第6話 壁尻さんのスキル
お茶目なハプニングはあったものの、僕らはその後も順調に探索を続けた。
「あれ、この辺りって……ちょっと待って壁尻さん」
僕はポケットに入れてた地図を取り出して現在位置を確認する。
うん、思った通りだ。
「ねえ、壁尻さん。この近くに僕と壁尻さんが出会った隠し部屋があるんだ。行ってみない?」
ぷるん!
壁尻さんも興味あるみたい。
「じゃあ行ってみようか! もしかしたら壁尻さんと同族に出会えるかもね?」
ぷるるん。
「なに? 壁尻さんは特別だって? 同族いないの?」
ぷるん。
「そっかー。そういや壁尻さんの種族って何なんだろうね? ステータス画面の文字は今でも読めないし」
ぷるるん?
「壁尻さんもわかんないの? へんなのー」
ぷるるんるん!
「冗談だって。怒んないでよ」
ぷるぷるっ!
「ごめんね。えっと、こっちの通路を抜けて、次の玄室だね。行くよ!」
玄室の中の魔物を手早く倒して安全確保。
記憶を頼りに隠し通路があった壁を調べてみる。
「あれ? ここのはずなんだけど……おかしいな?」
ぷるん?
今調べてるのは間違いなくこの前僕が休憩しようと寄りかかった壁だ。
「前はここの壁がダミーになってて隠し通路に抜けられたんだよ。でも今は普通の壁になってる。どういうことだろ?」
ぷるるん?
「いや、場所はここで間違いないよ。もしかして何か入るための条件があったのかも? それか隠し通路自体が無くなってる?」
ガックリだ。
壁尻さんも心なしかしょんぼりしてる。
「期待させちゃったのにごめんね」
落ち込んじゃった僕を見かねてお尻すりすりで慰めてくれる壁尻さん。やさしいなぁ。
しばらく壁尻さんをもちもちして落ち込んだ気分を誤魔化した。
「よし! 気持ちを切り替えよう! 今日の本題は壁尻さんのレベルアップだからね!」
ぷるん! ぷるん!
ヤル気充填完了!
次の玄室にいくぞー!
それから玄室を三つほど探索した。
三つ目の部屋には宝箱があった。
「また悪臭の罠だったりして」
冗談めかしてそう言うと壁尻さんは宝箱から一番遠い壁まで避難してしまった。
「あー、壁尻さん、僕を見捨てるのかー!」
ぷるぷる、ぷるるん。
よほどさっきの悪臭がイヤだったらしい。
断固ここから離れません! と壁に引っ付いてしまってる。
しょうがないから一人で箱を開けることにしよう。
まずはミミックチェック。異常なし。
悪臭を警戒して鼻をつまみながらゆっくり箱を開く。
罠はなかった。
「壁尻さーん! 罠なかったよー!」
僕の声に壁尻さんはそろそろと近づいてくる。
まだちょっと警戒してるのか動きがゆっくりだ。
壁尻さんが宝箱に十分近づくまで待ってから僕は声を上げた。
「ぷしゅー!!」
僕の仕掛けた悪戯にパニックになった壁尻さんはぷるんぷるんとのたうちまわっている。
「くっくっく。なんちゃってー」
悪戯だと気付いた壁尻さんはお尻をぶるんぶるん揺らしながら猛烈に怒った。
「さっき僕を見捨てようとした罰だよ」
そういうと、怒りを沈めてしょんぼりしだした。
やりすぎちゃったかな?
「壁尻さん、反省したならもういいよ。僕も意地悪してごめんね」
お尻すりすり。なでなでぷるん。
これで仲直りだ。
改めて二人で仲よく宝箱の中身を確認してみた。
入ってたのは小さな魔石が一つだけ。
「ハズレだったね」
ぷるん。
がっかりな内容だったけど、なんだかそれすら面白く感じた。
四つ目の玄室に到着。
入口を開けて中を確認してみる。
なんとそこにはゴブリンが三体もいた。
「壁尻さん、危ないから下がっててね」
壁尻さんを少し後ろに下がらせてから攻撃の準備をする。
相手はまだこちらに気付いてない。
そおっと玄室の中に侵入して杖を構える。
「≪魔力集中・ファイアボール≫」
僕が一発目の魔法を放つのと、ゴブリンがこちらに気付くのが同時だった。
一発目はゴブリンに命中。
続けて二発目。
「≪魔力集中・ファイアボール≫」
これも当たった。
これで二匹は倒せた。あと一匹。
やばい、三匹目が近付いて来てる!
「≪魔力集中・ファイアボール≫!」
しまった!
焦って放った魔法はゴブリンの横を通り過ぎてしまった。
生き残りのゴブリンが間近に迫ってくる。
ヤバい! 殺されちゃう!
そ、そうだ! ≪ファイアウォール≫だ!
「ふぁ、≪ファイアウォール≫!」
目の前に発生する炎の壁。
ゴブリンが怯んだ!
今のウチに距離をとって!
「≪魔力集中・ファイアボール≫!!」
や、やった!
倒したぞ!
「あ、あぶなかった~」
へなへなと座り込む僕。
壁尻さんが心配そうに近づいてきて、お尻すりすりしてくれる。
「怖かったね。今のでレベルあがってないかな?」
ステータスを開いてチェックしてみる。
僕の魔法使いジョブのレベルが一つあがって九になってた!
テイマーも六になってる!
そ、それに!
壁尻さんもレベル三だ!
しかも——!
「壁尻さん! スキルだ! スキル憶えてるよ!」
僕の言葉に衝撃を受けた壁尻さんはしばらく固まって、それから歓びを爆発させるようにぶるぶると揺れ出した。
もはやお尻の原型を留めないほどに波立っている。大興奮だ。
僕も大喜びで両手を広げると、壁尻さんがぬるーっと近づいてきた。
地面から離れられない壁尻さんの代わりに僕の方から飛びついて抱きしめる。
お尻のテイム紋に頬ずりすると、うっとりぷるんと壁尻さんが震えた。
あー、もう、ほんとかわいいなー。
喜びを分かち合った僕たちは、すぐに今いる玄室を飛び出して試し打ちの相手を探しに行った。
見つけた!
折しもスライムが一匹。
「やれる?」
ぷるん!
壁尻さんに確認すると自信満々に頷いた。
壁尻さんは精神を集中するように一瞬静止したあと、おもむろに新スキルを解き放った!
スキル≪風弾≫によって生み出された風の弾丸がスライムを襲う!
一撃だ!
壁尻さんはドヤ尻でぷるんと揺れる。
そんな壁尻さんを見て僕は思った。
尻の割れ目から放たれる不可視の弾丸。
その姿はまるで……まるで……っ!
おならバズーカだっ!!
僕の失礼な感想は壁尻さんには筒抜けになっていた。
そのせいでそれからしばらくの間、壁尻さんは拗ねてしまった。
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