その、かなり特殊な見た目なんだけどね、その、僕にとっては大事な相棒で、だから、友達の佐伯くんには変に思って欲しくないっていうか……」
喋ってるうちにどんどん不安になってくる。
引かれちゃったらどうしよう。
嫌われちゃったら——。
「大丈夫」
僕の不安を切り裂くように佐伯くんが断言した。
「沢山くんの大事な相棒を変に思ったりしないよ。だから大丈夫」
普段は酷い吃音の佐伯くんの堂々とした喋りにぴっくりで。
でも——。
「佐伯くんはやっぱり最高に良い奴だね。うん。疑ってごめんね。じゃあ紹介するよ。壁尻さん、出てきて」
迷いを振り切って壁尻さんを呼び出す。
壁尻さんはベッドの下に隠れていたらしく、そこからぬるーっと這い出てきた。
「紹介します。この子が僕の相棒の壁尻さん。種族は不明。あ、壁尻さんってのはあだ名で、本名はマーガレットさん。女の子だよ」
「ほ、ほんとにお尻だ」
佐伯くんはびっくりしてる。
でも気持ち悪がったり引いたりはしてないと思う。
むしろ興味深々?
「壁尻さん、彼が僕の友達の佐伯鉄平くんだよ」
「よ、よろしくね、マーガレットさん」
ぷるん、すりすり。
尻ずりする壁尻さんにおっかなびっくりの佐伯くん。
撫でてみる? と提案するとさわさわと撫で始めた。
「す、すごい。滑らかな、て、手触りで柔らかい」
「もちもちでしょ?」
「う、うん。すごく、もちもち」
壁尻さんもドヤ尻してる。
それから、二人で壁尻さんをもちもちしながらダンジョンのことをいっぱい話した。
佐伯くんは僕の話を興味深そうに、時々質問しながら聞いてくれる。
僕が現在ぶち当たってる悩みを話すと、佐伯くんは一つうれしい提案をくれた。
「あ、あのさ、その、ぜ、ぜ、前衛と、と、とと、盗賊って、ぼ、僕じゃダメかな?」
「佐伯くんが?」
「う、うん。ど、道場で、剣術習ってるから、ちょ、ちょっとは役に立てる、と思う」
「う、うれしい! 佐伯くんと一緒に探索できたら嬉しいよ! あ、でも親の許可とか大丈夫?」
「じ、実はもう、もらってる。ま、前から、ど、ど、道場の人に誘われてたんだけど、ぼ、僕は臆病だから、ゆ、ゆゆ、勇気がでなくて。で、でも、大事な、と、友達と一緒なら、勇気が出せると、お、思うんだ」
う、うれしい!
嬉しすぎるよ、佐伯くん……!
「やろう! 一緒に探索しよう! 僕も佐伯くんと一緒に探索したいよ!」
「そ、そう言ってくれて、よ、よかった。そ、それで一つ、提案」
「なんだい?」
「一緒に探索する仲間だから、し、下の名前で、よ、呼び合いたい。そ、その、し、しし、親友として」
親友!
ベストフレンド!
「賛成! 大賛成!」
あ、でも……。
いきなり下の名前呼び捨てはなんというか、ハードルが高いというか……。
「う、うん。ぼ、僕もいきなりは、ちょ、ちょっと恥ずかしいと思った。だから、あ、あだ名で、どう?」
僕らは顔を見合わせてにっこりとはにかみあう。
親友となった僕らは互いに『孝ちゃん』『てっちゃん』と呼び合うようになった。
そんな僕たちを壁尻さんはぷるぷると生暖か~く見守っていた。
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