第5話 コンサートのお誘い
エーデルヴァイスという組織が、日本に巣食っているというのは世界的な常識なのだが。
たまに海外の勢力が敵対行動を取る事がある。
怪人という
「我が組織に敵対するのであれば報復は覚悟しておくのだ」
と宣言し、海外にまで怪人を送り込む。
日本には専門の対策部署があるので被害は少ないが、神出鬼没な怪人からの被害は少なくはないようで……
ここ数年はちょっかいを出す国も居なくなっていた。
日本では怪人を解析し、そのデータや技術を共有するために、研究費を建前に資金援助をしてもらっているという現状だ。
下手に手を出すことで報復され、自国民に被害が出ようものなら、政府の支持率を下げてしまう。
それより「正義の援助」をしてデータを受け取った方が懸命だと、諸外国は判断したのだろう。
お陰さまで、2020年頃から急激に傾いた経済で、先進国から外されてしまった日本は、なんとかその地位を取り戻す所まで来ている。
MASTはその立役者でもあるわけだが……最近はめっきり暇をもて余していた。
「──怪人出ねえな」
当番の日ということもあり、茜が待機室でクダを巻いている。
「平和なのは良いことですよ」
蒼士もそう返しながら、本を片手に紅茶に手を伸ばす。
服装は自由なはずだが、スーツにネクタイのスタイルを崩さないのは、彼なりにポリシーでもあるのだろうか。
彼の部屋に入ったものは居ないが「本棚に埋め尽くされている」とか「同じスーツが何着も並んでいる」などと噂されている。
もっとも、こそこそ言ってるのは茜だけで、他の者はそこまで興味は無さそうだが。
「おめぇさ、毎日同じの飲んでて飽きねぇ?」
暇すぎたのか、絡み始める茜。
「貴女にはこれが同じに見えるのですか?」
そう言うと、透明のポットを持ち上げ、見せ付けるように高く掲げた。
濃い琥珀色の液体が、丸いポットの中でちゃぷんと跳ねる。
それを目を細めて凝視するが、茜はその違いを理解できずに一瞬で諦める。
「いや、どうみても変わんねぇだろ?」
「昨日のはベルガモット……いわゆるダージリンです。今飲んでいるのはルフナですね」
「は?
「飲んでるんですから、飲み物なんじゃないですか?」
蒼士が鼻で笑いながらそう言うので。
ご多分に漏れず茜の額に青筋が立った。
「こらこら、喧嘩になるのになんで毎回話しかけちゃうの?」
タイミングの良いところで、桃海が止めに入る。
今日もピンクのフリルつきの洋服で、ふわふわと裾を揺らしながら部屋からでてきた。
「退屈なんだよ、蒼士でもいじってねぇと暇なんだよ」
「いじられる側なのでは?」
「はぁ!?」
「こらこら、喧嘩しない!」
お約束のその一言で、二人は背を向けて会話をやめた。
「そーいや
暇潰しのターゲットを桃海に切り替えた茜。
左手で頬杖をつき、ダルそうにテーブルに体を預け、あまり興味がなさそうに聞く。
「うん、家にいるより、こっちの部屋の方がネット強くって」
周知の事実だが、川浪兄妹はどちらもオタクであり、ネットの世界の住人なのだ。
「まぁ、支給で飯も食えるし、紅茶も飲み放題だしな……ウチは飲まんけど!」
「こらこら。でもほんと、家より居心地よくって」
「ウチも、蒼士いなけりゃ割と居心地いいんだけどな」
「もうっ。いちいち喧嘩売らないで」
当の喧嘩を売られた本人は、完全に無視して本に集中しているようだ。
「今度、リアルでイベントやることになって、その打ち合わせとか、スケジュールとか、色々やってるから」
「あー、なんかアイドルやってるって言ってたな」
「うんうん、茜ちゃんも遊びに来ない?」
手を後ろ手に組んで、体を横に倒しながら、満面の笑みで誘ってくる。
相手が男なら、有無を言わさず首を縦にふってしまいそうな仕草だが、茜は眉間にシワを寄せて悩む。
「まぁ桃姉の頼みなら行かんことはないけどよ、桃姉が休みの時にウチまで休めるか……」
「そうなんだよね……でも一応、お休みの申請だけしておいて」
「あいよ」
それを聞くと、桃海はスキップで部屋に戻っていった。
嬉しさとうらはらに、不安もあるのだろうか? 努めて明るく振る舞っているように茜には見えた。
その後ろ姿を見送ったあと。
「ったく、アイドルのコンサートなんか柄じゃねぇんだけどな」
と言いながら、椅子にもたれ掛かる。
実際にオタクの海に埋もれる自分を思い描くと、ゲンナリしてきた。
「桃海さん、かなり人気みたいですよ。
本から目をそらさずに、蒼士が言葉を発する。
「なに? そうなのか、てっきりチケットが売れないからウチに来て欲しいって言ってるのかと思ってたが」
「彼女、ネットでは数万人プレイヤーですよ、東京ドームでも満席にしてしまうかもしれません……ネット見てないんですか?」
「ばっか、大袈裟だなぁ。あんなロリババァに誰が引っ掛かるんだよ、25だぞ25」
「それが引っ掛かるんですよ。あと、25歳はまだババァとは呼称しませんよ」
そう言いながら紅茶を
会話しながら本を読みながら、紅茶を
器用な奴だ、と茜はいつも思ってる。
彼女は猪突猛進、同時に2つの事をやるのも苦手だ。
「まぁ、仕方ねぇ、約束しちまったしな。男に二言はねぇぜ」
「女でしょう?」
「うるせぇよ、カンヨークって奴だろ!」
何だかんだで面倒見の良い茜を、蒼士は悪く思ってなかった。
しかし相性は最悪だと、今日もため息を付くのだった。
【完結確約】ヤンキー、眼鏡男子、VTuber、デブヲタ、酔っぱらい、五人揃って戦隊もの!!コミカルだけど世界救ってます【セイギのミカタ】 T-time @T-time
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