26.計画
孤児院の裏口から入ると、既に起きていた颯が二人の方に向いた。
「光……?それにセイジさんまで。どうしたんですか?」
「あ、颯くん……。」
「俺が散歩してる時に光にあったんだ。」
セイジさんは鈴原との件を隠しながら話した。その様子に光は少しホッとするようなモヤモヤするような感覚になった。
「少ししたら皆を集めてくれ。少し話したい事がある。」
セイジさんは颯にそう言うと、颯は頷いた。
数分後、皆が起き始め部屋から出てくると、颯はリビングに集まるよう言った。
そして、ここにいる全員が集まった。
セイジさんは少しだけ息を吸って、吐いた。
「集まってくれてありがとう。今日は大事な事があってきたんだ。」
そして、先程光に言った事と同じ事を言った。
『metatual』のせいで皆に危害を与えてしまった事、そしてもうここには来ないと言う事。
「……セイジさん、もう来ないの?」
彩芽がそう言うと、セイジさんは頷いた。
「もうここにいたって、皆に危害を加えるだけだろう。少し寂しい気もするが、別れた方が皆も安全に暮らせる。……少し、遅い気もするがな。」
「……そっ、か。」
彩芽が返事をすると、セイジさんは立ち上がった。
「もう行くんですか?」
「ああ。もうここにいる意味もないしな。」
セイジさんはそう言い残し、そのまま去っていった。呆気のない最後だった。
「……光。」
「どうしたの?翼くん。」
「何かあったのか?」
「え?」
翼にそう言われ、光は目を見開き、翼が言った事の意味を咀嚼し終えた後、目を細めた。
「……よくわかったね。」
「翼って、意外と周りを見てるよね。」
「まあな。昔からの癖かなぁ。」
そう言った翼の脳裏には、いつも翼を嫌煙する彼女がいた。
「で、何があったんだ?」
颯がそう言うと、光は意を決して話し始めた。
「さっき、セイジさんが私とは散歩してたら会ったって言ってたじゃん。あれ、嘘なんだ。」
「嘘?」
「そう。私が朝早くに起きて、散歩しようと思って外出たら、沢山の記者にもみくちゃにされたんだ。」
「え!?まだ記者がいたの!?」
「うん。それから、記者から逃げて、それで――。」
ふと、光はこれから話す事が皆の信頼を裏切ることになるんじゃないかと不安になった。しかし、これ以上言ってしまったからには仕方ないと思い、続けて話した。
「それで、もう何も信じられなくなって、皆の事も忘れて、同級生の所に言ったの。」
「そう……。」
皆からは何も言われなかった。ただ、憐れまれただけだった。
その反応が救いになるような、ならないような、そんな気持ちになりながら、話し続ける。
「その同級生に、勧誘みたいな事をされて、その時に、セイジさんが来たの。そしてそのまま彼は連れてかれた。」
「なんで?」
「わかんない。ただ、彼は危険だって。……それだけ。」
光が話し終わり、少しの沈黙が流れた後、彩芽が口を開いた。
「……もう、わけわかんないよね。大切な人が死んで、それで真実も話されずにそのままさよならなんて。セイジさんも本当ずるいよ。」
「彩芽ちゃん……。」
「私、どうすればいいのかわかんない。わかんないけど、このままは嫌。」
彩芽は手を強く握り、何かを抑えるように言った。
「……なら、俺に案がある。」
「案?」
「俺たちはセイジさんの事はあまり知らない。けど、幸いなことに、セイジさんがどんな会社にいるのかは知ってるんだ。なら、その会社に乗り込めばいい。」
「そんな、大丈夫なのか?」
颯がそう言うと、翼が反論した。
「もう、なりふり構っていられねぇだろ。このままが嫌だって言うなら。」
「そうだけど……。」
「私は賛成よ。」
久遠がそう言いながら手を挙げた。
「私も、このまま知らないままは嫌。それに、どんなに辛い事があったって、私は乗り越えてみせる。」
久遠は、どうして勇気が死ななければいけなかったのか、知りたいのだ。だから、これに賛成した。
「……私も。」
「私だって。」
光も彩芽も手を挙げた。
「彩芽、光……。」
「私は勇気を失っているんだ。そのまま、敵の思うままなんて、嫌。」
「私も、セイジさんの勝手にはさせない。」
皆の固い意志に颯は両手を挙げた。
「……わかった。俺も協力する。みんなの事も心配だけど、そんな事は言ってられないな。」
「ありがとう。よし!」
颯の言葉に喜んだ翼は雰囲気を変えるために手を叩いた。
「じゃあ、どうするか決めよう。」
翼がそう言うと、久遠が意見を出した。
「まずは、情報を探る所から始めないと行けないんじゃない?」
「会社に行ったらあるかな。」
「あるだろうが、おそらく、パソコンの中だろうし、セキュリティも硬いだろう。」
彩芽の言葉に颯は反論する。
「……なら、私に任せて。」
「光?」
颯の言葉に、光が返した。
「私、最近プログラミングとか、C言語とか、色々学んでるの。だから、多分大丈夫。」
「光、いつの間に……。」
「パソコンの使い方を学んでからすぐ、かな。そんな事より、それで、どうするの?」
「多分、この件は『zero』って言う『bug』を作った所も関わってると思う。いや、確実に関わってる。だから、そこも調べてみよう。」
「わかった。」
皆が頷くと、翼は続けた。
「じゃあ――明日からするぞ!」
「「うん!」」
翼が勢いよく言うと、皆が力強く返事をした。
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