tale9

「お届けものです!」

郵便屋の軽快な声が家中に響く。

すると、待ってましたと言わんばかりの足音が出迎える。

騒々しく喚く家の中に少し体を強張らせながら郵便屋は開くその時を待っていた。しかし

ちょうど目の前の扉が薄く開いた時、ぴたりと音が止まった。まるで家の中だけが音に見放されたようである。

なかなか出ようとしない家主に郵便屋はチラチラと時計を見だし、ついには出直す事に決めたのか家の前から離れて行った。



「幸せですか」

マリアは問うた。

「そ、そんなわけないだろ!」

息子は答えた。

身を捩り逃げ出そうとする息子はマリアの血走った目には勝つことができない。

息子は腹が空いたので自室のドアを開けた。すると

パッと赤が見えたのだ。見慣れたものよりずっと高くから雑物と混ざって赤が落ちる。


息子は叫ぶより先にキッチンへと走った。

赤への幸せはどこへやら。もしかして赤い花だけを愛したのかもしれない。

マリアもまた赤い花を求める哀れな者になっていた。




「赤い花、あなたからは咲きますか」

「は?赤い花?」

マリアはじっと息子を見下げた。その瞬間。

息子はマリアの手中から抜け出し、裏庭へとかけた。

玄関はマリアによって封じられ、1番近い逃げ場所はそこだったのだ。柵の1番奥の街路への抜け道へと一直線に息を切らす。

途中で躓いたモノに一切の振り返りもなく走る。


そして裏庭のドアを潜り抜け中を少し覗き見た。息を殺し見つめる。

どうしてすぐに遠くへ走り出さないのかめっぽう不思議ではあるが、子供であるため好奇心で片付けたい。


マリアは当然追いかけたのだ。

しかしふと立ち止まった。ちょうど先程までいた場所で。

物思いに耽るほどマリアは暇ではなかった。それなのにその場所、埋められた芝生を見つめる。


「レディ、バグ」

マリアは確かにそう呟くと膝から崩れ落ち、傘を放り投げた。

刹那

雨に濡れ泥になった土が不自然に起き上がる。

今から芽生える強い植物があったのか、そう考えてしまうほどに。





「マリア」


雨が一層強く降り注ぐ。

土に塗れた2本の手が洗われる。

少し離れた場所からむくりと頭が這い出て瞳を一層見開いた。

「レディバグ、あぁごめんなさい。申し訳ありません。……人を殺めるなんて、ほんとうに」

マリアは溢れる涙を拭う。

頭が全て出て次は首、肩、腰まで空気に触れる。レディバグは一つたりとも怪我をしていなかった。

泣いて謝るマリアにレディバグは見開いた目をそのままにマリアの頰を撫でる。

「ずっと、聞いてた。土の中で。いつも教えてくれてありがとう」

そう言うと、


ぐるんと首を捻り、息子の方を見つめた。


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