第二章 . 【これがきっと……恋】

 雫石と会うことが日課になりつつあることに気がついたのは、カレンダーをめくった時だった。


 直ぐに死ぬつもりだったから季節が変わっても触っていなかったカレンダーを久しぶりにめくった。


 その時初めて、次会うことを楽しみにしている自分がいることに気がついた。


 それと同時に前よりも次の日に楽しみを感じるようになっていた。


 出来るだけ楽しい話を持っていこうと決めて他の人の話に耳を傾けるようになったのは最近のことである。


 今までとは自分が違うように感じた。


 雫石と雨を避けながら座ったコンクリートの上で、なんでもない話をする。


「それで、どうなったの?」


「結局振られたんだよ」


 そう言って笑うと、雫石も釣られて笑顔を浮かべる。


 青い目が伏せられて、少しだけ浮かんだ涙が妙に輝いて見えて、気がつけば、唇が重なっていた。


 ゆっくりと離れていくが、お互いに何が起こったのか分からずに固まってしまう。


 仕掛けたのは柚希だったが、その柚希も固まってしまえばもう誰もどうしようも出来なかった。


「今のは……」


 雫石が自分の唇をなぞりながらそう呟いた。


「俺、雫石が好き」


 頬を少しだけ朱に染めて、柚希ははっきりとそう伝える。


 雫石は少しだけ悩んだ後、ぽつりと呟いた。


「少し考えさせて、でも悪い返事はしないから」


 それってつまり、期待してもいいということなのだろうか。


「さっきの、嫌じゃなかったから」


 雫石はそう言って、少しだけ頬を染めて顔を逸らした。

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