tale2

「ほんとに彼女はいつも忙しないね」

男は呟くと後ろを向いて門を開く。

「君。将来の夢は」

それは久々に踏む地面に興奮している。風の通るレンガ道はまるで神話のようにそれの行く先を照らしているのだ。

「冒険家かな?」

答えがなく、それにまた問いかける。先ほどよりも大きく。

ターンの後に足踏みをしていたそれはやっと自分に言葉が向かっていたことに気づいた。

「かんがえたことが、ありません」

それは絵にかいたような無表情で男に言った。

動を五秒前とするのなら今は静の時間である。

その答えに男はほくそ笑むと、それを門の中に招いた。

「そうだね。そのほうがいい」







「名前はなにがいい?ローズ?メイシア?」

「僕が決める!いいでしょ!お父様!」


それに名前はなかった。

ここの前はどう呼ばれていたか、何ができるか。その事柄が会話に含まれることなく話は弾む。端に置かれた見窄らしいベッドにそれは腰掛け、膝にいつの間にかできた瘡蓋を眺めていた。


埃がたってならないここは8畳ほどのゲストルームである。虫に喰われたカーテンの端が窓端に挟まり震えていて、暖かさは見えない。

それを門の中に連れた男が部屋のドア前で微笑ましく部屋で走り回る何かを見つめる。紛れもなく何かの正体はそれが呼ばれた理由ではあるのだが。


「……きまった。レディバグ!どう?」

「レディバグ……なぜそれにしたんだい」

「意味なんて特にないよ。強いて言うなら今日僕の遊びを邪魔してきたんだ」


走り回るのをやめると、息子はポケットに手を入れながらそれに近づいていく。大きい目を期待で揺らしながら息子はそれの目の前までくると、ポケットから出した何かをそれの手の内に落とした。

「今度は幸運をよろしくね!レディバグ」



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