tale3

コンコン


心地のいいリズムが聴こえる。


コンコン


ほらまた。

誰かでないの。

誰かがとたとたと地面を蹴り上げて部屋から部屋に人を呼びに行く。

そして3個目の部屋。やっと人がいて声が出る。

ねぇ、誰か---


ドンッ


「ねぇできてないじゃん。掃除。誰が鼠なんか家族にしたの?君はどこかのプリンセスか何かかな」

一つも動かない鼠を横目に息子は言った。

「君の仕事はなに?レディバグ」

「……」

それ、ではなくレディバグはいつもと同じようにベッドに腰掛け自身の膝を見つめている。もう瘡蓋はない。

レディバグを見下すその目は澄んだ中に鼠の毛を映した汚れを持っていた。

何秒経ったか。

ドアのノック音はいつの間にか止み、話し声に変わる。


息子は不機嫌に視線を逸らすと、鼠の元に行き、またその場に歩いて戻る。

「君の、仕事は?」

レディバグの汚れ縮れた髪の間から灰色の毛が見え隠れする。

顔が徐々に上を向き、口元だけが晒されてむいた拍子に鼠が引力に従い音を立てて落ちる。

「幸せを運ぶ事、です」

呟くと、もう一度顔を下に戻す。

しかし息子の顔は変化どころか憎悪に満ち溢れていた。鼠を刺したフォークから赤黒い血が滴り、ぬめらせながら自身の指を伝う。


ぎしぎしと家が鳴る。

誰かがこちらへ近づく音だけが存在していた。そんな静寂さえも息子は不快でならないと思い切りフォークを高く振り上げる。

「ありがとう。遠慮なく頂くよ」

言葉を合図に勢いよく振りかざす。



ドスッ


レディバグの体が跳ねる。


ドスッ


また、跳ねる。


扉が開いてもなお、跳ねる、赤く綺麗に染まっていく。

ベッドのシーツも可愛らしい赤色に染まっていく時、息子はやっと笑顔を見せるのだ。

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