23.百虫夜行

「はあ、流石に『bug』は俺らに危害を加えなさそうであるとは言え、すぐ近くで見るのはちょっと怖いな。」

「わかる。早く『Insect Extermination』達来ないかなー。」

「お前、フルネームで言ってるのかよ。普通に『IE』でいいじゃねぇか。」

「は?ダサいじゃん。」

「まあ、それはそうだけど……。って言うか、今日『bug』の量多くね?」

「わかる、それに、なんかいつもよりむっちゃバリア壊そうとしてるんだけど……。」

「いやいや、本気で壊そうとしてないだろ。それに、アイツらが倒しにくるって。」

「お前、もう言うのめんどくさくなってんじゃ――。」

 二人が話し終わる前に、壊されないと思い込んでいたバリアにひび割れ、そして壊された。

 皆の悲鳴が鳴り響く中、建物が薙ぎ倒される。

 瓦礫の下敷きになる人たちがいる中、とある男性がゲホ、と血を吐き、その青さに驚いた。

「んだ、これ……。」

 その時、とあることが頭をよぎった。

 もしかして、あの子たちも人間じゃ――。


「……遅かったか。」

 みんなが着いた頃には既に街は半壊状態だった。

 皆がスポーンする場所もほぼ壊されており、出ることも一苦労だった。

「早くここにいる人達を助けに行かなきゃ!」

 光の呼びかけにより、皆は変身をし、その場を飛び出した。

「なぁ、ひとまずチーム分けしね?」

「チーム分け?」

 翼の発言に皆は一旦足を止めた。

「ほら、『bug』も大量にいるじゃん。だから、『bug』を止める班と人を助ける班を作らなきゃ。」

「なるほど……。じゃあ、俺とスプラとエタニが人を助ける班だ。シャイン、ブイ、ウィングは『bug』を足止めしていてくれ。」

「わかった。ブイ、ウィング、行こ。」

 光は二人を引導し、『bug』の元へと向かった。

「じゃあ、私たちも行こう。」

 彩芽はそう言い、別の班と同じ方向へ向かった。

 颯が『bug』が来ないか見張っている内に、彩芽が瓦礫をどかし、怪我をしている人に魔法を掛け、久遠が話しかけにいった。

「あの、大丈夫……ですか!」

「げほっ、ありがとうございます。」

「早く、ログアウトしてください!」

 久遠がそう言うと、その場にいた人達はボタンを押しログアウトした。

 別の場所に行き、同じような事をし、再び久遠は声をかけた。

「大丈夫ですか!」

「……なんで早くこなかった。」

「え?」

「俺の娘が消えた……!どう言う事だ!」

 その男性の叫びに、久遠は唇を噛んだ。

「何も言わないのか、この、AIの癖に……!」

 その叫びに反応した彩芽は久遠を見た。

「エタニ――。」

「いいから、早くログアウトしなさい!あんたの命がどうなってもいいの!?」

 そう言い、機械のボタンに触れ、対象をログアウトさせた。

「……久遠ちゃん。」

「久遠……。」

「……何しけた面してんのよ。早く行くわよ。」

 久遠はそう言い走り出した。彩芽と颯はお互いを見た後、久遠を追いかけた。


 一方、光たちはキリがない『bug』討伐に身を投じていた。

「全っ然倒れねぇんだけど!?」

「耐久力も高くなってる……!?」

 翼が頭を貫き、光が腹を殴り、勇気が体を切り刻もうと、それでも倒れはしないし、なんせ大量に様々な種類がいる。

「――っ!?やば」

「……やぁ!」

 遠くからスコープを覗いていたが、『bug』たちに目をつけられ、蟻型の『bug』に追い詰められるが、すんでのところで光が『bug』達を薙ぎ倒した。

「大丈夫!?」

「こっちは大丈夫だから、早くブイの方を!」

 光は勇気の方へ向かい、翼も体制を整える。

 戦っては移動してを繰り返していると、とある女性が見えた。

「あれは……!」

「えーん、みんなぁ……どこぉ?」

 その人の中身は子供らしく、嗚咽を繰り返しながら歩いていた。

 すると、その子供の後ろから蜘蛛型の『bug』が忍びより、女性を貫こうとしていた。

「……っ、危ない!」

 勇気が飛び出し、蜘蛛の足を剣で弾く。

「あっ……。」

「大丈夫?」

 『bug』が少しよろけている間に、勇気は女性に話しかけた。

「うん。お兄ちゃんは?」

「僕は大丈夫、だから早く――。」

「――勇気!」

「え?」

 二人が叫ぶ時には既に、勇気の腹が『bug』の足に貫かれていた。

「ブイ、大丈夫か!?」

「……っこの!」

 ずる、と足が勇気の腹から引き抜かれると、勇気はその場に倒れる。

 それを見た光は、『bug』の頭を蹴った。頭は見事に吹っ飛び、傷口からは緑の液体が吹き出た。

「ブイ、大丈夫!?」

「うん、大丈夫。でも、一応スプラを呼んできてくれるかな……。」

「……わかった!シャイン、行くぞ!」

「うん!ブイ、待っててね!」

 二人がその場から去ると、その場には勇気と女性の二人だけになった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「僕は大丈夫?それより、ここから帰らないと。」

「でも、めいちゃんとゆーちゃんがいないの。」

「大丈夫、僕たちが見つけ出すから。」

「本当?」

「うん。約束、しよ?」

 そして、勇気とその女性は指切りをした。

 ゆーびきーりげんまん うそついたらはりせんぼんのーます ゆびきった。

「うん。ありがとう……。そのめいちゃんとゆーちゃんの見た目はどんな感じかな?」

「えっと、めいちゃんは真っ黒な服着てて、ゆーちゃんはカラフルな色の服着てる!」

「わかった。じゃあどこら辺にいたかわかるかな?」

「えっと、あっちに飛んでったよ……。」

 勇気はその発言に驚いたが、すぐに表情を変えた。

「わかった。じゃあ、探してくるから、さよならしよっか。」

「うん。」

 勇気がそう言うと、女性の機械に触り、彼女をログアウトさせた。

 彼女が去った後、少し諦めたかのように笑った。

「……もう、助かりそうにないな。僕も、あの子の友達も。」

 勇気はその場に立ち上がり、ヨロヨロと歩く。

「……颯くんにも振られちゃったし、お姉ちゃんにも強くなれたところ見せたばっかなのに。」

 勇気はボロボロと涙を静かに流した。勇気はグッと傷口を抑えるように力を入れた。

「嫌だ、死にたくない……!」

 そして、ある程度歩いたところで、へたりと座り込んでしまった。

 勇気の後ろには、『bug』が迫っていた。


「スプラー!」

「え、シャインにウィング!あれ、ブイは?」

「それが――!」

 光は彩芽に勇気の様子を説明した。

「……わかった。ハリケーン、エタニ、みんなの救助をよろしく。」

「私も……!」

「エタニ。」

 久遠も行きたそうに彩芽に言おうとするが、その前に颯に止められた。

「……わかった。でも、すぐに帰って来て頂戴!」

「わかった。さあ、行くよ!」

 そして、光達は勇気の元へと向かった。

 久遠と颯は訳がわからないが、どこか胸騒ぎがしていた。

「で、ブイはどこなの?」

「えっと、多分こっち!」

「あーもう!全部建物壊れてここがどこかわかんねぇって!」

 皆が口々に言いながら、勇気の元へと向かう。

「……あれ、ここのはずだけど。」

 そこには勇気は既におらず、代わりに『bug』が群がっていた。

「なあ、別の場所に行ったのかな?」

「いや、そんなはず……まさか。」

「スプラ。」

「……ごめん。」

「とにかく、ブイを探そ。」

『bug』に見つからない様に辺りを探すがどこにもいなかった。

「……やっぱり、もう。」

「……きっと、もう戻ったんだよ。ほら、現実に戻ったら傷口も治るでしょ?でも、おかしいなぁ。痛みは治らない筈だけどなぁ。」

「シャイン。」

 現実逃避をする光に翼が彼女の肩を掴み、振り向かせる。すると、光は泣いていた。

「……大丈夫かよ。」

「大丈夫だよ、いるもん。絶対に、死んでない。死んでたら、また、私のせいに、私が信じたせいで……。」

「何でもかんでも自分のせいにするなよ。心壊れるぞ。」

「う、うぅ……。」

「……二人とも、戻ろう。」

 彩芽がそう言うと、二人は頷き、そのまま戻って行った。

 その後、そのままセイジさんからの連絡が入った。このままではまた『bug』が増え続け、皆のところにも被害が出始める。その前に戻れ、と。

 その連絡を聞いた光達は、そのまま戻ることとなった。


 死者、千六百五名

 (二千四百一名中、約六十七パーセント)


 光は目を覚ました途端、勇気の部屋へと向かった。

 コンコン、とドアを叩くが、返事は聞こえない。

「勇気ー?開けるよー?」

 返事がなかったので、そのまま開けた。そして、勇気の姿を見た後、ポロリと涙を流した。

 勇気は静かに眠っており、きちんと息はしていたが、起きる様子は無かった。

「……勇気。」

 光は嗚咽を繰り返していると、目覚めた皆が光の様子を見に集まってくる。

 彩芽は光を慰め、久遠は光と同じようにその場に泣き崩れ、翼は久遠の側により、颯は勇気から目を逸らした。


 沢山の犠牲者を出す中、『百虫夜行』は幕を閉じた。

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