十六話 【謎の少女】

  誕生祭まで時間があるので、三人で王都の中を見て回る事にする。

 既に誕生祭に向けて城までの道なども装飾され賑わっている。


「この辺りもだいぶ賑わってるな」


  南地区にある宿屋を出た所から城までの道は出店が多く出ており人通りも多い。

 特に南地区は王都への玄関口な為に人の往来が激しい。


「もうすぐ誕生祭ですからね」

「ご主人様、向こう行ってみよ!」

 

 俺に引っ付いているレアは興味を示した方にすぐ行こうとする。


「ちょっと待って、引っ張らないで」

 

 レアに引っ張られて向かった先は肉の串焼きが売っている屋台だ。


「良い匂いですね~」

 

 匂いを思いっきり嗅いでお腹を鳴らすエイル。

 かすかにヨダレが出ているレア。


「…………、わかったわかった、買うよ」

 

 三人分より多めの串焼きを買い、東地区の公園で食べようと向かった。


「この辺で食べるか」

 

 公園の中、湖が見えるベンチにレアを真ん中に座り、買ってきた串焼きを食べようとする……と……。

 じ~~~~。


「…………」

 

 じ~~~~。


「え、えと……きみは?」

 

 じ~~~~。

「た、食べたいのかな?」

 

 俺の串焼きを指を咥えて凝視している少女。

 俺の質問にコクンと頷き答える。


「ケンジどうかしたの?」

 

 エイルが顔を出して俺の方を見ると、小さな少女が俺の方をじっと見ているのに気がついたようだ。


「可愛い~~!! どうしたのその子?」

「わからん。 どうやら串焼きが食べたいみたいなんだ」

 

 俺は持っていた串焼きを少女に渡すと、目を輝かせて食べ始めた。


「お嬢ちゃんはどこから来たの?」

 

 エイルはその子の隣りに座って話しかける。


「モグモグ……、あっち……」

「そうかぁ、あっちかぁ……」


 困った、よくわかっていないようだ。


「美味しかったーー!」

 

 レアは一人で三本平らげていた。


「その子はどうしたの?」

 

 串焼きを食べている少女を見てレアも不思議に見ている。

 少女はレアの猫耳がピコピコ動くのに気がついたようで、食べ終わった串を捨て、レアに飛びかかる。


「うにゃ! なに?なに?」

 

 少女はレアによじ登り、猫耳を優しく撫でている。


「この子迷子じゃないか?」

「多分そうでしょうね」

「やめるにゃーー!!」

 

 レアは少女を下ろそうと手を出すが、少女は機敏に動いてレアの手を躱す。


「親御さんを探しましょう」

「そうだな」

「ご主人様~~、この子降ろして~~」

「レア気に入られたな。 親御さんが見つかるまで我慢しててくれ」

「そんにゃーー」


 レアに肩車をされたまま少女の親御さんを探しに、公園の中を歩く。

 公園の中も誕生祭のせいなのか、騎士団の兵士も沢山歩き回っている。

 あ、ホンガンさんも走り回ってなんだか大変そうだ。

 挨拶だけしておくか。


「ホンガンさん、お疲れ様です」

「ん? おお、ケンジ殿か。 すまんが今急いでいるので失礼する」

「何かあったんですか?」

「それがな……、そうだ、ちと協力してくれないか?」

「協力ですか?」

「ああ、あんまり大きな声では言えないが、城か……ら…………あーーーー!! いたっ!!」

 

 ホンガンさんが指を刺したのはレアに肩車されている少女。


「探しましたぞ! さぁ、こちらへ!」

 

 ホンガンさんが手を伸ばすと、少女が泣き出してしまった。

 すかさずレアがホンガンさんから距離を取る。


「ま、待ってください。 この子がどうかしたんですか?」

「いや、これは失礼した。 この子を探していたのです」

 

 それからもホンガンが手を伸ばすと少女は泣き出してしまうので、レアに肩車されたまま説明してもらう。


「実は、この子は皇子の妹君でして、突然城を抜け出してしまって、探しておったのですよ」

「皇子の妹さん!」

 

 レアとエイルに遊んでもらって楽しそうな少女を見て、城の警備ザルだな……と思ってしまった。


「今は皇子の誕生祭で城もバタバタしていてな。 恐らく遊び相手がいなくてつまらなかったのかもしれん」

「それで勝手に抜け出した……と」

「うむ。 しかしケンジ殿で良かった。 急ぎ城に戻りたいのだが、わしではまた泣かれてしまうやもしれん。 一緒に城まで来てくれんか?」

「そう言う事なら仕方ないですね。 エイル、レアも良いかな?」

「もちろんです」

「この子が降りてくれるなら早く行きましょう」

 

 そしてホンガンさんに連れられ、城まで騎士団の護衛と共に向かった。

 騎士団が俺達を囲んでいるせいで、俺達が何かしたみたいに見られてない?


 白と青で造られた城にたどり着くと、ホンガンさんが入口の兵士と話しをし、城門が開かれる。


「すげ~~……」

「綺麗なお城ですね~」


 美しいシャンデリア、装飾品の数々、俺は初めて城に入る感動で思わず声が出た。

 

「それは嬉しいですね」

 

 奥にある豪華な階段を白いドレスを着た女性がゆっくりと下りてきた。

 ホンガンさんは素早くその場に伏せる。

 俺は思わず綺麗な人だなと、見惚れていた。

 エイルも見惚れていたようだが、我にかえるとすかさず伏した。


「ケンジ! その方は皇女様ですよ!」

「かまいません。 顔を上げて下さい」

 

 皇女様の許しが出たので、エイルは立ち上がるが、ホンガンさんは伏したまま顔だけ上げている。


「申し訳ございません。 妹君をお連れするのが遅くなりました」

「良いんですよ。 また勝手に城下に遊びに行ったのでしょう? 仕方の無い子ね。 さ、戻りますよ」

 

 皇女が手を伸ばすが、少女はレアから降りようとせず、しがみついてしまった。


「あらあら、よっぽどその子が気に入ったのね」

 

 クスクスと笑っている。


「仕方ないですね」

 

 レアは少女を掴み、ゆっくりと降ろし皇女に渡す。

 皇女は優しく抱きしめ、戻って行った。


「バ、バイバイ!」

 

 少女は皇女に抱っこされたまま、俺達に挨拶をしてくれる。

 俺達も「バイバイ」と挨拶をして、城を後にした。


「今日は協力感謝する」

 

 帰りがけホンガンさんにお礼を言われた。


「このくらいかまいませんよ」

「でも戻れてよかったです」

「もう揉みくちゃにされないので、せいせいしました」

 

 レアはもみくちゃにされた頭を治しながら言っているが、一番最後まで手を振っていたのを俺は見ていたぞ。

 後日お礼をと、ホンガンさんに言われたので、明日は兵舎に向かう事になった。

 その夜は珍しく文句も言わずエイルの抱き枕になったレアだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る