第4話 攻防戦【4】

「芹、明日は土曜で休みだが予定は?」

「あります」

「シュンか?」

「……」

「シュンはなにものだ?彼氏か?」

「プライベートのことにお答えする必要はないですよね?」

「……」

「そろそろ失礼してもよろしいですか?」

「芹には、明日休日出勤をしてもらおうかな」

「はあ?職権乱用しないで下さい。明日は、幕内メッセにあっ」


 思わず行き先を言ってしまい口を抑えるが、時既に遅し。暁はしてやったりとニヤニヤしている。


「へ〜、イベント会場でデートかぁ」

「……」

「楽しみだなぁ〜」

「へ?なにが?まさか来ないですよね」

「まぁ、俺もそんなに暇じゃないからなぁ」

「ですよね!」


 芹は暁の言葉にホッと胸をなでおろす。ニヤニヤしたままの暁を訝しく思いながらも、長居はしたくない。


「では、失礼させていただきます」


 このタイミングを逃すまいと立ち上がる。


「あっ成宮さん、最上階からのエレベーターはセキュリティの関係上、勝手には動かないので下までお送りします」

「お願いします」


 先程までと違い暁が騒ぐこともなく、あっさりと社長室を後にすることができた。



《side 芹》


 社長室を出て、やっと解放されたことに思わず安堵のため息が漏れる。


「成宮さん」

「あっ、はい」


 解放感から油断してすっかり稗田さんの存在を忘れていた。


「お聞きしてもよろしいですか?」

「⁇なんでしょう?私にお答え出来ることでしたら……」

「あなたは、暁のことをどう思っているのでしょう?」

「うちの会社の社長様」


 社長も私の中では要注意人物だが、稗田さんは曲者だと思う。SPのイメージだったが、秘書としてもかなりの切れ者なのが伝わってくる。


「それだけですか?」

「それ以外は……」

「正直な気持ちを教えていただけませんか?」

「クビになったりしませんか?」


 クビにはならないとわかってはいるが、警戒していることをアピールしてみた。


「えっ?クビを心配する程の内容に大変興味があります。もちろん、本音を言ったからと言ってなにもありませんからご安心を」

「じゃあ遠慮なく言わせていただきます。私の中では、イケメン俺様腹黒御曹司社長ですね」

「……。ブハッ、す、すみません。ククッ、ヤバイ、成宮さん面白すぎます」


 そんな面白いことを言ったつもりはないが、稗田さんがお腹を抱えて笑っている。


「笑うところありました?」


 私はそのまま素直に伝えただけだ。


「アハハハハハッ、今まで暁にそんな言い方をする女性に会ったことがなくて……。もう、新鮮で面白すぎました」

「あ〜皆さんの憧れの社長様ですもんね」

「あなたは、憧れはないですか?」

「私?ないですね」

「迷いないですね」

「イケメンで御曹司で社長ってだけでも胡散臭いのに、性格も良くなんてありえます?元に、よくいえばクールかもしれませんが、見るからに身勝手な俺様じゃないですか」

「……」


 黙った稗田さんを見て言い過ぎたと思ったが、言ってしまったことは取り消せない。クビにはならないと言っていたので、言いたいことを言えてスッキリした。会話をしている間に、エレベーターはエントランスに到着した。


「稗田さん、ここまで送っていただきありがとうございました」


 私はお礼を伝えてさっさと立ち去る。それにしても今日は厄日だ。エントランスで旬くんに気づかなければ……。


 社長室に連れて行かれている間に、中途半端に放っておいた旬くんは拗ねてしまった。旬くん、帰ったらいっぱいラブラブしようねと、私の中では一瞬で社長の存在は消しさられた。




 

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