第2話 出会い【3】
もうとっくに立ち去ったと思っていた暁の右腕である駿の突然の登場に、驚き慌てふためくも遅い。
「「すみません」」
「ここは会社の顔であって、お客様が一番最初に訪れるところ。噂話なんてもってのほかです」
「はい……」
「あなた達の直属の上司にはしっかり報告しておきます」
「「申し訳ありませんでした」」
会社の顔である彼女達から、色々な噂が流されていると苦情が入っていた。お客様と顔を合わせる大切な部署では、あってはならないことに処分を検討していた。
容姿はもちろん語学も堪能で優秀なはずだが、誰よりもプライドが高く扱いづらい。
今のところ暁には直接は接触できていないが、あわよくばと狙っていることは伝わってくる。
「ところで、先程の女性はご存知ですか?」
「え?」
「派手に転けた女性です」
「な、なぜ?」
暁の秘書である駿に、あからさまに戸惑いの表情を見せ敬語も忘れて理由を聞いてくる。しっかりと注意したいところだが、八つ当たりされて先程の女性に被害がいっても困るので、咄嗟にもっともらしい説明をする。
「新城堂のオフィスビル内で起きた転倒事故を目の前で目撃して、知らない顔をするような社長だと?」
「い、いえ……」
「社長に代わり私が怪我の具合を確認をするためなのですが、ご存知ないですか?」
駿の威圧感ともっともらしい理由に嫌でも答えるしかない。
「『シンジョーテック』の成宮芹さんです」
「受付とはいえ、かなりの数の社員がいるなかで名前がすぐに出てくるということは、彼女は有名なんですか?
「はあ、まあ」
「理由は?」
「まあ色々と……」
濁されると気にはなるが、受付でも知っているのなら調べればすぐにわかるだろうと駿は引くことにした。
「ありがとうございました。仕事に戻って下さい」
『シンジョーテック』とは好都合なのだ。社長は、グループの中でも暁に次ぐ若手で普段から交流がある。駿は暁のあり得ない表情を思い出し、ひとりほくそ笑みながらエレベーターで社長室のある最上階を目指した。
最上階に着くと暁が待っているであろう社長室に向かう。
今まで暁と行動を共にし色々な経験をしてきたが、こんなにワクワクすることは初めてだ。
なにごとにも完璧な幼馴染は、普段から感情をコントロールしていて表情に出さない。だから駿以外にはまったく伝わらないのだ。しかも、愛情に関しては最初から存在すらしていないかのような男だ。
そんな暁が一瞬見せた表情が駿にはなりより興味深い。
『コンコン』
「はい」
「稗田です」
「入れ」
「失礼します」
「で?」
「いきなり本題ですか?そう焦らなくても」
珍しい暁の姿にからかいたくなる。すでに暁の顔には苛立ちが……。
「駿」
「怒るなって。彼女は、シンジョーテックの成宮芹さんだ。受付ですぐにわかるくらい有名なようだ」
「シンジョーテック……。そうか、じゃあ」
「わかりました。社長の名取さんを呼びますね」
「ああ」
暁の言わんとすることは、手に取るように理解している。
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