25話 甘えているのではなく頼っているということ

 ――数日後。

 福音のダンジョン《エヴァンジル》第二階層。


 この階層は気候が穏やからしく、上半身裸の豚型モンスター《オーク》や、ゴブリンといったモンスターをよく見かける。

 第一階層との違いは、モンスターが強くなっただけでなく、仲間同士の連携や、異なるモンスターとの派閥争いがあることだろう。


 目の前にいる2体のオーク。手にある木槌が振り下ろされ、それを盾で受ける。


「《アイアンシールド》」


 盾の強度を上げるだけでなく、自身の防御力も少し上げてくれるスキル《アイアンシールド》で木槌を防ぐ。というか、そうしなければ防げない。


「こいつは押さえておく。そっちを倒してくれ」

「分かった! だが、もっと声を張れ!」

「聞こえなかったら意味がないわよ!」


 2人は指摘しながらも、一瞬でオークを倒し、俺が押さえていたオークも倒してしまう。

 僅かに痺れを感じる腕を振っていれば、それも指摘される。


「腕が痺れてるのね? 《ヒール》。異変はすぐに伝えなさい。分からなければ対応できないわ」

「大したことはないかと思い、魔力を温存すべきだと判断していた」

「その判断が悪いとは言わないけれど、報告はしなさい? 最終的な決定はサードがするべきだけれど、情報の共有は必須よ」

「後、前に出るときも言え。味方がどこにいるのか、どのくらいの距離なのか。そういったことも意識しろ」

「あぁ、気を付けよう」


 この数日、2人のお陰でタンクとして伸びている。ヒーラーとしてはまだ足りないが、成長は感じていた。


 しかし、良くないと思っていることもあり、それを2人に伝える。


「今の状況はよろしくない。短所を指摘するだけでなく、長所も教えてくれ。端的に言うと、もっと褒められたい」


 腕を組み、胸を張りながら言うと、2人はポカンとした表情を見せた。

 よく分かっていないようなので、もう少し詳しく説明をする。


「短所は修正すべき点だ。言われることに不満は一切ない。しかし、長所はあまり教えてくれない。より良い点を伸ばせば、成長はさらに速い。違うか?」

「……まぁ、そうだな。敵の武器を見て、スキルを躊躇わず使ったところは良かった。何度か戦っているとはいえ、ちゃんと対応してるってことだからな」

「敵とわたしの間に立ってくれていたのも良かったわね。サードが突破されない限り、わたしが攻撃されることもない。安心感があるわ」


 褒められたことで、俺は気分を良くする。

 今度はこちらの番だと、2人を褒めることにした。


「プッパの火力は高い。敵をあっさりと倒していた。俺が耐える時間が減れば、それだけ敵を引き付ける余裕となるからな」

「お、おう」

 なにか照れ臭そうにプッパは頬を掻く。

「エスティは《マジックアロー》しかほぼ使っていないのに、その狙いが素晴らしい。威力を押さえ、連射力を上げているのか? 自分で仕留めるのではなく、仲間に仕留めさせる動きは参考になる」

「え、えへへ。なんかいいわね、褒められるのって」


 うむ、空気がうまい。

 俺が褒めてほしいから言ったことだったが、これは悪くない案だった。ドンドン褒めていき、褒めてもらおう。

 喜んでいる俺に、プッパが聞く。


「そういや、オークを一体任せたよな。《タウント》で引き寄せなかったのはなんでだ?」

「プッパはタンクの経験がある。任せて一気に倒してもらったほうが良いと判断していた」

「正しい判断だな。だが、それを口に出して言ったほうがいい。お互いの意図を理解すれば、オレたちはもっと強くなるからな」

「……頭は回るのだが、体がついていかなくてな。どうしても甘えてしまっている」


 自分の至らなさを反省していると、エスティはクスクスと笑った。


「それは甘えてるんじゃなくて、って言うのよ。わたしたち、少しずつパーティーらしくなってきてるじゃない」


 甘えるではなく頼る。足りない部分を補い合う。

 エスティのその言葉は胸にくるものがあった。


「頼る、か。《リライ》はどうだろう。頼るという意味の言葉だ」

「どうってなにがだ?」

「クラン名だよ。俺はまだまだ未熟者。プッパは共に限界を超えるため。エスティは色々あって人間不信なところもあり、俺たち以外とのコミュニケーションが不得手。頼るというのは、俺たちに相応しいのではないだろうか」


 スッと入るような良い案が出せた。

 そう思っていたのだが、プッパは鼻で笑った。


「頼る? そりゃ強くなろうとしているブレイカーじゃなくて、戦えない弱いやつの言葉だろ。……だが悪くねぇ」

「最初から気に入ったっていいなさいよ。素直じゃないわね。わたしは賛成よ、サード」


 2人の同意を得られ、俺は高らかに宣言する。


「では今日この時より、我々のクラン名は《リライ》とする! よろしく頼むぞ!」

「バッ、おま、ここはダンジョンだぞ!?」

「ん? そんなことは知っているが?」

「大声で叫んだらモンスターが寄って来るって言ってるのよ! 指示でもそれくらい声を出しなさい! バカ! 逃げるわよ!」


 すぐにゴブリンの群れが押し寄せ、怒られながら走り、走りながら怒られる。

 なんともしまらないが、こういうのも決して悪くない。

 俺たち3人は《リライ》として、互いを頼って進むことを決めたのだった。

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