第4話 攻防戦【3】

 暁の後ろから現れた女性を見て駿はポカンとしてしまう。そんな駿を置き去りにして暁は芹を連れて、社長室に向かって歩きだしている。


「ちょっ、どういうことだ?」


 駿は、思わず疑問を口にした。


「なにがだ?」

「な、な、成宮さん?」

「えっ?」


 芹は突然自分の名前を呼ばれて戸惑いの声を出してしまう。


「駿、とりあえず部屋に戻るぞ。話はそれからだ」

「あ、ああ」


 エントランスで派手に転けていた芹の姿と今の姿が違いすぎて駿は戸惑いしかない。同一人物だといわれても納得できるわけがない。


 社長室は予想通り豪華だが、綺麗に片づいていて好感が持てる。普通の女性なら初めて入る社長室に、きょろきょろ見回し興味を示しそうなものだが、芹は動じることもなく勧められたソファーへ素直に座った。


「改めて、成宮芹だな」

「違いますって言っても、もう確信してるんですよね」


 転けた時のおどおどした様子は微塵もなく、暁は面白いものを見つけた子供のような高揚感が湧き上がってくるのを感じる。その横で駿は、未だに理解しきれていない表情になっていた。


「ああ」

「……。サイアク」


 芹の心の声は完全に漏れている。


「……」

「ブッ」


 こんなにあからさまに嫌がられたことのない暁と、暁に堂々としていて媚びない女性を初めて見た駿では反応が異なる。


 その時――。


 『ピコンッ』と芹のスマホの通知音が鳴った。


「あっ」


 ここで芹はスマホの存在を思い出し、暁の存在を一気に消し去り手元を見る。


「あぁ〜サイアク〜旬くん〜」


 そして男性の名前を言いながら落胆する。


「シュン!?」


 暁は嫉妬と怒りと驚きの声をあげ、駿をギロッと睨む。睨まれた駿は、自分を指差し首を左右に振り無実を訴えた。


 そんな二人に気づいていない芹は、スマホ画面を見たまま項垂れている。


「おい!」

「……」

「芹!」

「えっ?私?」


 すっかり自分の世界に入っていた芹は、呼ばれたやっと今の状況を思い出した。


「シュンて誰だ?」

「……。社長に関係あります?」

「暁だ」

「……⁇なにが?」


 もう、暁に対しては敬語すらなくなりつつある。


「俺の名前だ」

「はあ、そうですか」

「呼んでみろ」

「はあ?なんで」

「なんでもだ」

「意味がわからない。パワハラですか?」

「プッアハハハハッ。もうダメだ。なんだ?このバカげたやり取りは」


 二人の会話を聞きながら、口を押さえて笑うのを我慢していた駿に限界が来た。


「で?シュンは誰だ。こいつのことじゃないよな?」


 暁は、駿を指差し言う。


「⁇え〜と、こちらの方はそういえばどちらさまですか?」


「「……」」


 意外な反応にふたりポカンとする。新城社長と秘書の稗田といえば、新城堂でもセットで知られる存在だ。


「成宮さん。自己紹介が遅れて申し訳ございません。わたくし、社長秘書をしております稗田駿と申します」

「秘書……」

「なんだ?なにか言いたそうだな。思ったことを言ってみろ」

「いえ、すみません。社長のSPの方だと思っていました」

「ブハッ」

「……。よく言われます」


 いつの間にか社長室は和やかな雰囲気につつまれていた。暁が素の自分を出しているこの状況に駿は驚くばかりだ。


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