第5話 彼女のプライベート【1】
社長室に戻てきた駿を見て暁は訝しく思った。
「おまえ、芹となにかあったのか?珍しくニヤけてる。芹は俺のだ。渡さないぞ」
声からは苛立ちが伝わる。
「なにもないです。成宮さんに特別な感情はないのでご安心を。ただ……」
「ただ?」
「人としては大変興味があります」
「はあ?」
眉間に皺を寄せ駿を睨む。興味があるとは聞き捨てならない。
「彼女が、今までに出会ったことのない種類の女性だと言うことは間違いないです」
「どういうことだ?」
「暁の周りに寄って来たり、お近づきになりたいと思っている女性とは違うってことだ。暁の前では本性を隠していても、俺に媚びてくるってこともあっただろう?」
プライベートな話に、駿の言葉遣いはだんだんと本来の親友のしゃべり方になっている。
「惚れるなよ」
「それはないけど今後が楽しみなのは確かだ。お前がこんなに執着することってなかっただろう?」
「ああ。エントランスで目が合った瞬間、こいつだって思った。芹を逃したら俺は一生独身だな。初めて感じた気持ちだが、この気持ちは最初で最後だと確信している」
「暁にそこまで言わせるってすごいな」
「ああ、気恥ずかしいが運命の相手だな」
「……。初めて仕事以外でお前をカッコイイと思ったよ」
「初めてって、おまえ失礼だな」
芹の中では一瞬で忘れ去った社長の存在だが、まさかこんなに執着されているとは知るはずもなく、すっかり終わったと思っていた。
「明日の予定は?」
「明日ですか?」
一瞬で秘書モードに戻りタブレットを取り出した。
「明日は……。午前中に打ち合わせが一件ですね」
「場所は?」
「えっと、幕内のホテルの会議室です」
「幕内。駿、早く終わらせて行くぞ」
「まさか」
「ああ、そのまさかだ。シュンとやらを見てやろうじゃないか」
「おまえ楽しそうだな」
「ああ、楽しくてしかたない。このタイミングで幕内のホテルで打ち合わせが入ってるなんて、やっぱり運命だな」
確かに先週は関西方面の打ち合わせだったが、今週は偶然に幕内だ。天は暁を応援しているのではないかと思ってしまう。
「ところで、なんのイベントかチェックしなくていいんですか?」
「ああ。楽しみは取っておこう」
楽しみにして調べなかったばかりに驚くことになるのだが、ある意味調べなくてよかったのかもしれない。二人の予想を遥かに超えるイベントが開催されていた。
社長になってから土日の休みはゴルフや接待、打ち合わせが入り休みらしい休みはない。駿もできるだけ休めるようには調整しているが、難しいのが現状だ。
そんななか幕内近くで打ち合わせの後、午後は予定が入っていない。いつもなら会社に戻り仕事をするが、間違いなく幕内メッセに行くチャンスだ。こんなに明日が待ち遠しく思うなんて、大人になってからあっただろうか。
翌日、ビシッとスーツを着込んだ暁の姿は、幕内のホテルにあった。休日は運転手ではなく、駿が運転する車で移動する。
いつも以上に気合いが入っているが、若干空回り気味だ。
「お前朝から落ち着かないなぁ」
「うるさい。こんなに、心が落ち着かないのは初めてだ。仕事で緊張とかしたことないのに」
「少しは緊張しろよ。にしても、お前が女性に対して興味を持つのも、必死になるのも新鮮だわ。で?シュンってやつに会えたらどうするんだ?」
「どうするかな……。宣戦布告?」
「おまえ本気か?」
「相手次第だな」
まずは仕事だと、いつも以上に冷静にきびきびと打ち合わせをこなした。
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