3.「metatual」
眠って、いつの間にか意識が飛んで、気がつくとさっきとは違う部屋の一室にいた。
横には大きな窓があり、その向こうにはクローゼットがあった。
ドアを開けると、既に彩芽がいた。見た目はほとんど変わっていないが、丸メガネをかけていた。
「やっほー、光ちゃん。」
「こんにちは、彩芽さん。」
「もー、さん付けいらないのに。あ、もうそろそろ勇気くんも目が醒めるんじゃない?」
そう言うと、ガチャ、と別の部屋のドアが開いた。
「……わ」
「……お姉ちゃん、何だか低いね。」
「そりゃ、勇気が高くなったからね。」
170cm前後になった勇気は少し照れくさそうに首を掻いた。
すると、別の部屋から颯が出てきた。出てくるや否や勇気を見て驚いていた。
「身長、俺とほぼ同じくらいじゃん。」
「少し、僕の方が高いくらい、ですかねぇ。」
勇気は少しデレながら颯にそう言った。
「じゃあ、この街の案内をしようか。ついてきて。」
外に出ると、光達がいたところは住宅街だったようだった。街の方に出る為に話しながら少し歩いた。
暫くすると、賑やかな声が聞こえてきて、パッと視界が広がった。
様々な人が行き交い賑わっている。都会の中心部みたいだ。
服やアクセサリー、食べ物などを売っている店が並んでいた。
「どうする?服見ていく?」
「あー、先ず食べ物食べたいです。」
「僕も……。」
二人がそう言いながら手を挙げると、颯はくすくす笑った。
「二人共食いしん坊だからね。」
「あー、昨日ピザのLサイズワンホール二人がそれぞれ食べたかと思えば、ポテトもナゲットも食べてたもんね。」
「わ……!言わないで。」
「あはは、ごめんって。」
光と勇気が顔を隠した所で、みんなで食べ物が売っている所を探した。
クレープやフライドポテト、ハンバーガーを食べ歩いていき、お腹がいっぱいになった所で、服を買いに行こうとした。
すると、街に大きな音が響いてきた。
奥から響いていく、大きな地響きだった。
「……なに?」
「あちゃ、来ちゃったか。丁度その時だと思ったんだよね。」
光の呟きに呼応するように彩芽がそう言うと、光と勇気を守るように彩芽と颯が前に出た。
様々な人たちの叫び声が聞こえる。人々は建物の中に入り、その建物達は謎の紫のバリアに包まれる。
「二人はどっかに隠れて見てて。」
「な、何が」
「……!隠れて!」
彩芽と颯がそれぞれ二人の手を引き、路地裏へと連れていく。
ドタドタと音がしたと思えば、黒く大きなカマキリが横切った。
「え」
「あれは大きいよ。」
「そうだね、彩芽、早く片付けよう。」
彩芽と颯が目を合わせたと思えば、勇気が二人に聞いた。
「何するんですか?」
「害虫退治だよ。」
すると、二人はキラキラ光る大きな宝石が埋め込まれた丸い道具を取り出した。
パン、と音を立てて宝石を叩くと、まるで魔法が掛かったように変身した。
彩芽は大きな二つの三つ編みをあしらえて、高いハイヒールを履き、まるで可愛らしい魔女の様になっていた。
颯は髪の毛が少し伸びてウルフカットのようになり、王子の様な服にマントをつけたような姿になっていた。
二人はそれぞれ違う杖を持っている。
「行くよ、『ハリケーン』」
「うん、『スプラ』」
彩芽はふわりと浮かびながら、二人は前へと出た。
光達が路地裏から少し顔を出すと、二人はあの大きなカマキリに立ち向かっていた。彩芽は上から颯に強化魔法を掛けており、実際に戦っているのは颯のみだが。
颯は杖に炎を纏わせ、それをカマキリに放っていた。
カマキリは少しづつ焦げ始めているがそれでも動くのをやめない。
カマキリは大きな鎌を使って颯に振りかぶった。
「危ない!」
彩芽は急いでバリアを張ったが、薄かったのか、直ぐに破られてしまう。
しかし、避ける余裕があったのか、上へと避けたが、バリアの破片が飛び散り、颯の頬を掠めた。颯からは青い液体が流れた。
「颯さん……!」
「ハリケーン!大丈夫?」
「大丈夫!……やったな!」
颯がそう言った途端、杖に嵌められてある丸く磨かれた宝石が光った。
その途端、炎が体全体に纏わりつく。炎は上昇し、上に挙げられた杖にどんどん吸い込まれていく。
体に纏わり付いた炎が無くなったと思えば、颯は杖を前に突き出した。
そこから太い火柱が渦を巻く様に放出された。
それはカマキリを包み込み、カマキリの表面をチリチリと焼いていく。
カマキリは鎌を使い炎を掻き分けようとするが、熱さにより鎌が爛れていく。
どんどん炎の渦が狭まっていき、カマキリも燃えていく。
そして、炎の渦がなくなった時、既にカマキリは消し炭になっていた。
「すごいぞ!」
「やっぱりカッコいいわ!」
「今日これ見る為に仕事休んで良かった!」
周囲は口々に声を出し始めた。全て二人を称賛する声だった。
よくよく考えてみれば、二人が戦っていた時も頑張れとか何だとか言っていた気がすると光は思い出した。
紫のバリアは解け、再び騒がしさを取り戻す。
彩芽と颯は変身を解いて光達の元へ戻って行った。
「二人共、大丈夫ですか!?」
「颯さん、怪我してる……。」
「大丈夫。いつもの事だから。まだましの方だよ。」
「にしても、今日は弱かったね。」
二人が笑い合いながらそう言っていると、光が二人に問うた。
「なんなんですか、今のは。」
「あれは『bug』。数年前に出てきた化け物だね。」
「俺達も正体はわからないけど、まあ、セイジさんに言われたからアイツらを倒してるんだよね。」
二人が目を合わせながらそう言い笑い合った。
「さて、帰ろうか。色々説明するから。」
彩芽がそう言い、退出の仕方を教えてくれた。
「ほら、このイヤホンあるじゃん。この先っちょに小さなボタンがあるからそこ押して。そしたら退出出来るから。」
そう言われ、二人はボタンを押すと、意識が朦朧としてくる。
気がつくと、既に自分の部屋に戻っていた。
光は隣を見ると、陽美はいなかった。何処かへ行ったのだろう。
上半身を起こした所で、ドアを叩く音が聞こえた。
どうぞ。と光が言うと、そこにはセイジさんがいた。
「起きてるな。じゃあ、リビングに来てくれ。」
セイジさんに手招きされてリビングに向かうと、そこには全員集まっていた。いないと思っていた陽美もいた。
「よし、じゃあ二人に説明するか。でも、大まかな事は彩芽と颯から聞いてるだろう?」
「うーん、『bug』と戦うことしか……。」
勇気が顔を掻きながら答えると、セイジさんは微笑んだ。
「いや、それで十分だ。まあ、細かい事を言うとだな……。」
セイジさんは唇を触りながら説明を始めた。
「彩芽、颯、あと陽美と翼もだが、ここにいる奴らは『bug』と言う虫型の化け物に対抗する為に結成された部隊『Insect Extermination』……通称『IE』の一員だ。変身をして魔法やら何やらを使って戦うんだ。」
「その『bug』ってなんですか?」
「『bug』は、『metatual』を破壊しようとする奴らだな。作った側もそう言っていたはずだ。」
「へぇ……。」
「そこでなんだが、お前らも『IE』になる気は無いか?」
「「……え?」」
セイジさんの発言で、二人は驚く。
いきなりそんなこと言われるなんて思っても見なかった。
「お前らは今年13と14だろ?なら、条件は満たしてる。」
「条件って……。」
「小学3年生から高校3年生の人を対象にしているんだ。大人になれば、孤児院から出ることになるからな。まあ、ここで働くとなったら話は別だが。」
そう言われた二人は目を合わせた。
二人共、不安が目に滲み出ている。そりゃそうだ。あの光景を見てしまったから。
巨大な虫、戦う二人、傷つく颯。
危険な行為だってことは見てるだけでわかる。
でも、それでも、二人は
「私、やります。」
「僕も。」
そう言うと、セイジさんは驚いた。
「かなり危険な戦いになるぞ。」
「大丈夫です。それに、『metatual』内では死なないでしょ?」
光がそう言うと、セイジさんは目を逸らしてそうだな。と返した。
確かに、人が死んだと言う例は無い。だが――。
「それに、『metatual』は私達の憧れ。それを壊すなんて許さない。」
光はそう言った時、セイジさんは目を開いたが、すぐに細めた。
「なら、話は早い。早速アバターを作ろう。俺はもう帰るからお前らが教えてやってくれ。あ、もうアプリは更新してある。」
「あれ、もう帰るの?」
彩芽が聞くと、セイジさんは答えた。
「今日は仕事が多いからな。それを片付けてくる。」
そう言い、セイジさんは孤児院を出た。
「……よくよく考えてみれば、セイジさんってここの人じゃ無いんだね。」
「そうなんだよね。一時的に孤児院について調査してる人だよね。」
光がポツリと呟くと、彩芽がそう答えた。
勇気は彩芽の発言が気になり、彩芽に聞いた。
「え、セイジさんは何してる人なんですか?」
「うーんとね、とある組織のリーダーらしいね。なんでも、『人がよりよく生きていける様に』をモットーにしてるって。」
「へぇ。だから、孤児院とかの施設に来てるんですね。そう言う人がどんな生活をしているのか調査するために。」
勇気が納得すると、彩芽が再び口を開けた。
「うん。後ね、作ったって。」
「作った?」
光が聞くと、彩芽はにっこりと笑った。
「そう。『metatual』をね。」
「……え?」
「さ、アバター作ろ!ほらほら、みんなも手伝って!」
「はーい!」
翼が元気に返事すると、勇気は驚いた。勿論光も。
「ちょ、詳しく聞きたいんですけど!?」
「後で彩芽が教えてくれるだろ?な?彩芽。」
「うん。決めながら話そっか。」
颯が聞くと、彩芽は笑顔でそう言った。
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