第二部第一章:エゴ
24.後始末
『多大な被害を出してしまった事、誠に申し訳ございませんでした。』
テレビには、セイジさんと、他男性三名が頭を下げている様子が映っていた。カメラのフラッシュが眩しい。
『すみません、所謂『Insect Extermination』と呼ばれる人達はあなた達が作ったAIではなく、孤児院にいる子供達だと聞いたのですが、それは本当ですか?』
記者の一人にそう聞かれると、セイジさんがマイクを取った。
『その通りです。しかし、どこの孤児院の人かはノーコメントとさせていただきます。』
『では、『bug』を作った人は『zero』という新興宗教だと言われているのですが、それは本当ですか?』
『ノーコメントとさせていただきます。』
『本当のことを言ってください!この件のせいで何人の人が死んだと思っているのですか!?』
『『zero』と繋がっているのでしょう!』
とある記者の一言を皮切りに、記者が様々なことを言い始め、ざわつき始めた。
司会の人が静粛に、と言うと、しん、と静まり返った。
「……みんな、本当のことを知らない癖になぁ。」
「そんなもんだぞ、世間って。」
彩芽の小さく呟いた言葉に翼は返した。
『metatual』はサービスを終了した。そして、何人もの人が死んだ。そして、その責任をセイジさん達に負わせられようとしていた。
彩芽達はそのことについて不満のようだった。それもそうだ。セイジさんも血の通った優しい人間だと知っていたから。
「そういえば、光と久遠はまだ閉じこもっているのか。」
「うん。久遠ちゃんはずっとベッドで泣いてた。光ちゃんは……違う部屋だからわかんない。」
颯の言葉に彩芽は返答した。二人にとって大切な人を亡くしたのだ。そりゃ閉じこもってしまうだろう。
勇気を亡くしてしまった今、皆の空気はより一層悪いものとなっていた。そして、『metatual』と『bug』、そしてセイジさん達の秘密も気になり、それもどんよりとした空気にしている一つだった。
「『zero』って、どんな宗教なんだろ……。」
「調べてみたら?」
「それもそっか。……どれどれ。」
翼に言われ、彩芽は『zero』のことを調べ始めた。すると、『zero』のホームページが見つかった。
彩芽は二人に呼びかけ、皆で『zero』のホームページを見た。
『『zero』とは、『真の平等』を掲げる組織です。創立者である『
「ぱっと見、いいところっぽいけど……。」
「でもさ、その創立者の顔写真無くね?」
「確かに、これはちょっと怪しいね。」
三人はホームページを見た感想を言い合った。が、これと言った収穫は無かった。
三人は顔を見合わせ、ため息をついた。
「でも、こんなことになったから、『zero』も潰れるよな。」
「そうだね……。速水さーん。」
「わ!びっくりしたぁ……。急に話しかけないでよ。」
彩芽が速水さんを呼びかけると、驚きながらも三人がいる場所へと向かった。
「樋口さんは?どこ行ったの?」
「しばらく休むんだって。最近精神が張り詰めていたから。」
速水さんの発言を聞いて三人は納得した。あの時の樋口さんを見れば、精神がおかしくなりそうだったのは一目瞭然だ。
「……あの時から、色々変わったね。」
『百虫夜行』から一ヶ月。セイジさんはずっと『metatual』のことで忙しく、最近孤児院にも来ていない。
そして、これは久遠が前にいた孤児院からわかったことだが、他の孤児院も『IE』としての活動をしているらしく、そこでも死者が出たらしい。
酷い有様だ。何もいいことがない。
「……セイジさんに会いたいなぁ。」
彩芽の発言は、誰にも聞かれずに消えた。
タプ、タプタプ、ポチ。
久遠はずっとSNS上の文字を見ていた。
『『metatual』でマジの子供使ってたってマ?』
慰めの言葉が欲しかった。
『【悲報】『metatual』の裏側【マジやばい】』
会いたかった。文字だけでも、勇気に。
『でも、子供も子供だよね。悪い大人の区別くらいつくでしょ?』
『そんなの分かりませんよ。悪い大人は普通の大人と遜色ないんですから。』
『『metatual』を作った有限会社『ユニーク』に凸してみた!』
『』
『』
『』……
「……ん、おん、久遠!」
「っへ、あっ!」
「はい没収〜。」
久遠はいきなり誰かに呼ばれ、驚いていると、スマホを取られてしまう。返してもらおうと思い前を向くと、そこには翼がいた。
「何よ、返しなさい!」
「はーい一旦落ち着け〜。」
久遠は翼に頭を抑えられ、スマホを意地でも返してもらおうとするが、届かない。
「お前、何見てたんだよ。」
「なんでもいいでしょ!」
「ふーん……。えーと、うわ。お前ただでさえ精神病みかけてるのに追い打ちをかけるようにするなよ。」
「うるさいわね……。」
翼は久遠のスマホの画面を見て苦い顔をした。そこには沢山の『metatual』に関する情報が羅列していた。ほとんどが悪口だ。
「なんでこんなの見てんだ。なんも特なんて無いと思うけど。」
「それよりも、なんで女子の部屋に来てんのよ。」
「彩芽に頼まれた。」
アイツ……、と久遠は初めて彩芽を恨んだ。
「で、なんで見てんだ?」
「……勇気くんは、女の子を助けようとして死んだんでしょ?なら、それについての情報が無いかなって思って。」
それを聞いた翼は顎に手を当て考えた。
「うーん……。多分無いぞ。」
「何よ!見てない癖に!」
「ごめんって!言い方が悪かったな……。でも、今はセイジさんをいじめる方向に向かってるんだ。多分、そう言ういい情報は無いと思う。」
「……そっか。そうよね。あーあ、ないのか。」
久遠は緊張の糸が千切れたようにそのままベッドに倒れ込んだ。久遠の目には涙が溜まっていた。
「勇気くんがいなくなって、私、何を目的にして生きていけばいいの?ねぇ……。」
そう言ったことを皮切りに、久遠は大声を出して泣いた。翼は、少し考えてから、久遠と同じ目線に座り、話し始めた。
「久遠、俺もさ、陽美が死んだ時、どうすればいいかわからなかった。だから、俺は誰かのせいにした。久遠、お前も、一回誰かのせいにしてみたらどうだ?」
「ぐすっ……。誰かのせいに?誰かって誰よ。」
「うーん、例えば、勇気が死ぬ要因になった奴だから……『zero』の奴らとか。」
「誰かのせいにして、何になるの?」
「そして、そいつらに復讐するために生きてやろうって思うんだ。そしたら、少しは楽になるんじゃ無いか?」
「……そんな生き方があるのね。」
「でも、それは一時的で、みんなに迷惑かけるかもしれない。だから、その時が来れば、また別の方法を考えよう。」
翼が言い終わると、久遠はプッと笑い出した。
「んだよ!」
「……昔の私ならそうしてたかもしれないわ。友達が居なかったから。……アンタが居てよかった。そうじゃなきゃ、私は間違いなくそうしてたから。」
そう言われ、翼はハッとした。久遠は、昔の自分の写し鏡のように思っている節があった。翼も、昔は陽美の事でみんなに偏見を持たれて、友達なんて本当は居ないんじゃ無いかと思っていたから。
でも、もう、翼も、久遠も昔とは違う。今は、心から話せる友達がいる。
「アンタに話してよかった。だって、真摯に話してるれるんだもの。私も安心しちゃった。」
久遠にそう言われ、翼はニカっと笑った。
「ははっ、ならよかった。」
「もし、何かがあったら、アンタに話すわ。ありがとう。」
「おう。あと、もう飯だぞ。」
「えぇ。行きましょ。」
二人はもう、迷ったりはしないだろう。
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