第6話

「あきほさん」


 アイラインを引いた、その手が止まった。目を開いて、もう一度鏡を見る。目じりを通り過ぎてから跳ね上げた、猫の目を模したライン。秋穂さんの望む、秋穂さんの好きなものだった。知花は、秋穂さんのような、シックなものを一度試してみたかった。なぜか今日はそんなことが、メイクの最中に浮かぶ。秋穂さんはそれをあまり喜ばないので、知花は秋穂さんとお揃いを、したことがない。秋穂さんと隣に並んでいられないなら、する意味はない。いつもどおりのラインを、すっと撫でた。何か、間違っているだろうか、浮かんだ言葉を、知花は慌ただしく消し去った。リキッドのペンを、折る様に握って、ポーチの中へ突っ込む。早く秋穂さんに会いたい、会わなければならない。無性にそう思った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る