4.「bug」と「Insect Extermination」
彩芽――時々他の人が付け足していた――曰く、こう言う事らしい。
『metatual』は「人の個性」を最大限活かす為に作られた物だと。だから、人の姿や声を変えられるのはその為らしい。友人にバレたく無い、自分の姿にコンプレックスがあるなどなど。別に、そんな重くなくても、ただただ他の自分になりたいとかもあるらしいけれど。
リーダーであるセイジさんは、この状況を憂い、『metatual』を作ったらしい。
「人がよりよく生きていける様にってセイジさんが考えて作ったものって事だね。まあ、協力者もいるけど。」
「なるほど。あ、出来ました!」
「僕もあと少し……出来た!」
二人がそう言うと、彩芽は少しだけ声を溢した。
「へぇ、二人とも、いいじゃん!」
翼が二人の画面を覗いてそう言った。
光は、全体をピンクで纏めた様な服で、いわゆる魔法少女の様な雰囲気を醸し出している。
勇気は、白を基調とした服と、燻んだ緑色のマントをつけていた。まるで騎士の様な格好だ。剣も携えている。
「二人とも、武器は?」
「僕は剣かな。お姉ちゃんは?」
「私は……拳、かなぁ。」
「へぇ、確かに、選択する中にあったなぁ。必殺技も多い方だよね?」
「いや、それは……あんまり見てなかったけど」
光はとある魔法少女シリーズの事を思い出しており、それをモチーフにして作ったのでそこまでそんなことは考えてなかった。
「必殺技、私は持ってないからね。サポート技しかないから。」
彩芽が答えると、それに乗っかる様に颯も答えた。
「俺は必殺技多い方だな。逆に必殺技を沢山使うっていうか」
「それ、必殺技って言わないんじゃ無い?」
「確かになぁ」
陽美が呆れながら言うと、颯は苦笑いしながら答えた。
「俺は沢山銃火器使うから、全て必殺技!」
「あんたも必殺技って言わないじゃん。」
「それにロケランとかバズーカとかあるでしょ。」
陽美と彩芽に突っ込まれた翼はぐぬ、と下唇を噛んでいた。
「勇気くんはどうしてそれを選んだの?」
「それは……。」
勇気は、ふと、今日の事を思い出した。
傷まみれの顔、それでも戦う彼。彼を守りたいとそう思った――。
が、それを言えるはずもないので、
「みんなを守る為、かな。ほら、騎士って色んな人を守る役目をするでしょ?」
と言い訳をした。
そう言うと、みんなは納得をした。
「じゃあ、後は実戦だけだね。まあ、来るのは一週間後らしいから、それまで特訓とかしたらいいよ。」
彩芽がそう言うと、二人は元気よく返事した。
「そういえば、なんで血の色は青色なんですか?」
光がそう聞くと、彩芽は答えた。
「あー、それはね、規制の為らしいよ。でも、青色でも十分グロいけどね。」
「そうですよね……。」
「陽美ちゃん、結構姿変えてるんだね。」
「まあね。」
「声も変わってるし。」
光と陽美は、二人で『metatual』内の街を歩いていた。いわゆる見張りだ。いつ『bug』がきてもいい様に。
光は陽美をまじまじと見た。
いつもの明るい茶髪の髪とは違い、真っ黒の黒髪をツインテールにしており、可愛らしいフリルがついたピンクの服に、真っ黒なスカート――いわゆる量産型というコーデ――を着ていた。いつもの雰囲気を残しながら、それでいてかなり違うなと光は思った。
「……弟と周らなくてよかったの?」
「うーん、確かに心配だけど、あの子は颯さんと周りたかったみたいだからね。それに、私は陽美ちゃんと話してみたいと思ってたから。」
「ふぅん……。」
光の発言に、陽美は味気ない返事をした。光側から顔は見えなかったが、確かに照れている事はわかった。
「まあ、私も都合が良かったよ。アイツと離れることが出来たから。」
陽美は髪の毛をいじりながらそう言った。
「アイツって、翼君のこと?そう言えば、同じ時期に入ったって言ってたけど。」
「そうだよ。同じ時期に入った。けどアイツ、私のやることに突っかかってくるから嫌い。」
陽美は少し苦そうな顔をしてそう言った。
「そっかあ。でも、悪気があって言ってるんじゃないと思うけどなぁ」
少し、やりすぎかなとか思っちゃうけど。と光は心の中で付け足した。
「そう言ったって、嫌なものは嫌。」
「そっかぁ……。」
陽美と光が会話をしていると、大量の何かが走ってくる様な音が鳴った。
「……来た。」
「そうだね。」
沢山の人が逃げ、建物が紫色のベールに包まれる。
目の前に現れたのは、通常よりも大きな大量の蟻だった。
さあ、変身の合図だ。陽美は素早く変身していた。光もそれに続いて道具を見つめる。
――これを押して変身すれば、もう戻れなくなる。覚悟は決めたはずなのに、怖い。傷つくかもしれない。
けど、今更……。
「……っ光!」
「!」
「早く!」
変身する前よりも下になった二つ括りを靡かせ、彼女はこちらを振り向いた。
陽美は光よりも年下のはずなのに、その時だけは、お姉さんに見えた。
……ああ、そうだ。待ってる。
光はキラキラ輝く宝石をパン、と押し、光に包まれた。
「……行くよ、光。いや、『シャイン』。」
「……うん『ダーク』。」
二人はお互いのコードネームを言い合って目の前の蟻達に向かいあった。
二人は、ドタドタと鳴らしながらこちらに向かってくる蟻達を二人は飛んで避ける。
その時に陽美はくるくると回りながら魔法で作ったナイフを持ち、回った反動で投げていった。
それは蟻達に的中し、そのまま緑の液体を撒き散らしながら散っていった。
光は手を握り、そのまま蟻の軍隊を殴った。
殴った反動で周りの蟻も吹き飛び、他の蟻も潰れていく。
二人は建物の上に留まり、周りを見る。
様々な魔法や火花、蟻達が飛び交っている。仲間が戦っている様だ。
「これ、キリあるの?」
「わからない。けど、このままじゃこの壁も壊されるかも。」
そう言い、陽美は紫のベールを指差した。
そうか、これは絶対に壊れない物では無いのか。
「やるしかない。」
陽美はそう言い、空を飛んだ。と言っても、一時的な物だが。
手に数本のナイフを持ち、そのまま投げていく。投げながら建物を行き来していた。
自分もと思い、光は蟻達の先頭に立つ。そして、拳を握り、そのまま蟻を殴る。その波動で蟻は吹き飛んでいった。
しかし、蟻の一匹が光の腕に巻きつき、そのまま腕を噛んだ。
「った……」
なんとか振り解いたが、その隙を狙ってか、ゾロゾロと蟻が光に群がってきた。
色んなところを噛まれて痛い。気づけば蟻で周りが見えなくなっていた。
このままじゃ……!そう思っていると、周りから声が聞こえてきた。光達を応援する声だ。
「……おい、こいつ負けかけてるぞ!」
「頑張れ!負けるな!」
「こんな雑魚なんかに負けるな!」
「……っ!」
光は足に力を入れて、そのままぐるぐると回った。彼女についていた蟻は吹き飛んでいった。
吹き飛ばされた蟻達は、潰れて緑の液体を撒き散らす。一定数経った後、体にモザイクが掛かり、そのまま消えていった。
「はぁ、っはあ……。」
体は青い血だらけだ。顔を擦ると、痛みと共に青い液体が付いた。
「シャイン、大丈夫!?」
「……ダーク。」
飛びながらこちらへ向かってくる陽美は心配そうな顔をしていた。無理もないだろう。仲間が血だらけで座り込んでいるのだから。
「すごい血だらけじゃん。何があったの?」
「私がへまこいてさ……。蟻達に群がられて。」
「あー……。取り敢えずみんなと合流しよう。」
「あれ、蟻達は?」
気づけば蟻達はいなくなっていた。道路も綺麗になっている。
「退散した。ああ言う集団は一時的に現れてその後どっか行くの。」
「なるほど……。」
「ほら、立って。スプラに手当してもらお。」
そう言い、陽美は光を立たせる。光はよろよろしながらも立ち上がった。
「あれ、あや……スプラって手当出来るの?」
「ああ、あの人は回復魔法とか使えるから。」
「なるほど。」
光達が会話しながら歩いていると、前から声が聞こえた。彩芽と翼だ。
「あれ、シャイン!?大丈夫?」
「ああ、スプラ。大丈夫ですよ。」
「どー見ても大丈夫じゃないじゃん!おいダーク、どうなってんだよ!」
翼が陽美に突っかかると、陽美は怒った様な顔をした。
「知らないよ『ウィング』。確かに私は一人でどっか行ったけど、シャインなら大丈夫だと思って……。」
「はあ!?初めてなんだからちゃんと見とけよ!」
「しらな、だって練習の時も大丈夫だったじゃん!」
「ほらほら、二人とも喧嘩はやめて。ほらシャイン。手当するよ。」
彩芽がそう言うと、杖に埋まってある宝石が光った。途端に光の体は光に包まれ、傷がみるみる治っていく。
「はい。もう大丈夫。」
「ありがとうございます、スプラ。」
「いえいえ〜。」
「ほら、ダーク、もう大丈夫だよ。」
「……よかった。」
「ぐぬ……。」
陽美が安堵し、翼が唇を噛んで悔しがっていると、光の後ろから声がした。
「みんな、無事だったんだ。」
「おね……しゃ、シャイン、大丈夫?」
颯と勇気が合流し、みんなは無事だったことを喜んだ。
「大丈夫、『ブイ』。ハリケーンもありがとうございました。」
「いやいや、ブイったら僕が守るーって言って突っ走っちゃって、でもね、どんどん敵を蹴散らしていったんだよ。凄いね、君の弟は。」
「あ、言わないでくださいよ!」
颯がにっこりと笑いながらそう言うと、勇気が照れ始めた。
「凄いね、ブイ。」
「う、うん……。」
そう言い、光は勇気の頭を撫でた。勇気は照れくさそうに喜んでいる。
その様子を見て、颯はニコニコ笑っていた。
「あ、でも危険な事はするのやめてね」
「え、う、うん。」
光は勇気にそう言った。その間に彩芽はキョロキョロと周りを見渡す。
「……よし、もうこの壁も解ける頃だし、そろそろ隠れますか。」
ほら、と彩芽はみんなを路地裏へと招き入れた。
「お疲れさん、みんな。」
リビングにいると、セイジさんがパソコンに向かい合っていた。
「何してるんですか?」
光が問うと、セイジさんは答えた。
「監視だよ。『metatual』の。いつきてもいい様にな。」
「え、でも、『bug』が来るのも周期があるって」
「もしかしたらの場合があるじゃないか。」
「そう言う事なんですね。」
話をしていると、ゾロゾロと人が個室から出てきた。
「みんな、お疲れ様。飯でも食うか?」
「え、食べたーい。」
彩芽が目を輝かせていると、セイジさんは考える素振りをした。
「じゃあファミレス行くか。樋口さん達も呼ぼう。」
「やったー!」
翼が大声を出したのを皮切りに、みんなが口々に話し始める。
セイジさんは、それを見て微笑んだ。
――大丈夫。俺のする事は間違いじゃない。
「にしても、いつもアイツらの戦いは凄いよな!」
『metatual』の中で、とある人はそう言った。
「わかる!なんか、魔法とか使ってな!」
びゅんびゅーん!と言いながら、もう一人は身振り手振り動かし表現した。
「それに、あいつら
「あれ、アイツら人じゃないのか?」
一人がそう言うと、もう一人はきょとんとした。
「そりゃそうだろ。人知も超える事するし、血も青い。」
「あー、そりゃそっか。」
「ま、運営側の祭りの一つだろ。」
「そうだなぁ。」
そう言い、二人はまた世間話をしていった。
「やっぱり危険です。」
樋口さんは同僚の
「まあ、そうですけど……。」
「樋口さん。そうカッカせずに……。」
速水さんと山口さんはそう口々に答えるが、それでも彼女の感情は収まらない。
「子ども達にあんな事するなんて、それこそ非道じゃないですか!」
「でも、私達は出来るんですか?」
「……!」
「そうですよ。一応、バレない様に名前も変えて活動しているようですが、それでもバレてしまうかもしれない。この孤児院も危険に晒されます。」
「でも、いつかバレますよ!」
樋口さんはそれでも納得がいかないようだ。
二人はお互いを見て、そして逸らした。
「それでも、あの人を止める事は出来ますか?」
「……!」
速水さんがそういうと、山口さんが続けた。
「あの人は、表側だけはいいことをしているのだから。みんなを止めるにも止められないでしょう。」
「……そうですね、ごめんなさい。」
でも、と樋口さんは続けた。
「それでも、いつかは化けの皮は剥がれます。その時まで、待ちましょう。」
――その時までに、全員死んでなければ、ですけど。
そう言い残し、樋口さんは孤児院から出た。
「私たちも、帰りますか。」
「そうですね。」
二人は、荷物を持って、帰っていった。
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