第26話 実力差

 生放送という、緊張感のある時間はあっという間に過ぎていく。

 そしていよいよ、雪乃の前のアーティストである星野聖華の出番がやって来た。


 生放送番組であるため星野の曲の準備ができるまでの間は司会と雪乃がトークで場を繋がなくてはならない。


「いやー、有沢さん。今日のアーティストの曲を聴いてどうでしたか?」


「えっ、は、はい、皆さんとても上手で……えっと、すごかったです」


 そう答える雪乃は絶対に司会者と目を合わせない。


「あははっ、緊張しているようですね。次はいよいよトップアイドルと言われている星野さんの演奏ですが同じアイドルとしてどうですか?」


「ほ、星野さんとは先ほど、お、お話させていただきました。きょ、今日も自分を支えてくれた人たちの為にも全力で頑張るって仰っていましたよ」


「ほぉー、彼女がそんな事を? やはり、有沢さんにとっても星野さんは憧れですか?」


「ア、ハイ。わ、私達アイドルに取って星野さんは本当に尊敬できる方だと思います」


 雪乃がチラリと会場にあるモニターを見ると、snsにリアルタイムで書き込まれた番組の感想が表示されていた。

 大体は雪乃やこれから演奏する星野聖華に関する物だったが、その中にいくつかノーネームに関する質問もある事に気付いた。


「なるほど。ネットでも有沢さんに興味深々みたいですね、次は有沢さんの曲に関する事を質問させてください。有沢さんの曲は前もって聴かせてもらっていますが、何と言うか今までの曲とは違いとても斬新ですね。それでいて、メロディラインがとても綺麗で素敵だと思います。他の皆さんも気になっている様なのでズバリお聞きしますが作曲家のNoname先生とはどうやって知り合ったのか聞いてもよろしいですか?」


「は、はい、私がオーディション……他局のオーディション番組に出場していたんですが、そこで必要な楽曲を私の所属している事務所で募集していたんです。そしたら、そこに……Noname先生が楽曲を送ってくれたのが始まりです」


「おぉー、それはすごいですね。あれ程の名曲を送ってくれるなんて……。きっと、有沢さんは見所があると思われたのでしょう。もしもの話ですがNoname先生に楽曲を依頼したい場合は……?」


「え、えっと、すみません、先生の連絡先は社長しかしらないので分かりません……」


「そうですか、すみませんね、私も今は司会なんてやっていますが一応歌手としてもやってきたものでして、どうしても先生の楽曲に興味がでてしまい、あはは。でも、有沢さんの所属している事務所の社長さんなら連絡がとれるんですね、これは後で聞いてみなくてはっ!!……なんて、私だけ連絡を取ったら他のアーティストの皆さんにも恨まれそうですね」


 司会をやっている大御所歌手は冗談ぽく言っているが後で絶対に雪乃の事務所の社長に問い合わせようと考えいた。


「おっと、それでは星野さんの曲の準備が出来たようです。……それでは、星野聖華さんで『I am the best』です!」


 司会がそう言った所でカメラが切り替わりモニターに星野の姿が映し出される。

 雪乃はなんとか聖華の出番まで場を繋いだことに胸を撫で下ろし、次は自分の番だと気合を入れる。


 ――大丈夫、私は負けない。私たちが負けるわけがない。歌もダンスもすっごく頑張って連取して来たんだもん。


 雪乃は聖華の一挙手一投足を見逃さない様に集中するのだった。

 そして、曲が始まり踊り始める星野聖華。雪乃はその様子をじっと見ていた。

 モニターの星野が息を吸い込み、次の瞬間には彼女の歌声がスタジオ全体に響いていく。

 雪乃ははっと息を飲んだ。

 聖華のパフォーマンスは今日来ているゲストアーティスト達の中で抜きんでていた。

 ――こ、これがトップアイドル……星野聖華……。


 雪乃は余りに自分と違うその存在感と会場を魅了する歌声に動くことが出来なくなった。

 

 ――違う、私と全然違う。歌の技術もダンスも何もかも……。

 雪乃はなんとか自分を鼓舞しようと、胸に手を当てて目を閉じる。

 大丈夫、そうだ、大丈夫。曲……楽曲だけは負けていない。だから、大丈夫、私は大丈夫なんだ。

 しかし、雪乃の心に浮かんだその思いは消すことが出来ない。


 ――トップアイドルってこんなにも私と違うの……?


 この日の為に、雪乃は歌の練習を頑張った。寝る間を惜しんでダンスの振り付けを覚えた。諦めずに出来ない所を何度も練習した。

 必死だった、雪乃にはノーネームがくれたこの曲しかなかったから。自分の全てを捧げ頑張ってきた。

 それなのに、雪乃は実力の差を、まざまざと見せつけられているかのようだった。

 聖華のパフォーマンスは……余りにもレベルが高すぎた。

 雪乃は頭を振って自分の気持ちを無理やりに追い出そうとする。

 それでもどうしても思ってしまうのだ。


 怖い……。この人の後に歌うのが、すごく怖いよ……。

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