When I grow up
@yuu-hanabatake
tale1
スコーンが皿に並べられる音に子供たちははしゃぎながら口に運ぶその時を待っていた。晴れた顔がのけていくと淀んだ空と暗く粘った雲が街を覆い、虚空のオーブが家々をノックしている。晴天でも薄暗い今日に苛立ったのか勢いよく窓を閉める音が響く。
「ルーク、埃が立つ」
窓を閉めた者を叱る貴婦人の声に振り向く者はいないが、砂利を蹴飛ばしながら急ぐ無機質な黒が家の前に止まった。
「やあ、こんにちは。待っていたよ」
家の門の前に立つ男が無機質に向かって会釈をする。
それを合図に後部座席の左側が勢いよく開いた。出てきたのは栗色の髪を詰め合わせのように巻き上げた商人の女。ワインレッドのシルクワンピースに包まれて胸元のバッチを上機嫌に光らせている。
「ごきげんようグラディエル様。本日はお買い上げありがとうございます」
女はくるぶしほどまで伸びる裾を丁寧につかみお辞儀する。
「では早速お持ちしますね」
言い終わるが早いか早足で車へ戻るとものを連れてそれを男の前に寄越した。
それは程よく梳かれた長い髪の間から男を見上げる。
「私の娘ですが10つほどです。ご子息様のいい遊び相手になるかと」
男は唸るとしゃがんで目線を合わせた。それは急な近さに恐れて目を瞑る。
「ではこれで」
男は口角を緩く上げると立ち上がり答えた。
ストライプの上着から小切手を出して女に渡す。
女はそこにある額に笑みを浮かべそそくさと車に戻っていく。
中から女が小さくお辞儀をすると、見計らった運転手は車をまた急かした。
その笑みは空にある雲と酷似していた。
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