第2話

 あれから、一旦解放されたフレドは土下座の勢いで謝ってきたけれど、私は婚約破棄一択だった。


「アミリ、ほんの出来心だったんだ!ちょっと試そうと言う話になって!」

 普通は試さないし、ただの浮気だから。


 フレドのマークス家からは、謝罪と慰謝料を頂いた。次男の婚約者とは言え、よくして頂いていたので縁が途絶えたことは少し辛い。

 フローラのガンド家からも父親から謝罪と慰謝料をもらった。

 ガンド子爵の性格だと、娘は被害者だとかゴネそうなイメージだったけど、目撃者が多く取り繕えないからか相場の倍近い慰謝料が入っていた。

 予想通りフローラとフレドの婚姻を進めると言っていた。

 マークス家の方は、他の殿方とも噂があるフローラを受け入れたくないとボヤいていたので、結婚することになったらフレドを除籍すると思う。

 私はもう二人のことはどうでも良いから全部聞き流した。


 結局、フレドはマークス家から除籍され、現在隣国と衝突が激しい辺境騎士団に出向で、フローラを連れて行くことになったらしい。

 罰としては微妙だけど、お金持ちを捕まえたかったフローラは平民になったフレドと結婚することが罰なのかも。

 



「アミリ、よくフローラに絡まれてたからいなくなって良かったわね」

 先輩からそう言われて、よく近くで何か騒いでたのが嫌がらせと気がついた。

「ちょっと、流石に鈍感がすぎるわよ」


 でもねぇ、通りすがりに洗濯物を私の目の前でぶちまけたのは、結局フローラがやり直しになっただけだし、足を引っ掛けてきたりは結果フローラが足を挫いただけ、2階からお水を捨ててきた時は私のそばに偶然いた財務官が被害を受けてフローラは減給になってた。

 嫌がらせになってなかったから気にしてなかった。


「はぁ、興味がないにしても悪意には気が付かないと危ないわよ」


 フローラに恨まれたり、嫌われる原因に思い当たらないんだもの。


「たぶんだけど、フレド卿や他にもカッコいい騎士がアミリの事を好きだから敵愾心を持たれちゃったんじゃない?」

 先輩がそんなことを言うけれど、私がモテてることはない。


「フレドは恋人だからわかるけれど他はいないと思う」

「アミリって鈍いよね!年下からオジィまでアミリの笑顔を見れば頬を染めてるわよ?」


 全然思い当たらないんだけど、否定すると話が長くなりそうだから「そうなんですか」って流しておこう。


 恋だとかのモヤモヤタイムが無くなったので女官試験に集中したい。


 明日は休みになったしまったので、王立図書館に行くことにした。


「アミリ、気晴らしに出るならおしゃれしないと」

 同室のレミーがなぜか自分の服を貸してくれた。

「アミリはブルー系よりオレンジ色とか明るい色がいいよ」

 図書館に行くだけなのに華やかさはいらない。でもせっかくの好意なので大人しく甘える。


「せっかくフリーになったんだし色男と出会ってくるんだよ!」

 ウィンクで送り出されてしまった。


 寮から出て馬車の停留場に向かう。

 休暇で出かける使用人用の馬車が、一日二回往復ででるのでそれを利用して街に行く。

 辻馬車よりはかなり質の良い馬車なので助かってる。


「あら、貴女、大変な目にあったわね」

 昨日の騒ぎを見ていたらしい別部署の侍女オリーブに労わられる。

 今日はお休みの人が少ないのか三人。一人の男性は女子トークに居心地悪そう。


「あんな女に引っかかる男は将来なん度も浮気するんだから結婚する前にわかって良かったわよ」

 ごもっともな励まし?を受けて道中ずっとガッツを入れられた。

 彼女は付き合うと必ず浮気されるからもう男はいらないと笑う。

 見事なダメンズ好きとしか。


「でもねぇ、フローラって緩いっていうか昔ほどモテなくなっていわゆるただでやれる女扱いになってるのよ?軽く扱われてることに気付かないでチヤホヤされてたのって少しかわいそうよね」


 靡かなければ殿方は必死に口説いて貢物を差し出すけれど、ちょっと優しくすれば抱ける女には誰も貢がないんだって言う。


 今は昔ほど純潔に厳しくないけれど、貴族家に嫁ぐならそこは大事だし、高位になればなるほど貞淑さを求められる。

 彼女は高位貴族を狙いながら体を使ってしまったことでレースから脱落した。


「責任取らずにヤりたいだけならプロのお店に行くべきよ」

「どっちも下心があって方向性が違うんですよね」

「そうそう、良いように扱われるだけ」


 やっと街の停留場に到着してホッとする。

「私は家族に会ってくるの、またね」

「お気をつけて」


 若干気疲れしたような気分だったので、図書館近くにあるカフェで休憩を取る。


 お店独自にブレンドされたハーブティーに癒される。

 お店に流れる穏やかな空気。

 ゆっくり香りを楽しみながら飲んだ。


 今日の目的の図書館にいざ参らんと向かえば、神殿の作りによく似た重厚な建物にたどり着く。


 王宮図書館よりは蔵書が少ないけれど、利用者のそうそうも違って、庶民的な本もあるので私はもっぱらこちらに通う。


 入り口で身分証を見せ入館証をとって、2階にある目的の書庫まで進むと先客がいた。


「やぁ久しぶりだね」


 ここでたまに遭遇する見目麗しい殿方が、大型の本を窓辺で読んでいた。

 相変わらず神々しい金の髪が窓からの明かりに反射して無駄に眩しい。


「イスト卿、眩しいでしょう。カーテンを閉めてはどうですか?」

「いや本を読むのに暗くしたら気が滅入るよ」


 爽やかに断られたので、スルーして読みたい本を棚から取り少し離れた席で座った。



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