26話 デカい盾はカッコいい

 《エヴァンジル》第二階層への挑戦を始めて一ヶ月。

 出現するほとんどのモンスターと戦ったこともあり、かなり慣れ始めている。


 もちろん俺も成長しているのだが、これは2人のアタッカーが優秀だからという他ない。

 大剣を振るい、一撃で敵を両断するプッパ。《マジックアロー》の威力や連射を駆使して敵を倒すエスティ。E級の俺と組むには過剰な火力があってこそのことだ。


 今はなによりも連携力、お互いの意図を理解することを優先している。特に重視されているのは俺の指揮力だろう。

 特に問題は無いのだが、今のうちに試しておきたいこともあった。


「そろそろタワーシールドを試してみるのはどうだろうか」

 下の階層へ行く前に試しておくべきだという俺の言葉に、プッパは顎の無精ひげを撫でる。


「悪くはない。一応説明しておくが、タワーシールドは防御力が高くなるが、行動は遅くなる。ラウンドシールドは、防御力はそれなりだが、行動は速くなる。だが一番の違いは、タワーシールドをずっと構えながら進むのには、かなりの筋力が必要になるってことだろうな」


 なにかが重くなれば、それだけ体への負担も大きくなる。

 プッパの言葉に、俺は力こぶを作ってみせた。この四か月で体も鍛えられている。

 スッと近づいて来たエスティが、俺の腕を撫で始めた。無言でさらに力を籠める。


「サードはあんなに細い腕をしていたのに、今ではそれなりにゴツゴツしてるのね。成長を感じるわ」


 感心しているエスティに、俺は少し意地悪をする。


「同じ年ごろの男の腕を撫でるとは、淑女の嗜みはどうしたのだ?」

「仲間の成長を確かめるのに恥ずかしがってどうするのよ。そう、別に大したことじゃないわ。えぇ、全然。本当に意識なんてしないけど、余計なことは言わないでくれる?」


 ほんのり顔を赤くし、恥ずかしそうにエスティは一歩下がる。どちらかといえば強気な性格なのに、実は初心なところも彼女の魅力かもしれない。


 そんなエスティを見て微笑ましく思っていると、プッパが背負っていた盾をドンッと地面に突き刺した。


「じゃあ、使ってみるか」

「ん? 最近、なぜかタワーシールドを背負っていると思っていたが、もしかして俺が言い出したときのために用意していたのか?」

「べ、別にそういうわけじゃねぇ! ただ今後のことを考えれば、今の内に試してみてもいいかと思ってただけだ! サードも力がついてきたから、そろそろ使いこなせるかもしれねぇからな!」


 素直に褒めてくれればいいのに、なぜか怒ったような口調でプッパは言う。そんなところも彼の魅力であると断言しよう。


 タワーシールドの大きさは様々なのだが、受け取ったタワーシールドは身長の半分より少し大きい。1mと少しといった大きさだろうか。


「そいつは一応、汎用性の高いやつを選んでおいた。オレには軽々だが、サードにはそうもいかねぇんじゃないか?」

「うむ、重いな。想像以上だ。ところで、この底が尖っているのは意味があるのか?」

「地面に突き刺して耐えることを想定しての作りだ。……そうだな。極端な例で言えば、ドラゴンのブレスを耐える際などには、地面に突き刺して盾を体で支える。そうしなければ、吹き飛ばされちまうからだ」

「……カッコいいな」


 想像して感想を述べた俺に、プッパも頷く。


「あぁ、分かるぜ。ちゃんと意味がある上にかっけぇ。スキルと併せれば後ろの仲間もしっかり守れる。タワーシールドってやつには重さ以上の魅力がありやがるな」


 地面にタワーシールドを突き刺し、支えるように身構える。スキルで防ぐ範囲を広げ、後方の味方も守り切る。自分たちの周囲はブレスで黒く焦げた地面。

 脳内にその光景がしっかりと浮かび、強く拳を握った。


「よし、これからはタワーシールドでいくことにしよう!」

「タンクと言えばタワーシールドだからな!」


 盛り上がる俺たちに、エスティが冷静に聞く。


「効率的にはどうなの?」

「最高に決まっているではないか!」


 俺はすぐに答えたのだが、プッパは難しい顔を見せる。


「……タワーシールドは味方の数が多く、タンクの体がデカいほど使い勝手がいい。逆にラウンドシールドは、防ぐよりも回避や逸らしたりに適しており、体の大きさより素早さを活かした盾になる」

「ゴチャゴチャ言っているけれど、サードはどっち側だと思ってるの?」

「……後者」


 プッパはチラリと俺を見たが、すぐに目を逸らす。先ほどまで乗り気だったのに裏切られた。

 ショックを受けていると、エスティが出た意見をまとめる。


「何か発見があるかもしれないし、とりあえず試してみるけれど、プッパが前の方が明らかに良いと判断したら戻す。それでいいわね?」


 エスティの判断は間違っておらず、俺たちはただ頷くしかなかったのだった。

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