13話 A級もお金が無さそうだ

 自己紹介はF級の自分から先にするのが礼儀だろうと紹介を始める。


「俺の名前はサード・ブラート。よろしく頼む」

「僕はロウ・デュール。アマネセルのクランマスターをしている。よろしくね、サード」


 穏やかな笑顔を向けるロウに、俺も笑顔で聞く。


「それで、ロウ」


 彼の後ろにいる数名の目が険しくなった瞬間、エスティが口を挟む


「ロウさん! さんよ!」

「いや、僕も呼び捨てにしていたからね。ロウでいいよ」


 エスティはあわあわとしていたが、許可が出たので問題ない。

 話を戻し、改めて聞くことにした。


「それで、ロウの用件はなんだ?」


 彼は笑顔のまま1人の人物を指さす。

 先にいたのは、口を閉ざしていたプッパ殿だ。

 どうやら旧知の仲らしく、それで静かになっていたらしい。


「実は、プッパさんのことはずっとスカウトしていたんだ。断られていたけどね」


 ロウは困った顔で頬を掻く。


「君と組む話を聞き足を止めたんだが、彼の目に輝きが戻っているのにも気づいてね。それを見て、もう1度だけ声を掛けたくなってね」

「なるほど、そういうことか。どうするプッパ殿。俺から断ったほうがいいか?」


 ブッとプッパ殿は吹き出し、クツクツと笑い出す。

 なにか面白いことを言っただろうか?


「いや、サード。お前、マジでズレてるな。A級クランの中でも最上位の1つ、アマネセルのマスターから直々に誘われてんだぜ? ブレイカーとして、こんなに栄誉なことはねぇだろ」


 プッパ殿の言葉を聞き、ロウはパッと顔を輝かせる。


「なら――」

「――断る。悪いが、オレはサード・ブラートとやっていく。こいつがオレのマスターだ」


 プッパ殿の答えを聞き、ロウはしゅんとする。

 そしてチラリとエスティを見てから立ち上がった。


「ごめんね、邪魔をしちゃって」

「それは構わない。だが1つ聞きたいことがある。エスティはスカウトしなくていいのか?」

「え、ちょ、サード!?」

「先ほど彼女を一瞬見たな? 後ろにそれだけの綺麗どころを取り揃えているのだ。今さら相手を増やそうとは考えていまい。戦力として品定めをしたのだろ?」


 俺の言葉に、ロウは狼狽する。


「あの、ちょっと待ってくれる? ほらよく見てくれ。男性も女性もいる。彼らはクランメンバーで、色恋で集めたわけじゃないよ? その言い方だと、僕が女好きみたいになるからさ」


 言われてみればと反省し、素直に謝罪をする。


「それはすまなかった。ただ綺麗な人たちがたくさんいるので、そういう対象を増やしたいわけではないだろうと予測しただけのことだ。他意はない」

「うん、分かってくれたのなら大丈夫。恋人ができたこともないのに、変な噂が流れたらさすがに嫌だったからさ」


 後ろの数名がひどい顔をしているのだが、それはなぜだろうか。

 不思議に思いはしたが、どうでもいいかとロウに続きを促した。


「それで、なぜエスティには声を掛けなかった?」

「正直に言うと、僕は彼女の才能を買っていてね。引き入れたかったんだけど、ほら、噂とかで反対意見が多くて諦めたんだよ」


 また噂か、とウンザリしてしまう。

 暗い顔をしているエスティの背を、大丈夫だと軽く叩いてから、ロウに聞いた。


「引き入れたかったのならば、噂についてはしっかりと調べたのか?」

「え、どうだろう。深くは調査していないんじゃないかな」


 想定通りの答えを聞き、エスティを見る。


「悪い噂が流れ始めたのはいつごろだ」

「え? ……1年前くらい、かな」

「では、それより前に組んだやつの誰かが、エスティの悪い噂を流した可能性が高いということになるな」

「うん、そうだろうね。でも、クランによって在籍メンバーの数はまるで違う。調べる対象は100人を超えるだろう。労力や費用を考えれば、深く調査することは――」

「A級クランのA級ブレイカーとは、引き入れたいと感じた才能のために、たかだか100人も調査させないのか? あぁ、そうか。俺が思ってるほど金も力もないのか。それならば納得だ」


 ブレイカーもA級となれば金に困っていないと思ったのだが、クランの運用に掛かる費用も増えていくはずなので、そこまでお金が無いのかもしれない。

 うちも稼げるようになったら、金銭の運用に長けた人を雇ったほうがいいな。


 と、そこまで考えたところで気づく。

 ロウの後ろにいる数名と、少し離れたところから殺気を向けられていた。


 珍しく慌てているプッパ殿が、俺の胸倉を掴んでグワングワンと揺らす。


「バッ、おま、サード! いくらなんでも失礼だろうが!」

「失礼? 思ったことを口にしただけなのだが」

「いいか? 今サードは、A級クランのマスターであるロウ・デュールも大したことがないんだな、って喧嘩売ったのと同じだぞ!?」

「喧嘩は売っていない。ただ、A級でもお金には困っていて、大変なんだなと納得していただけだ」

「なら、そう言いやがれ!」


 ちゃんと伝わると思ったのだが、言い方が悪かったと指摘されている。会話とは難しい。本や日記の知識だけでは完璧に行えないものだ。

 とりあえず、プッパ殿がここまで言うのだから謝罪をしようと考えたのだが、先にロウが眉根を寄せながら口を開いた。


「サードの言う通りだね。僕はもっと動けた。耳が痛いよ」


 ほら、とプッパ殿を見たら睨まれる。

 そして、この空気から離れるべきだと、首根っこを掴まれ立ち上がらせられた。


「こいつの発言については謝罪する。後は聞かれたくない話をするから、場所を変えることになってたんだ。悪いな、ロウ」

「いえ、大丈夫です。それとエスティさん、あなたにも謝罪を。ちゃんと調査をせずすみませんでした」

「あ、あの、気にしてませんから」

「ずっと気にして――」

「気にしてません! 失礼します! ありがとうございました!」


 右腕をプッパ殿に、左腕をエスティに掴まれ、扉に背を向けた状態で連れ出される。

 出る直前でロウが小さく手を振っているのに気づき、俺も同じように小さく手を振り返しておいた。

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