19話 ガラクタ騎士

《エヴァンジル》第一階層に通い始めて一ヶ月。

今日はここに出るネームドモンスター《ガラクタの騎士》に挑む予定だ。

 こいつに勝てればF級からE級に昇級できるのだが、今回は様子見らしい。


「俺は倒すつもりだがな」


 キリッと告げたのだが、2人はこちらを見てもいなかった。


「そりゃ災難だったな。だが、血には慣れてるだろ? 腕が飛ぶことだってあるんだしよ」

「モンスター相手で、ダンジョンとかクエストならね。でも今回は、普通の部屋の仲よ? しかも、自分で首にナイフを突き刺したのよ? 冷静さを失うのが普通でしょ」

「まぁ、そりゃそうか。だが、不死身ってやつについても調べたほうがいいのかもしれんな。エスティの話を聞く限りじゃ、回復魔法の効果が高いんだろ? そりゃかなりの強みになるからな」

「ここまで、サード自身の《ヒール》を成長させようと考えていたから、わたしが掛けたことは無かったものね」


 2人へ近づき、親指を立てながら言う。


「俺は倒すつもりだがな!」

「分かった分かった。今までは不死身ってやつに頼らないことを考えていたが、それもまぁ個性みたいなもんだ。活用することも考えていくか」

「楽しみにしてるわ。それで話を戻すけれど、わたしが回復して何度も突撃する。利点はあるけれど、欠点もあるわ。強くはなるけれど、経験とか技術の成長が遅くなるんじゃない?」

「そこだよな。うまく調整したいところだが、不死身を鍛えたことはねぇからなぁ」


 うーんと頭を悩ませる2人は、俺の話をほぼ聞いていない。

 しかし、俺の不死身をうまく使うことを考えてくれているので、邪魔をするわけにはいかない。師匠の相談に弟子が口を挟むわけにはいかないものだ。


 周囲の警戒をしつつ進むと、一際広い部屋へ辿り着く。先には黒い靄を発している、3本腕の黒い全身鎧のモンスター。手にはボロボロな剣と槍と斧。これが《ガラクタ騎士》か。


 もう少し近づいて確認しようとしたところで、プッパに肩を掴まれる。


「下に線が引かれてるだろ。こっから前に出れば襲ってくるってことだ。他のブレイカーに邪魔されることはないから安心して戦っていいぞ」

「もしかしてだが、予約がなんとかと言っていたのはそういうことか?」

「初心者卒業ネームドモンスター《ガラクタ騎士》。F級に留まるやつはほぼいねぇが、E級になる必須条件。取り合いがひどかったもんで、ギルドが予定を管理してるくらいだ」

「うーむ、義務的というか、風情が足りないというか」

「そう思えるのも、こいつを倒すまでよ。第一階層から下に行けば行くほど、死亡率は上がっていくわ。風情を気にするのは、倒せるようになってからにしなさい」


 エスティの伝えたいことは、倒したこともないやつが、倒した後のことを気にするなということだろう。

 それはごもっともと、俺は鞄を下ろし、アイテムなどの確認を始めた。


「俺が1人で戦うのか? なにを使ってもいいんだな?」

「本来はF級が数人で倒す相手だが、サードに関してはもう少し厳しくいかねぇとな。先を目指すなら、こいつくらいは1人で倒せ」

「多少の援護はしてもいいんじゃない? もう負けるとなったら《ヒール》を掛けるわ」

「相手は回復しないのに、こっちは回復してやるのか?」

「どうせからね」

「……まぁ、そうだな。分かった、負けたら回復してやる。仕切り直しだと思え」

「あぁ、了解した。だが良かったのか? ヒントを与えてもらったようだが?」

「へっ。それで気づけるなら、オレたちが思っている以上に、サードはやるやつだったってだけの話だ。頑張れよ、マスター」

「がんばってねっ」


 2人の応援を受け、一歩前に出て線を超える。

 瞬間、予想通りにガラクタ騎士は突進してきた。

 近づかれる前に一歩下がり、線の後ろへ戻る。

 ガラクタ騎士はピタリと止まり、元いた位置まで引き返していった。

 その場に屈み、ガラクタ騎士を見る。


「おいおい、ビビったのか?」

「観察しているのだよ。せっかく安全な位置が分かっているのだからね」


 距離を詰めてきたということは、恐らくは近接型。あのボロボロの剣、槍、斧を駆使してくるのだとすれば、その全てを防ぐのは難しい。

 相手は回復しない。普通ならば殴り続ければ勝てるということだ。


 しかし、そういう相手ではないとエスティは言い、プッパもそれを肯定した。


「つまり、なにかしらの行動を取らねば倒せぬということだろう。核があるのか? 人ならば頭か心臓。守ることを考えれば鎧の中」

「うんうん、しっかり考えてるわね。ちゃんと観察して見抜くことは、ブレイカーにとって大事な要素よ」

「しかし、相手はモンスター。2人の口ぶりからも予想外な何かを持ち合わせている。……なるほど、他に核があるのか。鎧には傷一つないのに、武器はボロボロに傷ついている。ミスリードを狙うモンスターである可能性が高いな」

「は? サード、今なんて言った? 別に核があるって言ったのか?」

「防げないと思わせるため、武器を3本持っているのだろう。ひたすら耐えて、剣と盾で弾く。相手の武器の耐久度が知りたい。まずはこれでいくとしよう」


 いくつか想定していた中の、もっとも可能性が高そうなものから試していく。

 1つ目は武器の破壊。


 行動が決まり、俺はまた線を超えた。

 真っ直ぐに突っ込んでくるガラクタ騎士。最初に繰り出されたのは予想通りに、一番射程の長い槍での刺突。

 ラウンドシールドの丸みで逸らし、距離を詰める。

 次に振り下ろされたのは斧。ショートソードで受けようと身構え――。


「ハッ!」


 体を起こすと、そこは線の後ろだった。ガラクタ騎士も定位置に戻っている。

 頭を斧でかち割られ、体を回収してくれ、《ヒール》をしてくれたというところか。


 ふと気づく。プッパはこちらを見ながらクツクツと笑っていた。


「いや、そうだよな。普通は三ヶ月から半年掛けるところに一ヶ月で来てんだ。あっさり負けんのが当たり前。これが普通だ」

「当たり前で普通なら笑うことはないだろ」

「その通りなんだがな。自信満々で挑んだから、もしかしたら勝つのか? とかちょっとだけ思っちまった」

「その期待は間違っていない。いずれ俺が勝つからな」

「あぁ、期待してるぜ」


 どこか楽し気なプッパは、少し安心しているようにも思える。

 不死身を目の当たりにしたことで、俺が化物だとでも勘違いしたのだろうか。

もしそうならば、1人で踏破しているのだがな。

 まだ笑っているプッパに1度肩を竦め、ガラクタ騎士への挑戦を再開した。

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