十話 【休息】

 緋燭ひしょくの塔で新しい仲間の【レア】を仲間にし、研究者のエイシスさんから新しい依頼【王都までの護衛】を受けた。


 旅の準備の朝、俺の横には人型となった裸のレアが眠って……いた。

「ふにゃ〜ん……ご主人様〜」

 レアはスレンダーボディとは言え、体はちゃんと女性だ。

 人型となったレアの顔は可愛いし……。

 そんな子が裸で俺の腕にしがみついている。

 布団をめくりたい衝動にかられながらも、反対方向を向くと、エイルが立っていた。


「コホン……」

「お、おはよう……ございます」


 レアは昨日買ったメイド服の様な服を着て食堂まで一緒に来た。

 着替えている間、俺は部屋の外へ放り出される。


 食堂で朝食を食べながらエイルが提案する。

「今度から部屋は別にします」

「そ、そうだな」

 俺も何も気にせず一人で寝れる方が良い。

「それじゃレアはご主人様と一緒に寝る」

「それがダメなんです!」

「なんでよ〜、レアはご主人様のサポートパートナーだぞ」

「それでもです」

 エイルの提案にレアは文句を言っている。


「ほら、レアは強いだろ? だから寝ている時にエイルが襲われないように守ってやってくれよ」

「う〜……、わかった……、ご主人様がそう言うなら……」

「よし、決まりね。 それじゃレア今日は一緒に寝ましょ」

 エイルもレアを嫌っている訳ではなく、むしろ好いている。

「それはイヤ!」

 レアに拒否されシュンとするエイル。

 レアもそのウチなれるだろう。


 相変わらず朝からがっつりと食べたエイルは道具屋、薬屋、武器屋とあちこち準備で回って行く。

 俺は武器屋のおじさんにレアに合う武器を見繕ってもらう。


「そのお嬢さんに合う武器か……。 お嬢さんのその耳、獣人かい?」

「獣人?」

「この辺りでは滅多に見ないが、北東には獣の都【アームダレス】と言う獣人の国があってな。 戦竜ドラグネス隊と言う世界最強の部隊があると言われていて、150年前のいくさでも大活躍だったって話があってだな……」

 急に早口になったぞ。

「それで…………っと、すまんすまん、つい夢中になってしまった。 で、お嬢さんに合う武器だったな」

 おじさんは短剣ダガー用のホルダーだけを出してきた。

「これはホルダーだけですか?」

 ホルダーに武器は付いていない。


「このホルダーは錬金術で作られたホルダーでな。 魔力が高く身体能力が高い者向けなんだよ」

「どう言う事ですか?」

「物は試しだ。 お嬢さん、このホルダーからそこの棚の上にある短剣ダガーを取るイメージで抜いてごらん。 もちろん魔力は流してな」

「??」

 レアは良くわかって無さそうだ。

 俺もよく分からん。


「試しにやってごらん」

 やってみなきゃわからないからな。

「こう?」

 レアがホルダーから何かを抜くと、手には棚の上に合ったはずの短剣ダガーが握られていた。

「どうなってんだ?」

「驚いたろう。 このホルダーは一種の転移魔法がかかっている。 更にサイズも使用者に合わせて変わる。 抜く事が出来るサイズは短剣ダガー位まで、転移距離は数ラーダだけとなるがな」

 ラーダ? この世界の距離の単位か?

 でもこれは姿が変わるレアには丁度良いかも知れない。

 使い方は練習だな。


「良いですね。 これをください。 おいくらですか?」

「そうだな。お得意さんだし、金払いも良い。 負けて6300ジルでどうだ?」

「高い!」

 俺の剣とえらい違いだ。

「そりゃ錬金術で作られた一品物だからな。 これでも負けてますよ」

 ……、レアの為だ……。

 俺は値切り、6000ジルで購入した。


 レアはホルダーを太腿に巻いて着けると、スカートの影に隠れてちょっとした隠し武器みたいになった。

「良いじゃ無いか」

「ご主人様ありがとうーー!!」

 レアは勢いよく抱きついて来る。

「店を出たら元の猫に戻ってくれないか?」

「えー! つまんない」

 レアはしぶしぶ猫に戻った。


 小さな猫の姿に変わると、ホルダーのサイズも変わり腿に着いている。

「動きにくくないか?」

「大丈夫です。 改めてありがとうございます」

 レアは丁寧にお礼を言ってくる。

 この性格の変化には、なかなか慣れないな……。


 次は投げる物を買わないといけないが……。

 もうお金無いから、護衛の仕事が終わったら買ってあげよう。


 買い物が終わったエイルと合流し、依頼とは別にポーションの素材を町の外まで取りに行く事になった。


「それで、ケンジの方はどうだったんですか?」

「これを見てくれ」

 俺はレアを肩から持ち上げると、腿に着いているホルダーを見せる。

「なんですかこれ? 何か錬金術で作られた物のようですが?」

 さすが 錬金技巧術士アルケミスター、見てわかるとは。


「これは近くにある小型の武器を取れるホルダーだよ」

「それ凄いですね!」

 驚いてるな。

「ご主人様、それでは説明不足かと……」

「そう? まあ使ってみてのお楽しみって事で」

「見たいです。 レア、使ってもらえませんか?」

 レアは俺に確認する。 もちろん構わない。

「では……」

 レアは猫の柔らかい体を曲げてホルダーから何かを口に咥えて取り出す。

 それは俺が持っていた短剣ダガーだ。

「凄い! 凄い!」

 エイルは軽く拍手をしている。

「何で俺の短剣ダガーを?」

「ご主人様がしまっている場所はわかりますからーー!!」

 俺に説明している時に、エイルに持ち上げられ、抱きしめられている。

「離してくださいーー!!」


 レアは散々もふられてから降ろされると、エイルと俺に「こんな事も可能です」 とホルダーから取り出し渡してくる。


 白い生地で、レースが入っている。 紐の先にはフックが付いている……。

「これって……?」

 もしかして……。

 エイルもそれを見て、自分の胸の部分を触って確認している。

「あ……あ……」

「エ、エイル……、これ、返すね……」

 エイルにそれを渡そうと手を伸ばすと、エイルは頬を膨らませ、耳まで赤く染め、涙を溜めて睨んでくる。

 俺から素早く奪うと、木の裏に行ってしまった。


「レア、やりすぎだぞ」

「申し訳ありません。 ちょっとやり過ぎでしたね。 反省します」

「ちゃんと謝っておけよ」

 俺もレアの飼い主として謝らないとな。


 エイルが戻ってくると、レアと一緒に謝る。

 もちろん直ぐ許してくれるが、レアにはもふる事を許してくれる事、俺は食事を奢る事で手を打ってくれた。

 俺だけひどく無いか?


 薬草や毒消し草、薬になるキノコなども採取する。

 その間はレアが大きな猫になり、周りを警戒してくれているので採取しやすい。

 採取が終わり、町に戻ったら早速食事に向かう。


 食堂に向かうとガル支部の受付嬢のミリムさんとばったり会った。

「あれ? エイルちゃん達もこれから食事ですか?」

「はい。 良ければご一緒しませんか?」

「良いですよ」

 ミリムさんと一緒に食事する事になった。


 丁度空いていた席に座ると、レアの方を見てミリムさんが聞いてくる。

「そちらの方は?」

 レアには食堂に入る前に人型になってもらっていた。

 人型になったレアは相変わらず俺に抱きついている。

 そりゃ不思議に思うよね。


「えと、こちらはレアって言います。 新しい仲間です」

「レアでーす! ご主人様のパートナーでーす!」

 元気良くミリムさんに説明するが、言っちゃいけない事言ってるよね。

「ごしゅ……。 ケンジさんってそう言う……?」

 あ、ちょっと引かれてる。

「違います! 違います! レアがそう言っているだけです!」

「……本当ですか? 何か怪しいぞ。 エイルちゃん、本当?」

「一応……」

「ふ〜ん……。 それで、レアちゃんもガルになるの?」

「私はご主人様のパートナーなので、ガルになるつもりはありませーん!」

「そうなんだ。 でも何でケンジさんの事をご主人様って呼ぶの?」

「それはレアのご主人様だからです」

「そ、そうかあ……」

 説明になっていないな。


 運ばれて来た食事の量はエイル特大、ミリムさん大、俺中、レア小と言った所だ。

 この世界の女性は良く食べるのか、俺が人造人間だから食べる量は少ないのかわからないな。

 そして約束通り、エイルとレアの食事代を奢り、お世話になっているミリムさんの食事代もおれが持つ事になった。

 俺の財布は完全にすっからかん……。

 依頼頑張ろう。


 ミリムさんには食事代のお礼を言われ、別れて宿に戻る。

 朝、部屋を別にすると言われたが、俺がすっからかんな事を聞いたエイルは今回だけと、一緒の部屋に寝かせてもらう事になった。

 その代わり、レアには猫のままでいる事と、エイルと一緒に寝る約束をする。

「あったか〜い。 もふもふ〜」

 レアは大きな猫になり、エイルに抱きつかれ若干嫌がりながら抱き枕のように抱きつかれたまま眠る事になる。

 レア、我慢しろよ。

 そして明日旅立ちか。 ちょっと楽しみでワクワクして寝られない。

 転生前はこんな事はなかったのだけど、これが異世界効果なのかも知れない。

 ワクワクを抑えながら、目を瞑り明日に備えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る