20話 明日倒すさ

 2回目。無属性の魔力の矢、《マジックアロー》を先に放ち、それを剣で防がせる。距離を詰め、突き出された槍を前と同じように盾で逸らす。最後に斧を剣で止めたのだが威力が高く、体勢を崩したところを、剣で喉を掻き切られて死亡した。


 復活し、倒れたまま頷く。


「斧が問題だな。あれは盾で防ぐしかない。ということは、槍を剣で弾けばいいのか? よし、それでいこう」


 立ち上がった俺を、エスティが呼び止める。


「回復速度の速さは理解したけれど、失った血液はどうなってるの? あの辺り真っ赤に染まったままだから、体に戻っているわけじゃないわよね」

「死に続けると、まず先に血液が足りなくなる。頭がクラクラしてくるのですぐ分かるからな。しかし、血液の量が多いのだろうか。困ったことはあまりないな」

「うーん、不死身についての解析はやっぱり必要ね。分からないことが多いわ」

「それは任せよう。では行って来る」


 2回目の良かったところは、《マジックアロー》で剣の動きを遅らせられたことだろう。

 もう一度再現しようと、同じ手順で進める。

 《マジックアロー》、剣で防がれる。槍を剣で弾く、失敗して足に刺される。斧を盾で防ぐ。

 しかし、次に繰り出された剣への対応が間に合わない。


「想定通りだな。《ファストスラッシュ》」


 ただ速く切りつけるだけのスキルだが、その用途は多彩。今回のように行動が遅れても、1度だけ取り戻せる。リキャスト時間も短いので、少し耐えればまた使えるのも利点だ。

 次は槍か、と盾を……構えられない。斧が押し付けられている。


「しまっ――」


 目が覚めると線の後ろにいた。槍で頭をぶち抜かれたことだけは覚えている。


「《マジックアロー》と《ファストスラッシュ》のリキャストは間に合っていない。《シールドバッシュ》で斧を弾くべきだったな」


 反省しながら立ち上がると、今度は笑っていないプッパが話しかけて来た。


「その仮面はどうなってんだ? 傷一つ無かったし、体の一部のようにちゃんとくっついて頭が再生されてたぞ」

「……そういえば必ず戻っているな。どういう仕組みなのだろうか」

「自分でもよく分からない物を着けてるの? 頭が痛いことをしてるわね」


 額に手を当てるエスティに、笑いながら答える。


「人生とは往々にしてよく分からないものだよ」

「人生の話はしてないわ。よく分からない物を身に付けるなって話をしてるのよ」

「……まぁ、それは確かにその通りだな。返す言葉がない」


 昔読んだ本に出てきたキザな魔法使いのように、それっぽいことを言えばどうにかなると思ったのだが、あっさりと見抜かれてしまった。ままならないものだ。



 それからも挑み続けていたのだが、魔力が先に尽きてしまった。

 手ごたえはあったのだが、武器の破壊にはもう少しの慣れが必要だろう。

 剣、槍、斧の連続攻撃。一本腕が多いというだけで、これほどまでに厄介だとは思っていなかった。


 しかし、もう一歩だ。手持ちのスキルと、自身の行動、相手への理解。それさえ進めば倒せるという自信はあった。


 ガラクタ騎士にやられ、目を覚ましたところで2人に言う。


「よし、今日はこの辺にしておくとしよう」

「さすがに初日で終わらせるのは無理があったな。まぁ、普通なら半年ほどで挑む相手だ。気にするこたねぇよ」

「情報を整理する必要もあるからな。さ」


 帰ろうと歩き始めると、すぐに驚いた様子でプッパが言う。


「断言するとはな。それだけ自信があるってことか」

「別に言うのはタダだからな。次がダメでもその次に倒せばいい。どうせ勝つまで挑むのだから同じことだ」

「勝つまで挑む、か。オレに足りなかったものかもな」


 ボソリと呟いたプッパは悔しそうな顔をしていたが、ポンッと背中を叩いてやる。


「過去のことを悔やむ必要は無い。これからは、俺と一緒に限界を超えて挑み続けるのだからな」

「いや、呟いてたの分かってるよな!? 聞こえなかったフリしとけ!」

「口に出した時点で構ってほしかったということだろう。俺はプッパのそういう素直になれないところも気に入っているがね」

「~~~っ」


 言い返すこともなく、顔を赤くしながらプッパは歩き出す。

 かわいいやつだと思っていたら、エスティが呆れた顔で首を横に振った。


「あのね。分かっていても口に出して言われたくないことっていうのが人にはあるのよ」

「本心を隠すより正しく伝えたほうが、お互いの関係は良好に進むのではないか?」

「……サードからは、変な女を引っ掛けそうな素質を感じるわ」

「誤解しないでもらいたい。俺が本心を可能な限り打ち明けているのは、エスティとプッパだけだ」


 相手はちゃんと選んでいるぞと、少しムッとしながら伝えたのだが、エスティはあうあうと口を動かしながら


「そ、そういうところなんだからね!」と言い残して、プッパを追いかけて行く。

 さっぱり分からなかった俺は、ただ首を傾げるしかなかった。

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