第4話 今日は一人でレベリング
「ただいまー」
アパートに帰ると、部屋の奥からお尻が泳いできた。
やっぱり変な光景だな。
「ただいま、壁尻さん。ちゃんとお留守番できた?」
ぷるん。
部屋を見渡して変わりない事を確認してから、よしよしと撫でまわして魔力を上げた。
「これからダンジョン行くけど、壁尻さんはどうしよっか?」
ぷる……ぷるるん。
なんか歯切れが悪い。
本当は行きたいけど、足手まといになるから待ってるってことかな?
何とも健気なやつめ。うりうり。
「頑張ってレベル上げて、はやく壁尻さんと一緒に行けるようにするからね」
ぷる~ん。
かわいいお尻をいつまでもむにむにしていたいけど、今日は学校行ってた分時間もあまりない。
泣く泣く別れて、僕はダンジョンに向かった。
ダンジョン内の薄暗い道を慎重に歩く。
僕の装備は原付用の半ヘルに野球の捕手が使うプロテクターとRPGで長老キャラが持っていそうな長い木製の杖だ。
慎重に歩いて今日最初の玄室に入ったところで魔物を見つけた。
スライムだ。
人の頭ぐらいのサイズの水まんじゅうがぷるぷると揺れている。
ちょっとカワイイと思ったけど、うちの壁尻さんの方がもっとかわいい。
容赦なく杖の先端をスライムに向ける。
「≪ファイアボール≫」
杖から放たれた火球が一撃でスライムを倒してしまった。
やった。
昨日は二発かかっていたのに、今日は一発だ。
レベルが上がったおかげだろう。
スライムの魔石とドロップを回収したら入って来た時とは別の扉から通路に出る。
ゆっくり、ゆっくり慎重に。
僕は運動が苦手なのでメインジョブを魔法使いにしたわけだけど、サブジョブをテイマーにしたのはソロ魔法使いにおススメのサブジョブとしてネットで紹介されていたからだ。
テイムしたモンスターに前衛を担ってもらうことで、近づかれると弱い魔法使いでも比較的安全に探索できるというわけだ。
でも、初期のテイム枠は一つだけで、僕は壁尻さんのテイムにその枠を使ってしまったので、レベルが上がって次のテイム枠が解放されるまでこの戦法が使えないのだ。
いっそテイマーをサブジョブから外すことも考えたが、テイマーをジョブから外すとテイムモンスターのレベルが固定されてそれ以上成長しなくなってしまう。
僕は壁尻さんと一緒に強くなろうと約束したのだ。
だから≪経験値分配≫のアビリティが取得できるまでは一人で慎重に。
こそこそしながらいくつかの玄室に入り込み、中の魔物と戦った。
大体がスライムだったけど、一度だけゴブリンが出てきた。
人型を攻撃する忌避感よりも醜悪なゴブリンへの嫌悪感が勝って、特に躊躇することなく攻撃できた。
スライムは一撃だったけど、ゴブリンには二発必要だった。
ドロップしたゴブリンの魔石をスライムのと見比べてみたけど、ほとんど同じサイズで違いも分からなかった。
これならスライムばかり出てきた方が美味しいかも。
ゴブリンを倒したあとの玄室を見渡してみたけど他にモンスターもおらず宝箱もなかった。
今日はまだ一度も宝箱にお目にかかれていない。
わざわざ二階層に向かう正規ルートから外れたところを探索してるのに。
やっぱり時間が遅いと先に他の人が持ってっちゃってるのかな?
それとも宝箱自体が思ってるよりもずっとレアなものだったり?
まあ探索してたらそのうち見つかるでしょ。
しばらくそうやって探索していると、魔法使いのレベルが五になった。
レベルが五の倍数になるとアビリティとスキルを一つ取得できる。
事前にどんなアビリティやスキルがあるかは調べてあるので、迷わず取得する。
まずアビリティは≪魔力集中≫。
これは魔法を使う時に最大二倍まで消費魔力を増やすことで威力を底上げするアビリティだ。
単純に火力を上げるだけじゃなくて、さっきのゴブリンみたいに倒すのに二発必要な相手を一発半の魔力で倒せるようになったりして魔力の節約になるのだ。
そして、スキルは≪火魔法Ⅱ≫を取得。
これで≪ファイアウォール≫が使えるようになった。
ステータスを開いてサブジョブのレベルを確認する。
テイマーのレベルはまだ三だった。
サブジョブは経験値がメインの半分になるからしょうがない。
いっそメインとサブを入れ替えようか?
ダンジョン管理局に五百円支払えば転職クリスタルを使わせてもらえる。
一回ダンジョンから出て転職してこようかな。
いや、ダメだ。
ジョブを入れ替えたら魔法使いの能力値補正が無くなって魔法の威力が低くなっちゃう。
ジョブによる能力値補正が得られるのはメインジョブだけで、テイマーは補正がゴミだからサブ推奨ってネットでも言ってたし。
しょうがないからこのまま行こうか。
そう思ったところでふと時間を確認すると二十時を回っていた。
どおりでお腹が空くはずだ。
今日はもう帰ろう。
僕は脱出結晶(ダンジョン管理局にて絶賛販売中。お値段五百円/個)を砕いて開かれたゲートに飛び込んだ。
ダンジョンの外は真っ暗だった。
十一月にもなると夜はさすがに冷え込む。
身震いしながらダンジョンに併設されている管理局の建屋に飛び込んだ。
管理局の窓口で今日の成果を換金する。
魔石が三十とスライムからドロップしたスライムゼリー五個で合計二千円ほど。
う~ん、しょっぱい。
そういや今日は宝箱も見つからなかったしな。
でも昨日の上がりが二百七十円だったことを考えれば大躍進かな。
お金を財布にしまって建物を出ていった。
今日は疲れたからご飯食べたら壁尻さんをもちもちしてさっさと寝よう。
帰りにスーパーのお惣菜コーナーで半額シールのついたお寿司をゲットした。ラッキー。
「壁尻さんただいまー」
壁尻さんはぷるんぷるんと楽しそうに出迎えてくれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
≪作者からのお願い≫
拙作をお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、☆や♡、ブクマなどでの支援をお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます