第2話 出会い【2】
「痛っ〜い。なんで?何かに引っ掛かったんだけど〜えっ⁈」
暁の苛立ちが伝わってくるが、起き上がりながらひとり言を呟く女性に駿は内心笑いが込み上げる。
そして、女性も周囲からの視線を感じたのかオロオロしているように見えた。
その時、駿の後ろにいたはずの暁が動き出した。
「おいっ」
駿には声だけでかなりの苛立ちが伝わる。
「え⁈」
「お前、わざとか?恥をかいてまで俺の気を引きたいのか?」
「……。えっ⁈だ、誰?」
暁の怒りに対しての女性の反応があまりにも意外すぎて、暁や駿だけでなくその場にいた野次馬達まで驚いたのはいうまでもない。暁は微妙な顔つきで、女性の前まで行きなんと片膝をついてしゃがみ女性に目線を合わせたのだ。
次の瞬間に、暁がみせた表情を駿は見逃さなかった。一瞬目を見開き驚いた表情の後、口元が微妙にだが上がったのだ。普段の暁からは考えられない嬉しそうな表情。
そんな暁の変化に気づくわけのない野次馬達には、なんともいえない緊張感が漂っていた。
「俺を知らない?そんな訳ないだろう?このオフィスビルで働いてるよな?」
若干言葉はきつく感じるが、暁からはなにかを期待している様子がうかがえる。
「は、はい。あの〜眼鏡が……」
「はあ⁈」
いつも冷静な暁には珍しく素っ頓狂な声を上げた。駿は、先程から気づいていた女性の飛んでいった眼鏡を拾いふたりに近づいた。
「こちらでしょうか?」
「あっ、すみません。ありがとうございます」
素直にお礼を言いながら眼鏡をかけた女性の反応がこれまた面白すぎた。
「し、し、し、新城社長〜」
絶叫がエントランスに響き渡った。本当に暁だとは、気づいていなかったようだ。大勢の前であの転け方は、面白すぎる。
小動物のように、ちょこちょことした動きで立ち上がった女性は、かなり小柄なお人形のように可愛い女性だった。だが、眼鏡をかけた途端素顔が隠れると地味なイメージになるのがまた面白い。
そこからが、更に面白かった。
「新城社長、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。お見苦しいところを見せてしまいました。本当にすみませんでした」
謝りたおしたと思ったら、ちょこちょこと森へではなくエレベーターの方へ走って逃げて行った。女性の去った後のエントランスには、微妙な空気が流れている。
暁も驚きから呆然としていて、ハッと我に返った時にはもちろん女性の姿はなく、自分だけが注目を集めているのだから居たたまれない。
「皆さん、仕事に戻って下さい」
駿がエントランス全体に聞こえる声で言ったことでやっとみんなが散っていく。
「駿」
暁の一言で、何がいいたいのか駿には伝わった。女性が誰かを知りたいのだ。そして、今の様子からすると悪いことではなさそうだ。
ただ、女性の方は望んでなさそうだが……。
「先に、オフィスに戻っていただけますか?」
「ああ」
駿は暁が専用エレベーターに乗り込むまで見送り、エントランスにある受付へ戻った。
受付でも目の前で繰り広げられていた様子が丸見えだったのだ。来客がいないことをいいことに、先程の出来事の話をしている。
「見た?あの子の転け方」
「見た見た。私なら暁様の前であんな転け方したら立ち直れない〜」
「「アハハハハッ」」
「わが社の受付も質が下がったようですね」
「「えっ⁈」」
駿の声が聞こえ、鼻で笑ってバカにしていた女達が固まった。
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