十五話 【魔生獣?】

 王都に着いて騎士団にも顔を出し、本部の依頼をこなしつつ王都を観光しようと思っていたのだが……。


「ケンジ……、頭痛いです……」

 昨晩、葡萄酒を飲み過ぎて二日酔いを発症したエイルは宿のベッドから降りられず、今日一日は宿屋でおとなしくしてもらう事になった。

 レアはアルコールには強いのかすっかり元気なので、エイルの世話を頼んで俺は一人で本部へ行ってみる事にした。


「とりあえずガル本部に行ってみるか」

 一人でも出来そうな軽い依頼があればやってみるか。


「ミランさんこんにちは」

「あらケンジ君今日は一人?」

「はい」

「そうなのね……、二人ならこの依頼お願いしようと思ったんだけど……」

 依頼はオウダル草の採取。

「このオウダル草と言うのは?」

「それはね……、薬になる草なのよ……」

 歯切れが良く無いな。

「どのみち二人じゃないと危険だから今日はいいわ」

 せっかくの依頼だから受けたいけどな。


「なら僕と行きますか?」

 二階からマドルさんが降りて来た。

「マドルさん!」

「話しは聞かせてもらったよ。 どうかな? 僕となら行けるんじゃ無い?」

「マドルさん良いんですか? シルバーランクの依頼ですよ?」

 ただこの依頼報酬は高い。

 採取だけなのにな?

「ケンジ君が良ければ構わないよ」

 マドルさんがいればこの依頼も容易いだろう。

「お願いします」

 これで依頼を受ける事が出来た。


「では依頼の方お願いしますね」

 【オウダル草の採取 シルバーランク以上 報酬3600ジル】


 こうしてマドルさんとオウダル草の採取に向かった。


「場所は王都の東からしばらく進んだ森の中さ」

 マドルさんは場所を知っているのか、森の中をズンズン進む。

「そろそろだな。 これを飲んだいた方が良い」

 渡されたのは緑の液体が入った小瓶。

「これは? ポーションですか?」

「いや、一時的に臭いを感じなくする薬さ」

「臭いを?」

 なんだか嫌な予感がする。

「そう、オウダル草は引き抜くと臭い臭いを発するからね」

 マジか……。 それで報酬が高いのか?


「この辺りにあるはずだが……」

 流石エルフ、植物には詳しいな。

「う〜ん……、これは……」

 どうやらオウダル草があったようだけど……。

「デカっ!!」

 まるでラフレシアを更に大きくした様な花が咲いている。


「オウダル草ってあんなに大きいんですか?」

「いや、本来ならもっと小さくて簡単に採取出来るんだけどね……」

「とりあえず葉の一枚でも採取しましょう」

 俺がオウダル草に近づくと、葉が動き俺目がけて振り下ろしてくる。

「うわっ!」

 距離を取って様子をみる。


「これは……、やはり……」

 マドルさんはデカくなったオウダル草を見て何か考えている。

「マドルさん、どうしますか?」

「このままではこの辺りに採取に来る人が危ないから、二人で退治しちゃいましょう」

「わかりました」

 マドルさんが弓を構え、俺が剣を構えて近寄って行くと、オウダル草が地面から根を出し、抜け出て来た。


「ん!!」

 地面から出てきた途端、臭い臭いが辺りに充満し始める。

 肥やしを強くした様な臭いだ……。

 マドルさんからもらった薬を飲んでいてもキツイ。


 オウダル草は根を足の様に使い近づいてくる。

 俺は剣でオウダル草の根を斬り裂く。

 マドルさんは矢でオウダル草の本体を狙う。


「ケンジ君! 葉は切らないように気をつけてくれ!」

 そうか依頼のためか。

「わかりました!」

 オウダル草は葉を鞭のように使い攻撃してくる。


 葉の攻撃を剣で防ぐが別の葉に捕まってしまった。

「このっ!」

 締め付けられるが、俺が捕まっている葉にマドルさんの矢が命中し、助けられた。

「助かります!」

 地面に降り、すかさず本体を切る。

 その切り口にマドルさんの矢が突き刺さると、オウダル草は動かなくなった。


「なんとか倒せましたね……」

「ケンジ君のおかげさ」

 俺のおかげと言うが、採取が無く討伐だったらマドルさん一人でも、やすやすと倒せたのだろう。

「それじゃ採取しましょう」

 大きな葉を摘もうとした途端、この巨大なオウダル草は塵となって消えてしまった。


「え!? 塵になった……」

「やはり……か……」

 塵となった様子を見て何か考えている。

「マドルさんは何か知っているんですか?」

「そうだね……、本部に戻ったら話すとしよう」

 採取の依頼は出来なかったが仕方ない。 本部でどうなっているか聞いてみよう。


「ミランさん、依頼なんですが……」

 本部に戻り、中に入ってミランさんに報告をしに行く。

「あ、ケンジく……ん…………っ!! ちょ! ちょっと! 入口まで下がって!!」

「え? どうかしました?」

 マドルさんは普通にミランさんの前に行っている。

「におい! においが! 体を流してから来てーー!!」

 本部を追い出された……。

 自分の臭いはよくわからないし、まだ薬が効いてるのかも知れない。


 仕方ないから宿に戻って体を流して出直すか。


 宿までなんだか周りの人も変な目で見るし離れて行く……。

 そんなに臭い?


 宿の前まで来ると、宿屋の人が直ぐに出て来て風呂に案内され、直ぐに体を流すように言われてしまった。

 服もちゃんと洗うようにと。

 シャワーと石鹸で体を良く洗い、服も石鹸をつけて良く洗う。

 あ、替えの服が無い……。

 戻って来た事に気がついたレアが風呂場まで来てくれたので、レアに替えの服を借りて来て欲しいとお願いする予定だったが……。


「ご主人様戻って来たんですね、お背中流すのに私も一緒に入りま〜す…………フギャ!!」

 風呂の扉を開けた途端、レアは猫になって逃げて行ってしまった……。

 レアの着ていた服だけがその場に落ちていた……。


 レアから説明を受けて、二日酔いから復活したエイルが風呂場に来てくれるまで三時間、風呂場に取り残された……。


「まだ臭い取れませんね……」

「ご主人様……、今日は離れておきます」

 いつもはくっついてくるレアにも距離を取られ悲しい……。


 エイルが錬金術で臭い落としを作ってくれたので、だいぶマシになった。

 既に日も暮れてしまったが、本部に報酬を取りに行く。

 本部ではマドルさんとミランさんが話し合っていた。


「こんばんは」

「ケンジ君、もう臭いは……マシになったようだね」

「マドルさん酷くないですか?」

「ごめんごめん、まさかあんなに臭いが強いとは思わなかったんだよ。 普通はあそこまで臭くはないんだがね」

 どうやら俺がオウダル草の近くで戦っていた事、葉に捕まってしまった事で臭いが強烈に着いてしまったようだ。

 マドルさんは離れて戦っていたから臭いはあまり着いていない。

 これも戦い方なのか……。


「ケンジ君も来たので、あの事を話そうと思う」

「そうですね。 ケンジ君もまた戦うかもしれないですし」

「あの事?」

「そう、最近見た事の無い魔生獣が出て来ているだろう」

「確かに知らない魔生獣が現れてます」

 俺はまだ詳しくは無いけど、エイルが返事をしているのを見るとそうなのかも知れない。

「最近僕らだけじゃ無くて、世界各地で現れる様になってね」

「魔生獣は倒しても塵になって消えたりはしませんけど、あれは一体なんでしょうか?」

「まだわからない。 でも普通の魔生獣より強力な事は確かだ」

「これからも討伐依頼があると思いますが、気をつけてくださいね」

「わかりました」

「それでは、報酬です」

 マドルさんと半分にした1800ジルを受け取り、本部を後にした。


 いつもの店で食事をする事にした俺達が向かっていると、ミランさんが走って追いかけて来た。

「ケンジ君〜! エイルさん〜!」

 流石ガル本部の受付をやっているだけあって足が速い。

「どうしたんですか?」

「はあはあ……、たった今本部にこれが届いたの!」

 ミランさんに渡されたのは一通の手紙。

 その手紙は城から届いた物だと言う。

 どうやら俺達宛てとなっているそうだ。

「なんで城から?」

「わからないわ。 でもこの印があるから……」

 手紙の裏には蝋を固めたスタンプの後がある。

「その紋章は王家が使う紋章なのよ。 ガルとしては交流が無い訳じゃ無いけど、まさか名指して来るなんて初めてよ! だから急いで持って来たのよ」

「わざわざありがとうございます。 読んでみますね」

 手紙には招待状と手紙が入っていた。


「なんだか誕生祭の前日に城に来て欲しいと書かれていますね……」

「ケンジ君……、何かやった?」

「俺はなにもして無いですよ!」

 いや、もしかしてこの間、臭い臭いを撒き散らしたからとか?

 でも二人で来てくれと書いてあるしな。

 何故に呼ばれたかわからないけど、誕生祭前日はミランさんも城まで着いて来てくれると言うので、それまでは町の中でおとなしくしているようにとミランさんに言われてしまった。

 まだ王都内を見て回れていないし、丁度良いかもな。

 エイルとレアと相談し、城に行く日まで王都を見て回る事にした。

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