21.「zero」

『zero』とは

「真の平等」を掲げる組織である。

 基本的に悩める人達に声をかけ、様々な問題を共に解決していく、そんな組織である。

 しかし、その本性は――。


「会長、今日もターゲットの殺害を確認出来ました。」

「うん、ご苦労様。」

 とある個室にて、顔がフードで隠れた人物が、大きな画面を見ている人物に向けてとある紙を渡した。

 画面を見ていた人物はその紙を受け取り、椅子から立ち上がり部屋から出た。

「会長、何処へ?」

「みんなの確認をしてくる。君は?」

「ぼ、僕は次のターゲットの見積もりをしにいって来ます。」

 部下と思われる人物はそのまま走って何処かへ去っていった。

「さて……。」

 と呼ばれる人物は部屋から出て、とある部屋へと向かった。

 そこは、複数人が大きな『bug』を取り囲みながらパソコンのキーボードを打っている姿だった。

「みんな、『bug』作りは順調?」

「会長!はい!」

 キーボードを打っていた人物の一人が元気よく返事をし、会長はそれに笑顔を見せた。

 会長はその場から去り、別の場所へと向かった。

「こんにちは、部下の教育は順調?」

「あ、会長!」

 会長は沢山の人がいる部屋に行った。

「僕は大丈夫ですよ。ただ、この人達はあまり話を聞いてくれないんですけど……。」

「ふぅん……。」

「おい、死ぬなんて聞いてねぇぞ!」

「俺らは確かに世間に不満はあるが、死ぬまでとは言ってねぇだろ!」

「そうよ!ずっと不毛な扱いされてるけど、死にたいほど悪くないわ!」

「って暴れるから、椅子に縛り付けてるんです。他の人は言うことを聞いてくれたんですけど……。」

「わかった。僕に任せて。」

 会長はそう言い、椅子に縛り付けられている人々の前に立った。

「突然ごめんね。今の状況が変わるって聞いたからここに来たんでしょ?」

「そ、そう。私はそう聞いたのよ……。」

「お、俺も……。」

「俺もだ……。」

 椅子に縛り付けられている人々は顔を合わせながらそう言った。

「でもね、この世界は死ななきゃ変わらない。死ぬと言うエネルギーが無かったら皆変わらないんだ。」

「そ、そうなのか……?」

「だから、僕は悪者を殺すしみんなも殺す。確かに死ぬのは辛いけど、その先には幸せが待ってるんだ。」

「幸せが……?」

 人々はぼーっとした顔をし始めた。

「この世界は捨てるべきものだ。だから、僕は皆殺す。でも、それは不幸なことじゃない。喜びも悲しみも無くす事こそが幸せだから。」

「ああ、そうか……。」

 皆の頭がぼーっとして来た人々の縄を部下が外した。もう暴れないと察したのだろう。

「僕の話を理解してくれてありがとう。これからよろしくね。」

「はい……。」

「じゃあ、僕はもう行くよ。みんなの確認も出来たしね。」

「わかりました。後は任せてください!」

 会長はその場から離れ、再び自分の部屋へと戻った。その瞬間に、彼が持っていたスマホが震えたが、彼はそれを無視した。誰がかけて来たのか分かり切っていたからだ。

「……ったく、誠司ってばほんと面倒くさいんだから。」

 彼はそう呟き、部屋にある画面を見た。

 そこには、『metatual』の光景が複数の画面に分かれて写っていた。

「今まで『bug』の危険性を下げてくれてありがとうね、誠司。さて、ここからが本番だ。」

 彼は画面を見ながらそう言った。


「サトシ、ユウジ、タロー。いるか?」

 セイジは自分がリーダーとなって活動している会社に戻り、仲間達の名前を呼んだ。

「セイジ、戻ったのか。」

「アイツのことは説得出来たか?」

 ユウジがそう言うと、セイジは首を振った。

「無理だ。アイツは意思が固すぎる。」

「まあ、そうだろうな。」

「アイツと直接話そうにも居場所がわからないしな。」

「にしても、アイツは何をするつもりなんだ?」

「さあ?」

 サトシにそう聞かれ、セイジはシラを切ったが、タローがそれを見逃さなかった。

「お前、なんか隠してるだろ。」

「そうだったらよかったな。俺は本当に知らない。」

「……おいセイジ、隠してるんだったら言えって。」

「本当に知らない。」

「嘘つけぇ!」

 皆からそう言われるが、それでもセイジはシラを切り続けた。

「あのさ、知ってるんだったら言えよ。終わってからじゃ遅いんだからさ。」

「そうだ。何事も報連相、だ。」

「わかってるから。」

 セイジはそう言いながらため息をつき、とうとう観念した。

「わかった、話す。」

「はは、それがいい。」

 タローがそう言い、三人はセイジの話に耳を傾けた。

「まず、アイツは、一斉に『bug』を放出する『百虫夜行』をすると言った。」

「は?それは……。」

 セイジの発言に皆は呆気を取られていた。

「放出したら、流石にバリアも壊されるし、まず容量不足でサーバーダウンするんじゃ?」

「『metatual』のサーバーはそんなにやわじゃないから、まずそれはない。だが、バリアは絶対破壊される。」

「対処法は?」

「まず、『metatual』にログインしている人達を退去させる。」

「でもさ、ずっと戦隊モノみたいな感じで見てた人達にとって、それは信じられないものじゃないか?」

「確かに。ずっと『metatual』側がやって来た催しだと思っていた筈だ。どう信じさせるんだ?」

「ああ。そこが問題だ。」

 そのことについて、ずっと頭を悩ませていた。

『僕は『bug』を作り、『metatual』を壊す。』

『なら、俺はお前に対抗するものを作ってやる。』

 その約束が今、こんな形で問題になるとは全く思ってなかった。

「もう、力技しかないと思っている。『IE』達に任せるしかない。」

「そうだな……。」

 皆が沈黙する中、サトシが口を開いた。

「今も、孤児院の人達は信じてくれてるのか?」

「多分な。」

「なら、酷いことをしたな。そういえば、セイジの所は一人死んだんだろ?」

「死んではいない。が、ほぼ似たような状態になっている。」

 再び沈黙が訪れるが、セイジが口を開く。

「だから、これらは俺らの問題だ。だから、あの子達にこれ以上被害は与えない。」

 セイジはそう言い、手を力強く握った。

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