第一部第三章:巣立ち
17.動き
「勇気ー。」
「あれ、翼くん。どうしたの?」
昼休み、給食を食べ終わった勇気は翼に声をかけられた。
「久遠の様子見に行かね?」
「えっ、いいけど……。どうしたの?」
「アイツ、ちょっと心配なんだよな。」
翼と久遠はペアになってから急激に仲良くなった。こうやって、翼はよく久遠の事を気にかけている。そして、あの一件から久遠は雰囲気が少し柔らかくなった気がする。
二人は久遠がいる三組へと向かった。二人は窓から久遠の事を視認した。窓から二番目の列で後ろの方にいる。
じっと見ていると、久遠はふと窓の方を向いた。久遠は驚いた表情をした後、二人の方へと向かった。
「何か用でもあるの?」
「いや、心配だから来ただけ。」
翼と久遠が話しているのを勇気は見ていると、教室からヒソヒソと声が聞こえた。
「……え、あの子、友達いたの?」
「いや、矢口さんが勝手に関わってるだけでしょ。」
「あの子達も性格悪いのかな……。」
心無い言葉にふと、『bug』を倒した後の光景を思い出してしまい、ポン、と翼の肩に手を置いてしまう。
「ん?どうした。」
翼がそう聞くと、勇気は急いでパッと肩から手を下ろした。
「……いや、なんでもない。」
「もしかして。大丈夫よ、勇気くん。いつもの事だから。」
「なんだ?」
久遠が勇気を宥めているうちに、翼は教室の方に耳を傾けると、うげ、と顔を顰めた。
「悪口のレパートリー多すぎだろ……。」
「ふふ、変な顔。」
翼は別の場所に行こうと提案した時、一人の男子が教室に入っていった。その男子は久遠たちの悪口で盛り上がっていた子たちの方へ向かい、会話の輪へと入っていった。
「ねぇ、そこの人」
「え、何。」
「何で盛り上がってたの?」
「いや、何にも……。」
その子たちの一人は後ろめたそうにしていた。すると、男子はその人たちに向かってこう言った。
「そんな事になるんだったら、そうやって最初か、悪口で盛り上がらないでよ。」
彼の表情はあまりにも冷たいものだった。
教室の空気は一瞬で凍りつき、勇気たちもゾッとした。その様子を横目に、その男子は飄々と去っていき、勇気たちの所へと来た。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……。」
その男子が明るく接してくるので、久遠はぎこちない返事をした。
「おい
「それがなんだい?困ってる人がいたら助けるのは当然じゃないか。」
彼はそう言って笑った。翼は少し引っかかる所があったが、とりあえずは納得した。
「え、翼、知り合いなの?」
「同じクラスの
「困ってる人がいたらそりゃ助けたいでしょ。それに、陰口は許されないからね。」
葵はニコニコと笑いながら答えた。そのメンタルの強さが正義感の強さの理由か。
「でもありがとう、葵くん。」
「大丈夫だって。あ、そうだ。放課後翼くんの家に行ってもいいかい?」
「は?唐突すぎないか?」
「最近発売されたアクションゲーム持っていくよ。」
「仕方ねぇ、なあ、二人共大丈夫だよな。」
「え、いいけど。」
「私も。」
「じゃあ、他の奴らにも後で言ってくる。」
そう言った後、チャイムが鳴ったので、皆はそれぞれの教室へと向かった。
放課後、勇気達は葵と話しながら孤児院へと向かっていった。
「――へぇ、皆同じとこで暮らしてるんだ。」
「そうだな。結構騒がしくて楽しいぞ。」
「僕もそういうの憧れるなぁ。」
「楽しそうだもんね。あ、着いたよ。」
勇気は葵を引き連れて孤児院へと入っていった。
「あ、こんにちは!」
「彩芽、あんまり驚かせるなよ。」
彩芽と颯のいつも誰か来る時の光景に安堵を覚えながら、勇気たちはリビングへと向かった。
「ん、翼が言っていたお客さんか。」
ソファを陣取っていたセイジさんが立ち上がり、葵をじっと見た。
「……ようこそ。」
「こんにちは。」
セイジさんは笑うと、いつもご飯を食べている所に向かい、そこに座った。
「なあ葵、そのゲームって何処にあるんだよ。」
「はは、そう急かすなよ。そうだ、このゲームのハードは持ってるんだよね?」
「持ってる持ってる。俺が買った。」
そんな会話を見ながら、セイジさんはじっと皆の後ろ姿を見つめていた。
「……あいつ、どこかで見たことあるような。」
セイジさんは記憶の中を探るが、思いつきはしなかった。
「気のせいか。」
セイジさんは、ついにその考えに行き着き、ただただ皆を見ることだけに専念した。
「そういえば翼くん、この前隣のクラスで暴れてなかった?」
「うっ……別にどうだっていいだろ。」
「え、いつよそれ。」
翼は葵が言ったことに言葉を詰まらせ、久遠はそれについて興味津々だった。
「あの子についてだよね。」
「え、誰かいたの?」
葵は勇気が言った言葉が気になったようだった。翼はずっとやめろと言っているのだが。
「その子が前虐められてて、その事について口論になったんだよ。」
「へぇ、あれ、虐められてた子は?どうなったの?」
「それは……。」
陽美が無魂状態になった事は他の人には言ってはいけない。言うだけ混乱が広まるだけだ。
勇気はうーんと唸り、そして、あ、と声を出した。
「転校したよ。そのいじめに耐えかねて。」
勇気はなんとか言い訳を思いつき、一旦はなんとかなった。
「へぇ、その虐めてたって人は?」
「聞いて何になるんだよ。」
翼が怪訝そうに聞くと、別になんともないと言うように答えた。
「なんとなくだよ。もしかして、知らなかった?」
「いや、知ってる。ええと、確か……。」
いじめっ子の名前を言った後は普通にゲームをして楽しんだ。
翌週、翼が言ったいじめっ子達が死体で見つかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます