第5話 彼女のプライベート【5】
「旬くんのブースに行くのを楽しみに、今日まで仕事を頑張ってきたんですよ?私はあなたには従いません」
「じゃあ、俺もついて行く」
ハピカレのブースに暁と行くことを想像し身震いする。間違いなく目立ってしまう。
「社長は私の邪魔をして一体なにがしたいんですか?」
「俺のことしか考えられないようにする」
「うわぁ〜、廉くんそのものの口調」
芹はあからさまに嫌そうな顔をする。
「おい。どういうことだ?」
訳の分からない暁は箕谷に説明を求めた。
「あっ、はい。ハピカレの三銃士の性格ですね。廉は俺様御曹司、旬はツンデレ紳士、稜は甘々王子なんです」
「プッアハハハハハッ」
そこで黙って様子を見ていた駿が爆笑する。
「ああ⁇駿のその笑いはなんだ?」
「だ、だって。プッ。見た目も中身も廉そのものってことだろう?はぁ〜おかしい」
「誰が俺様御曹司だ?」
「いや、まんまおまえは俺様で御曹司だし、誰かがお前をモデルにしたに違いないな」
「ですよね〜私も思ってました」
芹も実はずっと前から、新城社長がハピカレのモデルではないかと思っていたのだ。
「まあいい。芹には残念ながら、旬は諦めて俺様御曹司を好きになってもらうしかないな」
「嫌です」
「俺が目をつけたんだ。逃げられると思うなよ」
「うわぁ〜廉くんがいいそう」
さらに嫌そうな顔をする。
「会社で、芹が乙女ゲーム好きでコスプレ好きなのをバラされたくなかったら、俺の言うことを聞くんだな」
「……。サイアク」
会社では目立たないように地味にして、それ以外の時間は旬くんに費やしている芹には、暁に使う時間は微塵もない。
「さあ、芹行こうか?」
「本気で嫌ですが」
「俺を焦らしてどうする?」
「自分中心に世の中が回ってるとでも思ってます?これだから俺様御曹司は……」
自分勝手な暁を前に、自社の社長ということも忘れ文句をいう。一方の暁は、何を言われようが諦めるつもりもないので、そんな芹ですら可愛く思えてしまう。
今までにない暁の執着に、駿はこれからが思いやられる。暁に対して思ったことをはっきりと言える芹は、ある意味貴重な存在だ。
《side 芹》
幕内メッセでのイベントを、この半年ずっと楽しみに仕事を頑張ってきた。
小さい頃からマンガやアニメが大好きで、いつからかアニメのキャラに自分がなりたくてコスプレにハマった。手作りのコスプレ姿が評判になってイベントへ呼ばれるようになり、プライベートの時間は趣味に費やしている。趣味を楽しむために働くが、どうせなら好きなことをしたいとゲームソフトの会社に就職した。
ちょうどその頃から流行りだした乙女ゲーム『ハピカレ』は、仕事の参考にと始めたのだが、スマホでいつでもできる手軽さと、ターゲットを絞り開発されたとわかるキャラ設定に私も見事にハマったのだ。
自社のゲームソフトでも乙女ゲームが開発され人気になっているが、私はハピカレの旬くん一筋で一途に想って生活している。
彼氏を欲しいと思ったことも、実際にいたこともない。世間ではオタク女子と言われている部類だと自覚しているが、まったく変えるつもりもない。だから、会社では極力素顔を見せず、私生活と会社の姿が一致しないように心掛けていたのだ。
まさか、エントランスで転けたことがきっかけで、こんなややこしい状況に巻き込まれるとは予想だにしなかった。
前々から新城社長の噂は耳にしていたが、聞けば聞くほどハピカレの廉くんとキャラが被る。新城社長をモデルにしたのではないかと思うほどだ。
でも私にとっては旬くんが理想であり、廉くんはまったく受け付けないキャラだ。よって新城社長の本来の姿は知らないが、近寄りたくない存在であることは間違いなかった。
それが――。
あの日から、新城社長が退社時間にエントランスに居座り、嫌な予感はしていた。でも私も見つからない自信はあった。あの日旬くんに気を取られていなければ……。
まさか新城社長に見破られるとは思わなかった。
こうして幕内メッセにまで押しかけてくるなんて考えもしなかった。俺様御曹司からなんとか逃げたい。
さて、これからどうしようか。
新城社長の方が何枚も
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます