第二部第二章:準備

27.各方面の準備

 ここ数日で、情報の新鮮味が無くなったのか、記者がたむろする事は無くなった。その為、皆学校に行けるようになった。

 日中は学校に行き、夜になると会社に行き情報を得る為の作戦を皆で練っていた。


 ある日、学校の授業で翼がいる一組と久遠がいる三組で合同の体育の授業があった。

 翼は久遠と一緒に行っていると、どこからか視線を感じた。キョロキョロと辺りを見渡していると、久遠から声をかけられた。

「翼?どうしたのよ。」

「いや、べっつにぃ……?」

 久遠は気づいたら階段を降り切っており、下から小さく手を振っていた。

 翼は久遠の方に行こうとすると、ドン、と後ろから背中を押された。

「は――。」

「えっちょ。」

 階段から落ちていく翼を見て、久遠は急いで翼を受け入れる態勢を取り、そのまま翼を受け止めた。

 久遠は翼の重みに耐えられず、二人揃って態勢を崩し、そのまま雪崩れるように転けた。

「って……。」

「っは〜、危ないわね……。」

「すまん、多分誰かにぶつかったな。」

「いや、あれは……。」

 すぐ側にいた人達に心配されながら久遠は考えた。

 翼を押した子は、正義感が強いあの子じゃ――。

 二人はそのまま起き上がり、皆に大丈夫と返事をしながら、久遠は翼に言った。

「にしても、こうなるなら翼じゃなくて勇気くんがよかったわ……。」

「すまなかったな、初の床ドンが俺で。」

「あ〜言わないで。嫌な事意識しちゃう。」

「そんなに?」

「そうよ。」

「そうかぁ。にしても、最近なんか命狙われてる気がするんだよなぁ。」

 翼が頭を掻きながらそう言うと、久遠はうげ、と顔を顰めた。

「気のせいじゃない?気が張ってるのよ。」

「そうだといいけどなぁ。」

 二人は軽口を叩きながら体育館へと向かっていった。


「はぁ……、また失敗した。」

 ぎゅ、と顔を隠すようにフードを掴んだ彼はノートを見ながら歩いていた。

 そのノートには沢山の人名が書かれており、人名にバツが書かれたものもあれば、書かれていないものもある。その中には翼と久遠の名があった。

「今回は二人揃っているからダメだった。次は二人バラバラの時に、いや、二人とも揃って抹殺するか?それでは事故死を装うのに苦労する。なら、帰り際に誘って殺すか――。」

「あれ、ブルー。こんなところでブツブツ言ってどうしたの。」

「うわっ!」

 ブルーと呼ばれた少年は呼んだ彼女に気づいてなかったのか、肩を叩かれて名を呼ばれた時に驚いてしまった。

「なんだ、パープルか。どうしたの?」

「いや、なんだか悩んでるからさ。どうしたのかなーって。」

「いや、二人の抹殺に失敗した。」

 ほら、とパープルと呼ばれた少女にノートを見せる。トントン、とバツが書かれていない所を指すと、パープルはほう、と納得した。

「翼と久遠……。彩芽ちゃんがいる孤児院に住んでいるんだよね。まさか、直接手を下そうとしてるの?」

「そうだよ。」

「えー。私達は幹部だから別に使い捨ての駒言いなりになってくれる人たちを使ってもいいのに。」

「いや、あの子達は直接僕の手で殺したい。」

 そう言ったブルーの顔は憎悪に塗れていた。

「……理由は?」

「アイツらは、人を傷つけておきながらのうのうと生きてやがる。僕が直接見てわかったよ。傷つけたことに罪悪感なんてありゃしない。」

「うーん。まあ、それは一理あるけど。でも、長い目で見なよ。」

「ん?どう言うこと?」

 ブルーはパープルの方を向いた。パープルはニッコリと笑った。

「私達がやってるのは理想郷ユートピアを作るんじゃなくて、暗黒郷ディストピアを壊すこと。だから、急いでやる必要はないんだよ。」

「そうかなぁ。元に、サニーも敵の手に渡った。それに、多分、僕達のやる事を警察とかが暴いてくるよ。」

 ブルーが不貞腐れるように言うと、パープルが諭した。

「そうだね。だから、使い捨てを使うんだよ。私たちが何度でも再生出来るようにね。」

「だから、長い目で見ろって事か。納得は出来ないけどね。」

 ふい、とブルーは何処かへ行ってしまった。その様子をパープルはニッコリと笑いながら見送っていた。

「……そんな子達が悲惨な最後を迎える鍵になるんだよねぇ。」

「あれ、君か。」

「あ、会長。こんにちは。」

「こんにちは、パープル。皆の調子は順調かな?」

「はい。順調です。そうだ、サニーはどうするんですか?」

「サニーか……。下手に助けるのは良くないし、そのままにしておくかな。」

「わかりました。」

「あ、後ね――。」


 ――ここ数日間の大量殺人事件により、人口の減少が見られております。

『最近隠れ犯罪者が殺されてるのマ?』

『zeroって案外社会貢献してんじゃね?』

『このまま犯罪者が滅べばいいのにね。』

『zeroって団体いずれ普通の人も殺すんじゃね?犯罪の芽を摘むぞーみたいな。』

『俺ら誹謗中傷してるから殺されるんじゃね?』

『このまま更新されなかったら死んだと思ってください。』

『zeroって凄い!』『私zeroの味方になろうかな』『zeroに憧れるんよな〜』

『zero最高!』『最高!』『最高!』『最高!』『最高!』『最高!』『最高!』


「光ちゃん。ノートパソコン持った?」

「持ったよ。」

「USBメモリは?」

「持ったって。」

「それ以外は?」

「持ったよ。大丈夫。」

 夜、速水さんも山口さんも帰り静まり返った頃、彩芽達はセイジさんの会社に向かう光を見送りしていた。

「皆に気づかれないように行くんだぞ。」

「うん。わかった。それじゃあ、」

 行ってきます。と光は皆に言い、玄関のドアを開けた。

 会社に着いた光が感じた感想は、思ったよりも小さい、そしてボロい、だった。

 二階建て構造になっているが、下は駐車出来るような構造で、少し表面が剥げた鉄製の階段があり、そこから会社内へと行けるようだった。

 データをハッキングするためのパソコンも持った。一応ピッチング用の針金も持ってきたが、まさか使えるとは思わなかった。かなり罪悪感はあるが、目的の為ならば仕方がない。

 一応、閉まってないかドアノブを捻り確認すると、何故か開いていた。

「あれ……?」

 少し怪しい気もしたが、これはチャンスだと言う方の気持ちが大きかったので、はやる気持ちを抑えて会社内へと入った。

 会社内はスッキリしており、紙類はほぼない。

 光は一番大きなディスプレイパソコンの方に向かい、パソコンを起動した。

 ログイン画面になり、パスワードを打つ為にキーボードを操作した。

 あれも違う、これも違う……。

 大丈夫。急がなくても良い。時間はいくらでもある。

 集中しながらキーボードを打っていると、パチ、と辺りが明るくなった。

「あー、やっぱりいる。」

「ダメだよ。子供が一丁前にハッキングしようとしちゃ。」

「まあ、誘い出そうとした俺らも俺らだけど。」

 光が顔を上げると、そこにはここの会社の人であろう人達がいた。

「あっ……。」

「それで、何か言いたいことがあるんじゃない?」

「そうしないと、何処に突き出すかもわかんないぞー?」

 三人がそう口々に言うと、光の口がわなわなと震え始めた。

 ――バレてしまった。このままでは捕まってしまうかもしれない。いや、そんなことより、計画が遂行されなくなってしまう。それは嫌だ!

「……っ。」

 そう思った光は勇気を振り絞り三人の前に立った。

「……データをハッキングしようとしたのは本当に申し訳ありませんでした。でも、私は知りたいんです。」

 光は逸らしていた視線をまっすぐに向けた。

「どうして、私の友人が、家族が死ななければいけなかったのか、それが知りたいんです。」

 そう言って、光は頭を下げた。

「もし嫌なら、このまま捕まえても構いません。本当に申し訳ございませんでした。」

 光がそのまま頭を下げていると、男性達の一人がもういいよ、と言った。

「頭を上げて良いよ。」

「え……。」

 光が顔を上げると、男性達は微笑んでいた。

「別にデータは持っていっても良いよ。試そうとするような事を言ってごめんね。」

「良いんですか!?」

「良いよ良いよ。にしても、セイジも悪いよな。何も言わないなんて。俺らはきちんと説明したぞ。」

「子供達を信用してないってか?それとも自分たちの責任だからってやつ?信用くらいはしても良いと思うけどなぁ。」

 男性達は口々とセイジさんの悪口ばっかり言っているので、光があたふたしてると、男性はごめんね、と言いながらパソコンを操作し始めた。

「君、USBメモリは持ってる?」

「は、はい!」

 光は男性にUSBメモリを渡すと、ディスプレイに挿して操作し始めた。

 データを移し終えると、男性はUSBメモリを光に渡した。

「はいこれ。」

「あ、ありがとうございます。」

「本当によろしくね。セイジのこと。」

「……わかりました!」

 光はそのまま走って去っていった。そして、入れ違うようにセイジが急いで入ってきた。

「おい、タロー。光に『metatual』のログインの権利と『bug』と『zero』のデータ渡しただろ。」

「お前がなにも話さないのが悪いだろ。カリギュラ効果って知ってるかぁ?」

「ていうか、お前暗号化したまま渡してんじゃねぇか?」

 サトシがそう言うと、タローが驚いた顔をした。

「あ、やべ。まあ、あの子にはすまないけど、セイジ的にはよかったんじゃね?」

「ばっかやろう!あいつは、光は、暗号化くらい解けるんだよ!」

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