第2話 出会い【4】

 数分後、なぜ呼ばれたか分からない『シンジョーテック』の社長の名取が慌ててやってきた。


「お呼びでしょうか。なにかありましたか?」


 社長室へ入った途端に疑問を口にする。急な呼び出しに不安と戸惑いしかない。


「名取さんお久しぶりです」

「稗田さん、なにがあったんです?」


 普段から交流があるとはいえ、アポなく呼び出されるとは嫌な予感しかしないのだ。


「お聞きしたいことがありまして」

「はい」

「名取さんの所に、成宮芹さんという女性はいますか?」

「へ⁈」


 まったく予想もしていなかった質問に変な声が出てしまう。そして、無意識に視線を駿から暁へ向けた。


「どうなんだ?」

「はあ。成宮さんならうちの企画開発部に……」

「で?」

「へ⁈」


 で?と言われても名取にはまったく意味が分からない。戸惑い駿に視線を戻す。


「暁、そんなんでわかるわけないだろう?名取さんすみません。成宮さんはどんな女性ですか?」

「どんな……」

「ええ」

「ひと言でいうと」

「いうと?」

「謎多き女?ですかね……」

「「はい⁈」」

「本当にどう説明したらいいのか」

「まったく意味がわからないのですが」


 駿が素直な意見を述べる。


「はあ。我々もよくわからないんです。眼鏡をかけて顔を隠すようにしていますし、素顔は見たことがないですね。仕事中の様子は……。とにかく仕事ができるのは確かなんです。もう、それはミスもなくスピーディーで完璧です。なんですが……」

「ですが?」

「プライベートというのか、退社後はまったくの謎なんです」

「謎?」

「はい。わが社は5階がワンフロアすべて女子ロッカーですよね。ビル内のグループ企業全部の女性が利用する。もちろん成宮さんも利用してるはずなんです」

「「はあ……」」

 

 話がわからずハテナでいっぱいだ。


「ですがロッカーを出入りする成宮さんを見たことがないと、一時期社内で話題になっていました。いや違うな。退社後ロッカーに入る成宮さんは見掛けるが、着替えて出ていく成宮さんを見掛けないらしいです。その反対も」

「つまり?」

「だから謎なんです。ロッカーは会社ごとではなく、入社時点で空いているところが、順番に割り当てられています。社内の人間でも親しくないとロッカーの場所は知らないでしょう」

「成宮さんは親しくしている人はいないんですか?」

「仕事で必要な会話はしていますが、基本誰とも群れないらしいです。私もどんな女性なのか気になって成宮さんと同じ部署の子に聞いたことがあるんですが……」

「ですが?」

「はい、みんな口を揃えてまったくわからないと」


 話を聞いた暁は、先程見た彼女のことを思い出す。あんなに大胆にわざとじゃなく転ける大人は見たことがない。


「プッククククク。アハハハハッ」

「「……」」


 突然笑いだした暁に、駿と名取は驚きすぎて戸惑う。声を出して笑うこともましてや女性に興味を持つことも、今までまったくなかったのだから……。


「じゃあ、先ずは彼女の謎を知るところからだな」

「「えっ」」


 暁の意外なひと言に二人は戸惑う。


「名取さん、成宮芹はいつも定時で帰るのか?」

「はあ。彼女はいつもきっちり定時までに仕事を終わらせると聞いているので、よっぽどのことがない限りは定時だと思います」

「そうか。わかった。芹の謎、俺が突き止めてやる」


 ニヤッと笑った暁は、おもちゃを与えられた子供のような、わくわくして楽しくてしょうがないという表情をしている。


 こんな楽しそうな暁は初めてだ。成宮さんには気の毒だが、人間らしい暁を見られて嬉しくなる駿と、いまいち状況を理解できていない複雑な名取は、結局は今後の暁を見守るしかないとの結論に達した。


 もしかしたら、暁にとっての運命の相手かもしれない。


 だが、一方的に暁にロックオンされた芹の運命は――。


 まさか暁の前から逃げ出した後、調べられているとは思いもしていない。








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