十一話 【旅立ち】

「さあ参りましょうか」

 王都までエイシスさんの護衛の任務が始まる。

 と言っても獣車での移動だから楽ちん。

 獣車の運賃はエイシスさんが別途で支払ってくれているので、お金が無い俺も獣車に乗る事が出来ている。


 この獣車、荷物の運搬にも使われるので速度は出ない。

 でもゆっくりと景色を見ながら行くのも良いもんだ。


「天気が良くて良かったですね」

「ええ、まったく」

 エイルとエイシスさんが日向ぼっこしているお年寄りみたいになってるな。

「ベイルの町まで一日程なんですよね?」

「そうですね。 このまま何も無ければですが」

 何事も無ければ……か……。 フラグにしか聞こえないけど……。


 ガタガタと半日程揺られると、突然獣車が止まる。

「何事ですか!?」

「ま、魔生獣です!!」

 やっぱりか!!


 獣車より降りると、前を真っ黒の体毛に身を包んだ俺の身長を優に超える熊の魔生獣が塞いでいる。

「魔生獣【シールドベア】です! 攻撃力が高いです! 気をつけて!」

「運転手そんとエイシスさんは下がって!」

 俺とエイルは獣車を背にし、臨戦態勢をとる。


「エイルは二人を頼む。 俺はこいつを何とかする」


 剣を片手に斬り込む。

 腕に当たるも、体毛が硬く刃が通らない。

「なんだこいつ! かてえ!」

「シールドベアはその名の通り、盾のように硬い毛皮と皮膚を持っています!」

 シールドベアの力も強く、爪を剣で防ぐが獣車まで押される。

「ケンジ!」

「大丈夫……だ」

 振り上げた爪を躱すが、獣車の車輪が壊されてしまう。


「こいつ……」

 何度も斬り込むが、こちらの剣の刃が欠けていく。

 こう言う時、狙うは目だ!

 俺の身長より高い場所をどうやって狙うか……。


 俺が考えながら戦っていると、突然シールドベアの片目に短剣ダガーが突き刺さる。

 シールドベアは絶叫を上げる。

 短剣ダガーが飛んできた方向にはレアが人型になり、獣車の上に乗っていた。

 俺の短剣ダガーを抜き取って投げたのか。

 助かる。


 (ほう……)


 レアはエイシスさんに見つからないように直ぐに獣車の後ろに隠れる。


 シールドベアが痛みで暴れている。

 暴れている隙を見つけ、剣をシールドベアの口に突き刺し押し込んで、シールドベアは倒れた。


「ふう……。 皆んな大丈夫か?」

「私は大丈夫ですよ」

「私も大丈夫です。 ケンジは大丈夫ですか?」

「ああ……、だけど、獣車が……」

 獣車は車輪の軸まで壊されてしまっている。

「これはここでの修理は無理ですね」

 運転手さんは獣車の状況を見て提案してくる。


「一度ガッドレージへ戻りますか?」

「ケンジどうしようか?」

「そうだな……、ベイルまではどの位ですか?」

「う〜んそうだな……、歩きで大体一日かからない位かな?」

「それでは先に進みませんか? 戻っている時間も惜しいですし」

 ……エイシスさんの提案で歩いてベイルに向かう事になる。


 俺達の荷物は殆どエイルの鞄に入っている。

 エイシスさんの荷物も中くらいのリュックに入っている。

 獣車を引いていた魔生獣に乗って、運転手さんはガッドレージへ戻っていった。

 獣車が使えないなら、運転手さんを守るのも大変だからな。


 しばらく道を歩いて進む。


 エイルのお腹が鳴った所で休憩だ。

「またシールドベアの様な魔生獣が出るかも知れない。 警戒だけはしておこう」

「それじゃお願いします。 私はご飯の準備しちゃいますね」

「それじゃ私はお茶の用意でも……」

 緊張感が……。


「ご主人様、私が周りを見て参ります」

 レアは俺のそばに来ると小声で話す。

「助かる。 それと、さっきは助かったよ」

「いえ、私はご主人様のサポートする事が仕事ですから」

 レアは少し先を見に行った。


「さ、出来ましたよ〜」

 食事の用意が出来たようだ。

 干し肉と細かく切った野菜を入れたスープとパン。

「美味しいですよ。エイルさん」

 エイシスさんの食べる量は俺と同じくらいだ。

 もともと細身だから、食べる量も少ないのかも知れない。

 そしてエイルは相変わらずの食べっぷり。

「ふう〜……。 食べた食べた。 あれ? レアは?」

「レアならちょっと向こうの方に行ったけど、もうすぐ戻ってくると思うよ」

「レアと言うのはあのネコの事でしょうか?」

 エイシスさんが指を指し示した方からレアが歩いて戻って来た。

「片付け終わったら進みましょう」

「そうですね。 早めにベイルに着きたいですから」

 エイシスさんと、エイルは片付けを始めた。


 レアは俺の肩に乗り、見て来た事の報告をしてくれる。

「ご主人様、この先に山賊がおります」

「山賊!?」

「はい。 道を外れた崖の洞窟に数名いるのを見ました。 準備をしていたので、恐らく襲ってくるかと」

「そうか、対策を考えないとな」

 魔生獣の次は山賊かよ……。

 今までと違って【人間】が相手か。 話し合いで解決すれば良いが……、無理だろうな……。


 エイルには山賊がいる事を教え、準備をしてもらう。

 エイシスさんには魔生獣がこの先も出るかもしれないので、身を守って欲しいと伝えておく。

 エイルに小型爆弾コロボムを一つもらって準備する。

 万が一山賊が襲って来た時、多勢に無勢とならないように交渉決裂したら直ぐに使うためだ。


 そして道を進む。

 道の先には十人程の人が武器を抜いたまま立っているのが見える。

 なりがもう山賊なんだよな。


「おい、止まれ」

 一人の山賊が声をかけて来る。

「何でしょう?」

 とりあえずしらばっくれて返事をしてみる。

「見りゃわかるだろ。 金と荷物全部置いて行くか、命を置いて行くか選びな」

「ひい! こ、これで……」

 エイシスさんはあっさりと金と荷物を差し出す。

「待って下さい。 私達はエイシスさんの護衛ですよ。 山賊なんて私が懲らしめます」

「ほー、勇ましいな姉ちゃん。 あんた達もしかして【ガル】か? とは言え二人じゃこの数に勝てんだろ。 なかなか良い体してるあんたももらう。 売ったら良い金になりそうだ。 男二人は金と荷物置いたら帰って良いぜ」

「ふざけるな!」

 話し合いなんて最初から無理だったな。

 先手必勝!

 小型爆弾コロボムを山賊が集まっている場所に投げる。


 爆発と共に数人の山賊が吹っ飛ぶ。

「な! やりやがったな!!」

 山賊が向かってくる。

 残りは五人か。

 今まで戦って来た魔生獣に比べたら大した事は無い。

 俺は二人を倒し、エイルは一人を何とか倒す。

 俺に向かって来たのは山賊のカシラだろう。

 持っている武器が違う。


「ケンジ! その武器魔導法術機ガルファーが付いてます!」

「なに!」

「気がついたか、せっかくガキから貰ったんだ。 使わせてもらうぜえ!」

 山賊は魔導法術機ガルファーを発動させると、刀身が火に包まれた。

「おらあ!」

 剣の扱いはめちゃくちゃだが、火を纏った刀身が地面に当たると、地面が焦げる。

 振り回してくる剣をボロボロの剣で鍔迫り合いにもって行こうとしたが、俺の剣は折れてしまった。

「くっ!」

「ははあ!! 死ね!!」

 俺は折れた剣を直ぐに手から離し、バランスを崩した山賊の顔面を思いっきりぶん殴った。

 山賊は吹き飛び気絶したようだ。

 山賊のカシラを、残っていた山賊は抱えて逃げて行く。

「追いますか?」

「いや、先を急いだ方が良いだろう」

 山賊のカシラが落として行った魔導法術機ガルファー付きの剣をもらって置く。


「やったねケンジ! 魔導法術機ガルファー付きの武器なんて結構珍しいよ」

 そんな珍しい武器を山賊なんかが持っているなんて……。

 から貰ったと言ってたな……。

 気にはなるが、早くベイルに向かおう。


 また山賊が襲って来ないとも言えない。

 警戒はしておこう。

「レアも警戒を頼む」

「はい。 お任せください」

 ベイルまでは少し早歩きで向かう。


 魔生獣除けの外灯が見えて来た。

「見えました」

 やっとベイルに着いた。

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