28.正体
「た、ただいま……。」
「ひ、光!おかえり!」
「大丈夫だったか!?見つからなかったか!?」
光が帰ってくると、皆が一斉に光の方に集まった。
「わかった、わかったから。一から説明するから……。」
そして、さっきまであった事を一から話した。
「え!?助けてくれたの!?」
「それくらい、セイジさんの意見が気に入らなかったのね……。」
「とりあえず状況はわかった。そのデータを見せてくれ。」
「わかった。」
光はノートパソコンを起動し、USBメモリを挿した。
「わ、暗号化になってる……。」
光達がUSBメモリに移されたデータを見ようとした時、全て暗号化されており、見れなかった。
「光、これじゃあ……。」
「大丈夫、任せて。」
心配そうな皆をよそに、光はキーボードを操作し始めた。
すると、みるみる暗号を解読していき、とうとう全ての文章が読めるようになっていた。
「はい、出来たよ。」
「光、もうそこまで出来るようになっていたのか!」
「うん。ちょっとセイジさんにも教わってね。」
「え!?いーなー!」
「そんなこと言ってないで、中身見るぞ中身。」
翼の呼びかけにより、皆はパソコンの画面に注目した。
『zero』について
「真の平等」を掲げ活動しているが、実態は「人間を滅ぼす」事を目標に活動している団体である。『metatual』での『bug』の投与、現実世界での犯罪者、または予備軍の殺害、会員勧誘、そして洗脳、挙げ句の果てに会員に自殺示唆、と大量の犯罪を犯している。
【追記】会長である火門に『百虫夜行』を止める様指示したが、結果やってしまった。そして、一般人を巻き込もうとしている。もう死刑を免れることほ出来ないだろう。
『zero』の本拠地
本拠地は『metatual』で一番栄えている街の遥か北にある無骨で巨大な建物である。
【地図】【建物の写真】
現実世界ではバレぬ様にバラバラになって行動している様子。現在一人確保。
【追記】『metatual』を閉鎖した後も何かしらの方法で介入して活動している模様。
『zero』のメンバー
会長「
幹部「羽咲紫苑(通称:パープル)」「原田葵(通称:ブルー)」「鈴原晴人(通称:サニー)」【三枚の画像】
プログラマー「……」「……」「……」――――
(現在十七名)【十七枚の画像】
一般会員「……」「……」「……」――――
(現在五十二名、大きな変動あり)【五十二枚の画像】
以上、七十三名
「……なに、これ。」
普通の人が文章と画像を見たらただの「頭のおかしな団体」だと思うだろう。元に、颯がそうだった。
しかし、光、彩芽、翼、久遠はあまりにも馴染みのある人物が写っていたのだ。
「紫苑ちゃん……?」
「やっぱり、葵は翼を……。」
「久遠?」
「……黙っててごめんなさい。私の勘違いだと思ってたら違ってたみたい。恐らく、あの時アンタを突き落としたのは――。」
「……なるほどな。」
彩芽が絶句し、久遠と翼が納得している側で、光はとある画像に釘付けだった。
晴人はわかっていたのだ。わかったいた。だが――。
「佐伯、火門……?」
佐伯火門と書かれた文章の下に貼られた画像に見覚えがあったのだ。
――昔、会った人。忘れることはない。ずっと一度だけでも会いたかった人。
数年前に会った時よりもだいぶ伸びた癖っ毛の髪、少し老けただろうが、いまだにあの時の面影を持つ顔が、あまりにも残酷な現実を突きつけていた。
彼の名前を今初めて知った。こんなところで知りたくなかった。
「……光ちゃん?」
「……え?」
「何をずっと見てるの?」
彩芽に指摘され、光は酷く動揺した。
「な、なんでもないよ!こ、これからどうするの?」
動揺している光に皆は驚くが、見て見ぬふりをする様に颯が発言した。
「……恐らく、俺らの殆どが『zero』に所属している人達と関わっているんだろうね。俺は、誰も『zero』に知り合いはいない……強いて言うなら、彩芽の友達が知ってる程度かなって感じだけど……。それだけ、俺らに多大な影響を与えている。」
「そうだね。でも、このまま放置するわけには行かないよね。」
「……アイツらは、大量殺人を考えてるぞ。」
「その前に止めないといけないわね。」
皆が口々に言っていく中、光だけ黙り込んでいた。その様子を彩芽が見ていた。
「光ちゃん、本当に大丈夫?」
「……うん。大丈夫。」
光の顔は青ざめ、カタカタ震えていた。そんな状態で大丈夫なんて、そんなことは無いだろう。
光は信じたくなかった。勇気や陽美を殺した元凶が、昔から想っていた人だなんて。
「……一旦、ここで解散にしないか?」
「え?」
翼の発言に光は驚いた。
「もう深夜だし、ここで何するか話しても、冷静な判断は出来ないだろ。だから、何日か、早くて一晩経ってから話そう。」
俺もそうだから。と翼は付け加えた。皆は頷き、その場でお開きとなった。
光はベッドに入っても眠れずにいた。
自分を慕ってくれた陽美が死んで、自分の生きる意味だった勇気が死んで、そして二人が死んだ間接的な理由が昔から好きな人だったなんて、信じられなかった。
彼は、どうしてこんな残酷な事をしたのだろうか。なんで、優しかった彼は、こんなことになったのだろうか。
もし、彼らを止めても、死刑は免れない。いずれ死ぬ。そう、資料に書かれていた。
世界は、どうして自分に冷たいのだろうか?
光はいつしか思考が跳躍して世界を恨み始めていた。が、そんなことしても無駄だと思い、すぐに考えるのをやめた。
そうやって堂々巡りをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「光ちゃーん。寝てるー?」
「……起きてるー。」
「そっか。入るよ。」
そこには心配そうな顔をしている彩芽がいた。
「光ちゃん。何かあったの?あれを見てからおかしいよ。」
「それは……。」
光は口をモゴモゴしていた。どうやって言おうか悩んでいたのだ。
「……ゆっくりでいいからね。」
彩芽は、布団から出てきてベッドに座っている光の側に寄り、しゃがんで目線を合わせてそう言った。
光は意を決したのか、真っ直ぐと彩芽の目を見てゆっくりと話し始めた。
「私、昔お母さん達がいない時に勇気を置いてこっそりと一人で公園に行ってた時があったんだ……。とある人に会いたくて。多分、好きだったんだ。その人が、今、『zero』の会長をしてて。」
へらへら笑いながら言う光を彩芽はただただ見ていた。
「なんでそんなことしてるんだろって。優しい人だと思ったのに。なんでなのかなぁ……。」
笑っていた光は、いつしかポロポロと涙を流していた。
「もう、何も信じれない……。信じられないよ。こんな世界、いっそのこと……。」
「……ふざけるんじゃないわよ。」
その次の言葉を光が言いそうになった時、彩芽の後ろから声が聞こえてきた。
「久遠ちゃん、出て来ないんじゃなかったの!?」
「さっきまでそうするつもりだったけど、光が何か諦めようとしてるからね。」
「……え?」
久遠はずかずかと部屋に入っていき、光の前に立ち、ずいっと光を覗き込んだ。
「勇気くんがいなくなったからって、そんな萎れてんじゃないわよ。確かに、勇気くんもいなくなって、その元凶がアンタの好きな人だったって言うのはとても辛いわ。」
久遠は光の手を取って、ギュッと握った。
「でも、だからって諦めるのは早いわ。何か行動を起こさないと。」
「……例えば?」
「そりゃもちろん、なんでそんなことしたのかを聞くのよ。」
「聞く……?」
「そう。私も、勇気くんの気持ちがわからなくて、一緒であって欲しくて私の事が好きか聞いた。私は、その時に勇気くんと光を傷つけちゃったけど。でも、大切なことは聞けた。光も、そうすれば良い。」
「……でも、どうやって。」
「私が、みんなに相談するわ。私も丁度なんで葵がそんなところにいるのか、聞きたかったしね。」
「私も、なんで紫苑が『zero』にいるのか、聞きたい。」
「だから、そんなに考え込まないで。」
久遠が微笑みかけると、光は涙を流しながら笑って頷いた。
――ああ、そうか。私には、みんながいる。
勇気と同じくらい、大切で、温かい。
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