19.強くなったよ
「ねぇ、一回調査してみない?」
「え?」
光は再び勇気に誘いを断られ、彩芽と一緒に帰っているとき、彩芽がとあることを言い始めた。
「だってさ、こんなに短いスパンで断られて遅くまで『metatual』にいるのおかしいって。」
「そ、そう?」
「そう!だから、調査してみない?それに、私達を仲間外れにして楽しんでるんだったら、すっごくずるいでしょ?」
光は彩芽の気迫に押され、頷いてしまった。そうと決まったら話は早い。
二人は走って帰り、そのまま流れる様にしてベッドの中に入り、『metatual』へと向かう。
二人はスポーン地である家の中で会い、まずは家の中を探すことにした。
それぞれの個室、形だけの風呂とトイレ、キッチン、エトセトラ――。
どこを探しても見つからなかったので、残すは一つしかなかった。
「地下、しかないよね……。」
「そうだね。それにしても、地下に行くのは初めて『IE』になったぶりかぁ。」
二人が話しながら階段の裏にある鉄板を退け、梯子を降りていく。
声や物音がでかくなっていく。光は何かあったのではと思い体が震えた。
完全に降りきり、長い廊下を早足で渡っていく。そして、
走っている間に変身し、走るスピードを速めていく。
周りが騒がしくなっていく。そんなのお構いなしで目の前のガラスを破り、勇気に群がっている蟻型の『bug』を床に叩きつける様に倒した。
「光!」
周りが叫び出すが、光はお構い無しに勇気に近づけさせないように倒していく。
セイジさんは急いで『bug』を消去した。一息ついた光は息を荒くさせながら周りを見た。
皆驚いていた。そりゃそうだろう。いきなり出てきて『bug』を倒していったんだから。
「……なんで?」
その言葉は、ただただ、どうして勇気がこんなにも傷ついているのかと言う、なんで勇気をいじめる様な真似をしたのかと言う疑問を表した言葉だった。
その言葉に対する返答に対して返答が無かったからかわからないが、光は顔を歪めた後、変身を解いて、勇気の腕を掴みそのまま去っていった。
勇気は驚きながらも光にされるがままになっていた。
梯子の前に立った頃、光達は歩くのをやめた。
「……勇気、なにがあったの?」
「え?」
「なんで、あんな状況になってたの?」
「それは……。」
「答えて。」
おどおどしている勇気に光は冷たく答えた。その反応に勇気はビクッとしてしまう。
「……ああ。違うよ。別に怒ってるわけじゃないよ。ただ、みんなにいじめられてるとかさ……。」
「そ、それはない!」
光の言葉に勇気は大きな声で否定をした。
「ないよ。それは。これは、僕が頼んだんだ。」
「頼んだ?なんで。」
「強くなりたいって。僕が頼んだ。」
「なんで、そんなこと。守るよ、私が。私じゃなくてもみんなが――。」
「それじゃダメなんだ!」
勇気がそう言うと、そのまま顔を隠してしゃがみ込んだ。
「ダメなんだ……。だって、それじゃあお姉ちゃんがずっと僕につきっきりになっちゃう。お姉ちゃんが好きなことが出来ない……。」
勇気はそのまま嗚咽を吐き出した。
勇気の背はひかるよりも高いはずなのに、今はちっぽけに見えた。
勇気はそんなことを考えていたのかと光は驚愕した。
私はこの行為が重荷だと思ったことがない。そのはずだが、勇気にとっては、それが重荷だったのだ。
勇気はまだ守られるべき存在だ。そうだと思っていた。だが――。
「……ひとまず、帰ろう。」
光は勇気の耳についている骨伝導イヤホンの様な機器に触れ、縁についているボタンを押し、勇気を退出させた。
光もボタンを押し、『metatual』から出た。
「光、ちょっといい?」
「……颯くん。」
夜、眠れなかった光は、リビングの電気を付けずにテレビを見、ちびちびとホットミルクを飲んでいた。
そんな所に、颯がやって来た。
「……どうしたの?」
その声色は非常に冷たく、突き放す様なものだった。
「……勇気が強くなりたいと言ったのは確かだ。でも、誘ったのは俺だ。ごめん。」
「……うん。」
光は怒りもしなかった。ただ静かに頷いただけだった。
「相談しなかったのは、ごめん。でも、相談したら止めるだろ?」
「……それは。」
それは、そうだ。光や、みんながいるのだから、その必要はないのだ。
だから、やんわりと止めただろう。光は。
「これから、どうするの?私にバレたじゃん。」
「うん。だから、提案がある。」
「え?」
その時、光は初めて颯の方を向いた。
「次の『bug』退治まで、目を瞑ってほしい。そこからは、もうこんな事はしない。これは、勇気とも相談した事だ。」
颯の真剣な眼差しに、光は何も言えなくなっていた。
「そして、次の『bug』退治で結果を見せる。だから、それまで見守っていてほしい。」
颯の言葉に、光は頷くしか無かった。光が頷くと、颯は微笑んだ。
「ありがとう。光も早く寝なよ。」
颯はそう言い、その場を去った。
光は冷めたホットミルクを飲みながら、考えていた。
勇気はまだ、精神的には守るべき存在だ。なのに、それなのに、あんなにも遠い。
そろそろ、私も変わらなければいけない。
勇気を認めなければ。
「お姉ちゃん、今日は僕と一緒に行こ。」
『metatual』について早々、勇気はそう言った。
「あら、勇気くん、光ちゃんと一緒に行くんだね。じゃあ私は颯と一緒に行くね。」
そうやって、皆が解散する前、颯は勇気に耳打ちをした。
「今までの成果、見せてやれよ。」
颯がそう言うと、勇気は頷いた。
光と勇気はいつもと同じ様にショッピングをして楽しんでいると、大きな振動が響いた。
光が変身しようと道具を取り出すと、勇気がそれを制した。
「今日は僕一人でやるよ。」
「え、流石にそれは……!」
「見てほしいんだ、僕のこと。」
そう言ったまま、勇気は変身し、『bug』の前へと出た。
蜘蛛の様な『bug』はうごうごと蠢き、ドンドンと建物を包むバリアを壊そうとしていた。
勇気は西洋剣を魔法で作り出し、『bug』に飛びかかった。
勇気は『bug』にむけて大きく剣を振り下ろしたが、勇気に気づいた『bug』は後ろに下がった。
『bug』に当たらず、床に下ろしたが、その反動を使い『bug』に向かい切り付ける。
足一本切り落とすことが出来たが、もう一本の足で勇気をいなす様に吹っ飛ばした。
「勇気!」
光はやはり勇気を助けようと一歩踏み出すが、すぐに止まった。
今、ここで踏み出せば助けられるかもしれない。でも、本当にそれは私達に必要なものなのか?
そう考えてしまった光はこのまま勇気を見るだけにした。
吹き飛ばされた勇気は体を翻し、建物の上に足をつけ、その反動で速く走り出す。『bug』の体が見えた瞬間、勇気は落ちるスピードを使い、剣を『bug』に突き刺した。
『bug』は潰れ、体から緑色の液体が飛び散る。
周りの歓声が大きくなる頃、勇気は息を整えて、その後に光のいる所へと戻った。
「……お姉ちゃん。」
光は今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。
「……心配したよ、本当。」
「ごめんね。でも、今回は一人でやりたかったから。」
「うん、わかってる……。勇気、」
「ん?」
「成長したね。」
光は微笑みながら勇気の頭を撫でた。
勇気は花が咲く様な笑顔を見せながらそれを享受していた。
セイジは、とある人物に電話をかけていた。
「」
そいつはどこかイライラしながらその電話に応答した。
「お前は、やっぱりするのか?」
「」
そいつは未だにイラついた様子で応答していた。
「……お前は、未来を考えないのか?」
「」
悲観的な考え方を披露した彼に対し、セイジは、顔を歪ませた。
「もう一度考えよう、まだやり直せる。」
「」
セイジの言った言葉にピシャリと冷たい言葉を浴びせた。
「」
「なら、その自覚があるなら、さっさと自首しにいけば――」
「」
そいつは、大きな声でそう言った後、小さく呟いた。
「」
「わかった。切るな。」
セイジはそう言い、電話を切った。
「俺たちは一緒分かり合えなくなったんだな、――。」
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