15話 ダンジョンへ挑む準備をしよう

 早速エヴァンジルへ挑み、戦力の強化を行っていく。

 ……などと思っていたのは俺だけで、今日は装備やアイテムを整えるために町へ繰り出していた。


「とりあえず、マスターであるサードの言う通りに進めてやる。最初の内はモンスターも弱いからな」

不死あれなタンクなのだから、かなり良いと思っているのだがね」

「タンクが崩れたらパーティーは崩壊する。ヒーラーが狙われればパーティーは崩壊する。アタッカーが敵を倒せなければ撤退する。これがブレイカーの基本よ」

「俺は1人でパーティー崩壊の危機を2つも救うということか」

「アホ。任せられねぇけど納得させるために、一応試させてやるって言ってんだよ」


 まだ1人良い案だと思いながら、呆れている2人とスキル屋へ入った。


「これとこれだな。買って来る」


 プッパ殿は事前に目的のスキルを決めていたのだろう。すぐに買い物を済ませ、俺たちは店を出た。

 次は装備ということで移動していると、彼から2冊の薄い本を渡される。


「《タウント》と《ヒール》だ。読めば使えるようになるが、今のサードの魔力じゃ2~3回ってところだろう。魔力が増えれば回数も増えるし威力も上がる。使えば熟練度も上がるが、まずはモンスターを倒して魔力を増やさないとな」

「熟練度が上がるのならば、外でひたすら練習すれば良いのでは?」

「魔力を10消費するヒールが使えるようになっても、元の魔力が1しかなかったら意味が無いでしょ」


 エスティに教えられ納得する。まずは魔力量を増やすことが第一の目的になりそうだ。


 武具屋へ入り、プッパ殿から手招きされる。

 彼は迷いなくショートソードとラウンドシールドを渡して来た。


「持ってみろ。どうだ」

「重いな」

「鍛えろ。それがギリギリの軽さだ。もっと軽いのからやってく時間がもったいねぇ。振ってみろ。握りに問題は?」


 特にないというか、むしろ今まで借り受けていた装備より握りやすい。

 経験則というやつだろう。こういった時間を手早く済ませられるのも、彼の実力ということだ。


「次は防具屋だな。アイテムはエスティに頼んである。行くぞ」

「これは手に持ったまま行くのか?」


 聞くと、持て余していたベルトが腰に巻かれ、鞘に入った剣が装着される。盾は腕に固定された。


「盾は鎧を着た後に着け直すからな。店までは我慢しとけ」

「うーむ、手際が良い。さすがだな、プッパ殿」

「後、そのプッパ殿ってのもやめろ。オレは仲間だが、マスターじゃない。周囲への示しってもんが必要なんだよ」

「了解した、プッパ。以後気を付けよう」


 呼び捨てにも新しい剣や盾にも慣れないが、直に馴染んでいくだろう。不自由に感じている間は、まだ未熟ということかもしれない。


 順調に思えた装備厚めだが、防具屋で全身鎧を装着させられていたとき、問題が生じた。


「どうして兜が全部入らねぇんだ? この面のせいか?」

「あの、お客様。面を外していただけますか?」

「それはできねぇ。兜はいい。額当てはどうだ? これもダメか。よし、頭装備は諦めた。盾で防げ」

「うむ、了解した」

「いえ、あの、タンク用ですよね? 兜は必要かと……」

「必要無い。悪いが、あの辺のも試させてくれ。値段は張るが、軽くて頑丈な素材だからな」


 事情を話せないこともあり、店員の話は流していく。プッパはこういったやり取りもうまい。頭の中にメモしておこう。


 いくつもの鎧を着て感想を伝えている中、ふとあることに気づいた。


「大変だ、プッパ。よく考えれば金が無い」

「そのことはエスティと話してある。オレたちが立て替えておくから、稼いだ分から少しずつ返せ」

「しかし、それは2人に負担をだな?」

「今さら負担を少し増やしたくらいで気にしてんじゃねぇよ。オレたちゃエヴァンジルを踏破すんだろ」


 プッパの言葉に俺は頷いたのだが、なぜか急に周囲がざわつき出す。

 嫌な目で笑っている。自分が嘲笑されているのだと、すぐに分かった。


「気になるかもしれねぇが言い返すなよ。オレたちゃまだなにも成していない。笑われるのは当たり前だ」


 無視すると決めているからか、プッパは涼しい顔をしている。

 彼の心中は分からないが、俺も倣うことにした。


「なに、すぐに分からせてやるさ。これもクソ食らえってやつだろ?」

「あぁ、そういうことだ」


 答えたプッパは、どこか楽しげに笑っていた。



 アイテムの買い出しを終えたエスティが合流したとき、ちょうど俺の装備も整ったところだった。

 彼女は唇に指を当てながら、俺の周りをグルリと回る。そして、笑いを堪えるような顔で言った。


「どっかの勘違いしたお坊ちゃんが、高価な装備でダンジョンに初めて挑むときみたいな見た目になったわね」

「それは、あまり似合っていないということか?」

「似合うようになるのは、それに傷や汚れがついてからよ。盾はタワーシールドじゃなくていいの?」

「筋力が足りねぇから邪魔になるだけだ。力がついてきたらタワーシールドに変えてもいいが……タンクを続けてたらの話だな」


 この装備を選ぶときに説明されたが、ショートソードもナイフか迷ったくらいで、なによりも自身の身を守れる取り回しが優先されたらしい。

 盾を構えながら槍などで攻撃する方法もタンクでは一般的だが、お前にはまだ早いと言われた。


 しかし、自分の装備というのは良い。

 鏡に映る自身を見ながら顔を綻ばせていると、プッパに肩を叩かれた。


「じゃあ、全部脱げ」

「うむ、分かった。他のを試すのか?」

「浮かれて話聞いてなかったな? サイズの調整をしてもらうんだよ。明日また取りに来るから、今日は《タウント》と《ヒール》を覚えておけ」

「それなら道すがらに読み終えておいたぞ」


 あぁ、とエスティが手を打つ。


「だからサードは色んな人にぶつかっていたのね」

「ちゃんと前を見ろ。じゃなくて、本当に読み終わったのか? 文字は理解できるようになったか? オレは結構時間かかったぜ?」

「よく分からん字だったが、見ているうちに読めるようになったな。本や日記を読む時間が多かったのでね。読みづらい字を読み解くのは割と得意なのだよ」


 スキルの説明を聞くに、最初は読めない文字なのだが、読み込むうちに理解が深まり読み解けるようになり、全部読み終えれば習得できているらしい。


「これならスキルの習得に掛ける時間は減らせそうね」

「いいことなんだが、すげぇいいことなんだが、納得できねぇ」


 自称普通の速度でスキルを習得してきたプッパは、どこか恨めし気に俺を見ている。

 口には出さなかったが、1つだけでも彼に勝てた部分を見つけられ、少しだけ嬉しい気持ちになった。

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